第23話 EP05-02 魔城の前庭

 ドーナツでたとえると、ドーナツのあなが、人間にんげん安全あんぜん生活圏せいかつけん内地ないち』。ドーナツが、侵攻しんこうしてくる魔物まもの人間にんげんあらそう『外地がいち』。ドーナツの外側そとがわが、やみつつまれた魔物まもの領域りょういき魔界まかい』である。

 だから、『外地がいち』のわりには、『魔界まかい』との境界きょうかい左右さゆうてなく、てんにもとどやみかべがある。


 魔王まおう居城きょじょうもくされる岩山いわやまが、そのやみかべ手前てまえにある。しろとはっても、外観がいかん岩肌いわはだしかない岩山いわやまである。とがった岩山いわやまをたくさんたばねたみたいな、刺々とげとげしいをしている。


 その岩山いわやまふもとひろがるのが、『魔城まじょう前庭ぜんてい』。かえされる大規模だいきぼせんにより荒野こうやしたくさ一本いっぽんすらえない、武器ぶきよろい金属片きんぞくへん木片もくへん戦争せんそう残骸ざんがい無数むすうころがる広大こうだい平地へいちだ。


「あれ! 魔王まおうじょう?! なまはじめてたぜ!」

 薄曇うすぐもりのそらしたとおくにえる岩山いわやまながめる。『死者ししゃ墓地ぼち』ともばれる戦場せんじょうまえにしてるのに、テンションががる。


 オレのは『新実にいみ 健二けんじ』。内地ないちでは、中学ちゅうがく二年生にねんせいの、ごく普通ふつう男子だんしだが。外地がいちなら、少女しょうじょ武器ぶきのこしたつよ記憶きおくたたか魔法まほう使つかい『心剣士しんけんし』だ。

 防具ぼうぐは、無難ぶなん軽装金属鎧ライトアーマーか、奮発ふんぱつして防弾ぼうだん素材そざいのプロテクターもかんがえたけど。オレのたたかかたてきうごやす重視じゅうしで、いつもの中学校ちゅうがっこう制服せいふく半袖はんそでのワイシャツにくろのスラックスにくろのスニーカーにした。

 たくさんの大人おとな堂々どうどうじれるセンスの私服しふくは、……かった!


「ワタシは、一度いちど下見したみてるから。二度にどだけど?」

 美月みつきもテンションたかめの口調くちょうで、マウントをってきた。

 美月みつきは、くろ半袖はんそで軍服ぐんぷくくろのミニスカート姿すがただ。戦闘員せんとういんじゃないし、オレとおなじくうごやす重視じゅうしだろう。


 二人ふたりともテンションがたかいのは、学校がっこう夏休なつやすみに入ったからである。

 夏休なつやす最高さいこう! 素晴すばらしき解放かいほうかん! 早起はやおきの心配しんぱいをしなくていい!

 長期ちょうき休暇きゅうかは、傭兵ようへいバイトのかせどきでもある。学生がくせいバイトの増加ぞうか見越みこして、大規模だいきぼ作戦さくせんえる。

 有象無象うぞうむぞう学生がくせいバイトがえたとして、戦力せんりょくになるのか? っていうと、なる。つよ魔法まほう使つかえれば学生がくせいでも即戦力そくせんりょくになるし、ほかにも治療ちりょう手伝てつだいとか物資ぶっしろしとか、たたかえない学生がくせいでもできる、外地がいちでは人手ひとでたよるしかない作業さぎょうやまほどある。


最大さいだい戦場せんじょうってだけあって、ひとおおいなぁ」

 オレはいあがった心地ここちで、人間の軍こっち全容ぜんようまわした。

 いたはなしでは、十万人じゅうまんにん規模きぼたいらしい。よこなが隊列たいれつんで横陣おうじん展開てんかいはしとおい。

 ゲシュペンスト騎士団きしだん一万人いちまんにん、『ユーナベルム戦場せんじょう』のときの十倍じゅうばいいる。騎士きし兵士へいしもほぼ歩兵ほへい、はわらない。

 大規模だいきぼせんだけあって、戦馬せんばまたが騎兵きへい一団いちだんと、おおきな荷車にぐるま馬車ばしゃ随行ずいこうする。この規模きぼになってしまうと、どんなかんじの戦闘せんとうになるのか、バイト傭兵ようへいのオレじゃ想像そうぞうもつかない。不謹慎ふきんしんながら、ワクワクしてしまう。


健二けんじ、キョロキョロしてて大丈夫だいじょうぶ? 準備じゅんびできてる? 作戦さくせんかってる?」

 美月みつき心配しんぱいされてしまった。

武器ぶきは、たくさんあるぜ。ぐんってすごいな。『少女しょうじょつよ記憶きおくのこした武器ぶき』なんて難題なんだいを、簡単かんたん調達ちょうたつしてくれるんだからな」

 オレは、こしのベルトにさがる十本じゅっぽん武器ぶきらした。一本いっぽんは、愛妹あいまい護剣ごけん小剣ショートソードのこ九本きゅうほんも、『少女しょうじょつよ記憶きおくのこした武器ぶき』だ。


   ◇


作戦さくせんは、確認かくにんしてないぜ! 現場げんばながらおしえてもらおうとおもって!」

 オレは、キメがおこたえた。

「……そんなことだろうとおもったわ」

 美月みつきが、あきれたでオレをつめた。


 魔物まものは、荒野こうやに、たくさんいる。おおすぎて、魔物の軍あっちまん単位たんい、くらいまでしかからない。どいつもこいつも勝手かってままに、ウロウロと荒野こうやあるきまわっている。


 魔物まものとは、人間にんげんころそうとする、人間にんげんてきだ。

 人間にんげんとはことなる姿形すがたかたちで、最大さいだい特徴とくちょうあたまつのである。一本いっぽん根元ねもとから一本いっぽんつのびるひとつのから、一本いっぽん根元ねもとからつの六股ろくまたかれたつのまでいる。つのかれがおおいほどつよい。


 ひとつのは、人型ひとがたちかい。ハゲでせてはらた、手長てなが短足たんそく赤銅色しゃくどういろのオッサン、みたいなのヤツが一般的いっぱんてきだ。えず個体数こたいすうおおい、とにかくおおい。

 ふたつのは、人間にんげんよりおおきく、人間にんげんけもの中間的ちゅうかんてき形状フォルムをしてる。これまた、たくさんいる。

 つのも、視認しにんできるだけで十体じゅったい以上いじょういる。ふたつのよりもさらにおおきく、形状フォルムけもの四足よんそく歩行ほこうちかい。

 つのは、巨大デカくてつよい。三体さんたいいる。巨大きょだいなハゲあたまけた大口おおぐちとカエルのうしあしライクな二本にほんあしだけのヤツ、六本ろっぽんあし巨大きょだいトカゲ、っぱじょう突起とっき無数むすうえた触手しょくしゅがたくさんまとまり樹木じゅもくのように屹立きつりつした巨大きょだい触手樹しょくしゅじゅ


 つのは、『ヴォモス』一体いったいですらヤバかったのに、あれクラスが三体さんたいもいる。しかも、そのうち二体にたい意味いみ不明ふめいすぎる。


「うわぁ……。あれは気色悪キショいな。テンションが一気いっきがるな」

 おもわず、率直そっちょく感想かんそうくちた。


 いつつのは、『魔将軍ましょうぐん』とばれる。確認かくにんされている『魔将軍ましょうぐん』は四体よんたい

「この『魔城まじょう前庭ぜんてい』をまもる『魔将軍ましょうぐん』は、最凶さいきょう最悪さいあくひょうされる『冒涜者ブラスフィ』よ」

 美月みつき説明せつめいしながら、双眼鏡そうがんきょう戦場せんじょうまわす。

「いたわ! 触手樹しょくしゅじゅ根元ねもとのとこ。てみて」

 華奢きゃしゃが、双眼鏡そうがんきょうしてきた。オレはって、われた地点ちてんた。


 ……いた! 瞬間しゅんかん理解りかいした。『魔将軍ましょうぐん』だ。

 サイズは、人間にんげんわらない。暗緑色ダークグリーンちかけたローブをまとう。かおえて、ひとちかいけどひとじゃない、ファンタジーな表現ひょうげんをするなら亜人種あじんしゅの、ミイラみたいなちかけた土色つちいろかおをしている。

えた。あれは、ぐんいて気色悪キショいな」

冒涜者ぼうとくしゃ。あれが、このなにもない平地へいち難攻不落なんこうふらくにしてる元凶げんきょう、っていたわ」

 美月みつきが、又聞またぎきのはなしを、いかにも経験者けいけんしゃですってかお説明せつめいした。


   ◇


 横陣おうじんまえを、って、騎乗きじょうした騎士きしける。

全軍ぜんぐん! 隊列たいれつととのえよ! 作戦さくせん開始かいしする!」

 開戦かいせんげる伝令でんれいだ。いよいよ、作戦さくせん開始かいしだ。


 騎士きし兵士へいしたちが、あわただしくうごはじめる。装備そうび最終さいしゅう確認かくにんし、整列せいれつする。

 騎士きし重装金属鎧ヘビーアーマー兵士へいし軽装金属鎧ライトアーマー武器ぶきは、大剣グレートソード長剣ロングソード戦斧バトルアックス、クロスボウ、等々などなどたけほどある大盾タワーシールド騎士きしもいる。


 緊張きんちょうかん一気いっきす。武者震むしゃぶるいか、ふるえる。


新実にいみくん! ワタクシのライバルさん!」

 小柄こがら少女しょうじょ騎士きしが、あか重装金属鎧ヘビーアーマーをガチャガチャとらしてはしってきた。

「レサリアさん!」

 オレは、ビックリしてった。

美月みつきです……」

 美月みつきさみしげにった。


開戦かいせんまえにと、挨拶あいさつにきてさしあげましてよ」

 自信家じしんか高慢こうまん御嬢様おじょうさまってかおが、興奮こうふんあからむ。レサリアにとって、騎士きし昇格しょうかくしての初陣ういじんである。

「かなりヤバい戦場せんじょうっていてるけど。ロゼリア騎士団長きしだんちょうさんが、よく許可きょかしてくれたな?」

「ワタクシの騎士きしとしての矜持きょうじを、なみだながらにうったえましてよ」

 レサリアが得意とくいげに、自己じこ陶酔とうすい口調くちょうこたえた。

 オレは、いて駄々だだねたんだな、とロゼリアに同情どうじょうした。レサリアって、わるひとじゃないけど、そういうとこあるよな。ともおもった。


「またのちほどですわ! ご一緒いっしょに、戦勝せんしょうをおいわいいたしましょう!」

 レサリアが、りながらガチャガチャとはしった。

 きゅうきゅうって、旋風つむじかぜみたいな絶壁ぜっぺきだ。レサリアって、そういうとこあるよな、とおもった。


   ◇


『ウボォーーー!!!』

 荒野こうやに、魔物まものどもの咆哮ほうこうとどろく。

 まん単位たんいでいるひとつの魔物まものが、あるきまわるのをやめて、ねている。ねて、頭上ずじょうてのひらわせる。着地ちゃくちおとと、てのひらわせるクラップおんが、無数むすうひびく。


はじまるわよ」

 広大こうだい戦場せんじょうに、荒野こうやからえるみたいに、無数むすうつち人形にんぎょうちあがった。つち人形にんぎょうはどれも、あたまつのがあった。

魔物の軍あっちのボス『冒涜者ブラスフィ』は、んだ魔物まものつのからつち人形にんぎょうつくるわ。だから、冒涜者ぼうとくしゃ。ゴーレムかゾンビかはからないけど、てき戦力せんりょく無尽蔵むじんぞうっておもったほうがいいから」

「……おいおい? 本気マジか、そりゃ?」

 はじまった。どうやら、オレがおもってたよりはるかに、最悪さいあくにヤバい戦場せんじょうのようだった。



心剣士

第23話 EP05-02 魔城まじょう前庭ぜんてい/END

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