第19話 EP03-07 絶壁のレサリア

 オレのは『新実にいみ 健二けんじ』。外地がいちなら、少女しょうじょ武器ぶきのこしたつよ記憶きおくたたか魔法まほう使つかい『心剣士しんけんし』だが。内地ないちでは、中学ちゅうがく二年生にねんせいの、ごく普通ふつう男子だんしだ。


 レサリアの騎士きし昇格しょうかく試験しけんは、ロゼリア騎士団長きしだんちょうたすけがはいったあと大変たいへんだった。つの魔物まものをサクッと討伐とうばつ、とはいかなかった。


 オレと美月みつきとレサリアの三人さんにん一緒いっしょくい短剣たんけんにぎって、つのそうとして、一回いっかいすだけで数十回すうじゅっかいいた。つの消滅しょうめつまでに、何回なんかいいたことか。


 途中とちゅうで、美月みつきが、『うんわるおんなでごめんなさい……』とかむし。つよ魔物まものほど貫通率かんつうりつひくくなるのだろう、って推測すいそく納得なっとくしてもらうまでなだめたり。


 それでも色々いろいろ無事ぶじわって、今日きょうはレサリアの合否ごうひ発表はっぴょうである。


   ◇


 場所ばしょは、『内地ないち』の役所やくしょ現代げんだいてきなビルの一室いっしつ


 オレは、平日へいじつ放課後ほうかご中学校ちゅうがっこうから直接ちょくせつたから、中学校ちゅうがっこう制服せいふく半袖はんそでのワイシャツにくろのスラックスにくろのスニーカーである。


 いかにも執務室しつむしつってかんじの、ゴツいつくえやデカい本棚ほんだな立派りっぱ戸棚とだながある。全体的ぜんたいてきあかっぽいデザインだし、赤薔薇レッドローズ騎士団きしだんよう部屋へやだとおもう。


 キョロキョロと部屋へやまわしながら、オレと、美月みつきと、レサリアの三人さんにんつ。


「ワタシがばれる意味いみが、からないのだけれど」

 美月みつきは、内地ないちでは普通ふつう中二ちゅうに女子じょしだ。からだ華奢きゃしゃで、ピンクがみのショートヘアで、とし相応そうおう可愛かわいくも、しんつよそうな凛々りりしい顔立かおだちで、こえんでたかい。

 美月みつきも、中学校ちゅうがっこう制服せいふく女子じょししろ半袖はんそでブラウスにくろのプリーツスカートにくろのスニーカーである。


「ゲシュペンスト騎士団きしだん美月みつきさんにまで、経過けいか結果けっかおしえてくださいますのは、功労者こうろうしゃ一人ひとりはんじましての心遣こころづかいでしてよ。ロゼリア伯母様おばさま感謝かんしゃしてくださいませ」

 レサリアは、赤髪あかがみロング縦巻たてまきロールの、クラスメートの女子じょしである。小柄こがらで、からだうえからしたまでほそくて、自信家じしんか高慢こうまん御嬢様おじょうさまってかおをしてる。中学校ちゅうがっこうの、家名かめいままとおした制服せいふくしろ半袖はんそでブラウスにあかのプリーツスカートにあか革靴かわぐつである。


 ギィときしんで、木目もくめ模様もようとびらひらいた。あかいドレスの、たかおんなあらわれた。


   ◇


「おたせいたしましたわ」

 ロゼリアが、精悍せいかんこえ入室にゅうしつした。


 ロゼリアは、高名こうめい大騎士団だいきしだんひとつ、赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん騎士団長きしだんちょうである。肩書かたがきけない迫力はくりょく威圧感いあつかん実力じつりょくがある。

 たかく、赤髪あかがみロング縦巻たてまきロールで、化粧けしょうあつく、あかいドレスをまとう。


 ドレスは派手はでなデザインで豪華ごうかな、……これがわったら舞踏会ぶとうかいでもあるのだろうか? 公務こうむよう仕事着しごとぎ?、まさか私服しふく普段着ふだんぎ?、いやいやいや、まさか。


 三人さんにんとも、緊張きんちょうして整列せいれつし、直立ちょくりつして、敬礼けいれいする。

「レサリア以下いか三名さんめい! 御命令ごめいれいしたがい、出頭しゅっとういたしましたわ!」

 ロゼリアも敬礼けいれいこたえる。

「よろしくてよ。スケジュールがまっておりますので。早速さっそく、レサリア見習みなら騎士きし騎士きし昇格しょうかく試験しけん合否ごうひ発表はっぴょういたします」


 レサリアも、オレも緊張きんちょうする! レサリアの極限きょくげん緊張きんちょうが、バクバクの心音しんおんが、となりってるだけでつたわってくる。オレもおなじくらい緊張きんちょうしてる!


 レサリアにはもうわけないが、あの試験しけん結果けっか合格ごうかくい。合格ごうかく条件じょうけん『レサリアが魔物まものうごきをめる』が達成たっせいできなかったからだ。つの猛攻もうこうくっしなかった、と口添くちぞえはしたけど、ソレとコレとはまたべつはなしだ。


結果けっかは! …………………………不合格ふごうかく!」

 ながめがあって、ロゼリアが非情ひじょう現実げんじつげた。

「っ?!」

 レサリアが、おおきなショックをかおした。みださないのは、予想よそうできていて、覚悟かくごしていた、ってところか。


 し。といたいところだが。

 そもそも、『ひとつの魔物まもの一体いったい討伐とうばつする』試験しけんだった。前提ぜんてい条件じょうけんが『数十体すうじゅったいひとつの魔物まものひきいるつの魔物まもの』になってしまった時点じてんで、試験しけん無効むこうになるべきだ。騎士団きしだん情報じょうほう調査ちょうさ不足ぶそく原因げんいんなら、尚更なおさらだろう。


「と、なりますところですが!」

 ロゼリアが、精悍せいかんこえくつがえした。


 そう、こなくっちゃ! 不合格ふごうかくじゃなくて、さい試験しけん妥当だとうだ。レサリアに、再度さいど機会きかいあたえられてしかるべきだ。

 レサリアなら、つぎ試験しけんかならずや合格ごうかくする。レサリアは騎士きしになるに相応ふさわしいと、オレが保証ほしょうする。


状況じょうきょうかんがみまして! レサリア見習みなら騎士きし騎士きし昇格しょうかく試験しけんは! 合格ごうかくといたしますわ!」

 ロゼリアが、精悍せいかんこえ宣言せんげんした。


「……ありがとうございます! ロゼリア伯母様おばさまっ!」

 歓喜かんきかんきわまったレサリアが、ロゼリアにきついた。

「おめでとう! レサリアちゃんっ!」

 ロゼリアもうれしげにきしめかえした。


「いやいやいや! それはあますぎじゃないっすか?!」

 オレは、おもわずこえた。

 さい試験しけんならかるけど! 合格ごうかくって?! 結果けっかせてないのに合格ごうかくって?!


「!!!」

 厚化粧あつげしょうロゼリアのペイントみたいなアイシャドウと外装がいそうみたいなマスカラに、クワッ、とにらまれた。

 あっ、ちっ、ちがっ、ちがうんです!

くちびるあま果実かじつみたいにプルルンとしてキュートっすね!」

 動揺どうようのあまりくるまぎれののがれがこえた。


「……かっていただければ、よろしくてよ」

 ロゼリアが、満足まんぞくげにうなずいた。


「おめでとうございます、レサリアさん」

「おめでとう、レサリアさん」

 納得なっとくしづらい部分ぶぶんはあるけど、オレも異論いろんはない。レサリアは、騎士きしになるに相応ふさわしい。あたらしい騎士きし誕生たんじょうを、いま素直すなおいわおう。


   ◇


 あさ教室きょうしつに、美月みつきはいってくる。

 クラスメートは、ゲシュペンストのおそれて、美月みつきける。

 オレは、期待きたい不安ふあんかかえながら、自席じせき美月みつき見守みまもる。



「あ、あの……」

 美月みつきが、まようように、レサリアにちかづく。


 なにまよう!?


 レサリアは、いつものきの女子じょし二人ふたりに、騎士きし昇格しょうかく自慢話じまんばなしをしてる。一人ひとり高身長ノッポ一人ひとり太めポッチャリ以外いがい特徴とくちょうのない、普通モブ女子じょし生徒せいとである。


 美月みつきが、躊躇ためらいがちに、こえをかける。

「あ、あの、レサリアさん……」


 なに躊躇ためらう!?


 ちからわせて、たがいの人生じんせいのターニングポイントをえたのだ。すでに親友しんゆうっても過言かごんではない。『ともだちになってほしい』、と正面しょうめんから突撃とつげきしてなん問題もんだいもない。


 けっした美月みつきが、緊張きんちょうあかかおで、レサリアのまえつ。

「ワ、ワタシとっ、とっ、ともだっ」

「いらっしゃいましたわね、美月みつきさん!」

 ってましたとばかりにレサリアが、清々すがすがしいほどにたいらなむねって、高笑たかわらいする。

「おーほっほっほっ、よろしくてよ! ロゼリア伯母様おばさまが、『ゲシュペンストのむすめは、かなりの策士さくしでございました』とおっしゃっていましたの! えぇ、えぇ、かっておりましたとも、美月みつきさんを、ワタクシのライバルとみとめてさしあげますわ!」

「……え? あ、あの……?」

 美月みつきが、困惑顔こんわくがおをした。

「ワタクシ、赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん未来みらいちょうと。美月みつきさん、ゲシュペンスト騎士団きしだん未来みらいちょうと。生涯しょうがいけまして、切磋琢磨せっさたくましてまいりましょう」


 あちゃ~~~、親友しんゆうじゃなくて、ライバルのほう分岐ぶんきしちゃったか。レサリアって、わるひとじゃないけど、そういうとこあるよな。とおもった。

 美月みつきにはもうわけないが、オレには見守みまもるしかできない。あねてき心情しんじょうは、こういうとき無力むりょくだ。


「い、いえ、そうではなくて」

 困惑顔こんわくがお美月みつき言葉ことばを、レサリアの二人ふたりさえぎる。

「ちょっと、美月みつきぃ! レサリアさまみとめてくださってるのにぃ。そのテンションのひく反応はんのうはぁ、失礼しつれいじゃなぁいぃ?!」

「そうよそうよっ! レサリアさま感謝かんしゃしてっ! いてよろこびなさいよっ!」

 二人ふたりとも、ゲシュペンストのせいおそれをなして、レサリアのちいさな背中せなかかくれていた。


 自称じしょう鉄壁てっぺきのレサリア』。クラスでの愛称あいしょうは『絶壁ぜっぺきのレサリア』。

 いずれかならず、あまねく『鉄壁てっぺきのレサリア』とうたわれるような、偉大いだい騎士きしとなるのだろう。


 さてき、どうやら、美月みつきともだちができるのは、まだまださきだな。と、オレは達観たっかんした。あねてき心情しんじょうで。



心剣士

第19話 EP03-07 鉄壁てっぺきのレサリア/END

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