第17話 EP03-05 森のヤギさん

 オレのは『新実にいみ 健二けんじ』。内地ないちでは、中学ちゅうがく二年生にねんせいの、ごく普通ふつう男子だんしだが。いま外地がいちにいるから、少女しょうじょ武器ぶきのこしたつよ記憶きおくたたか魔法まほう使つかい『心剣士しんけんし』だ。


 レサリアの騎士きし昇格しょうかく試験しけんで、平和へいわ農村のうそんちかもりひとつの魔物まもの討伐とうばつする。簡単かんたんだとおもってたけど、ひとつのとの初戦しょせんはレサリアの完敗かんぱいである。


 レサリアは、初戦闘はつせんとう混乱しパニくっただけだ。ひとつのおさえる実力じつりょくくらいあるはずだ。防御ぼうぎょタイプ魔法まほう使つかいで、あの赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん所属しょぞくして、見習みなら騎士きしをしてるのだから。


ひとつのもりおくげちゃったけど。どうする? 今回こんかいは、棄権リタイアしてもどろうか、レサリアさん?」

 地面じめんすわんで涙目なみだめでオレをあげるレサリアに、つかったつく笑顔えがおいた。


 レサリアは、赤髪あかがみロング縦巻たてまきロールの、クラスメートの女子じょしである。小柄こがらで、からだうえからしたまでほそくて、自信家じしんか高慢こうまん御嬢様おじょうさまってかおをしてる。

 赤薔薇レッドローズ騎士団きしだん見習みなら騎士きしにして、自称じしょうするは『鉄壁てっぺきのレサリア』。あか重装金属鎧ヘビーアーマー細身ほそみまとい。あか金属籠手ガントレット直径ちょっけいいちメートルほどのあか円盾ラウンドシールドにぎる。


 レサリアが、涙目なみだめのまま、きそうなこえこたえる。

「そのように、ぐすっ、悠長ゆうちょうにしましては、むらかたに、さらなる被害ひがいてしまいましてよ。ぐすっ、げた魔物まものいますに、まってますわ」

「そう、こなくっちゃな! 流石さすが騎士きしさまだ!」

 オレはおもいっきりあかるいこえで、レサリアにべた。

 レサリアは、あか金属籠手ガントレットでオレのつかんで、ちあがった。


 レサリアは、自信家じしんかで、高慢こうまんで、えらぶって、ままで、けずぎらいで、そして、根性こんじょうがある。


   ◇


大丈夫だいじょうぶ。すぐいつける」

 オレがまえって、げたひとつのう。

 木々きぎあいだってもりおくったけど、膝丈ひざたけくらいのくさしげってるから、らしたとおみち一目ひとめかる。

「ぐすっ……」

 レサリアはまだ涙目なみだめで、おびえるようにキョロキョロと、周囲しゅういばかりにする。円盾ラウンドシールドが、小刻こきざみにカチャカチャとふるえる。金属長靴ヘビーブーツ躊躇ちゅうちょがあって、なかなかまえすすまない。

 はつ実戦じっせんこわおもいをしたから、仕方しかたないか。


 コツン、とあしなにかがたった。くさむらに、果実かじつようだろう、ちいさなナイフがちていた。

 オレは、ひろおうと前屈まえかがんで、躊躇ためらう。


 オレが『心剣士しんけんし』の魔法まほう使つかえるとかるから、たぶん、農村のうそん少女しょうじょ最期さいごにしていたナイフだ。それをにぎると、その少女しょうじょ最期さいご見届みとどけることになるだろう。

 これもまた、『心剣士しんけんし』の魔法まほういところである。


 え~い、し! もしも遺品いひんなら放置ほうちもできない。


 ナイフをひろった。少女しょうじょ記憶きおくえた。

 オレたちよりすこ年下としした地味じみ作業着さぎょうぎで、かみうしろでたばねて、つちよごれて、農村のうそん少女しょうじょだろう。

 強烈きょうれつ恐怖きょうふ必死ひっしげる。くと、魔物まものを、絶望ぜつぼうで、あげる。


 ……本当マジか?! ひとつのじゃない! ちがう!

 大きデカ魔物まものが、赤一色あかいっしょく丸目まるめで、うえから見下みおろす。はだ赤黒あかぐろ短毛たんもうおおわれ、逆関節ぎゃくかんせつ二足歩行にそくほこう前傾ぜんけいして、四足よんそくけものちか体躯たいくで、背中せなかりあがる。かくばったひたいには、一本いっぽん根元ねもとから三股みつまたかれて、ゆるがったつのがある。


 つのだ。美月みつきむらおそった、また、コイツだ。


 ゴツッと、ひづめいしむようなおとがした。くもかげって、もり雰囲気ふんいき陰鬱いんうつわった。いつのにか、とりさえずりも、セミのこえも、えていた。

 これは少女しょうじょ記憶きおくじゃない! オレの現実げんじつだ! ヤバい!

「レサリアさん! 防御ぼうぎょ!」

 オレはあわてて指示しじした。

 バゴンッ!!!、とすご音量おんりょうくだけて、木片もくへん散弾さんだんみたいにそそいだ。


   ◇


 オレは、すべての木片もくへんけた。少女しょうじょがナイフにのこしたつよおもいで、オレ自身じしん加速かそくした。


 突進とっしん頭突ずつきでくだいたつのが、直前ちょくぜんまでオレのいた位置いちける。くさらしながらけ、頭突ずつきで、ゴズンッと、またすごおとべつ衝突しょうとつして、まる。おおきくれて、みどり何枚なんまいう。


 つのだ。体高たいこう大人おとな数倍すうばいちかくで、じっくりると、ちょう大型おおがた赤黒あかぐろいヤギがちょうマッチョで半端はんぱ二足歩行にそくほこうになったかんじだ。

 ヤギってくと牧畜ぼくちく風景ふうけいかぶけど、ちがう。コイツは、ヤギのバケモノにもり遭遇そうぐうしたけいの、ホラー映画えいがでありそうなシーンだ。


 つの突進とっしんルートにいなかったレサリアも無事ぶじ呆然ぼうぜんとするレサリアの金属肩当てショルダーいて、つのからはなれる。周囲しゅうい視線しせんはしらせると、木々きぎあいだに、数十体すうじゅったいひとつの包囲ほういされてる。


 ヤバい、どうする? どうする? どうする?


 このかず蹴散けちらすには、武器ぶきい。オレ一人ひとりなら防御ぼうぎょしながらでげられるけど、レサリアまではまもりきれない。

 リヒトとゲシュペンスト騎士団きしだんれなかった魔物ヤツだから、あま対処たいしょかえしのつかない結果けっかにもつながる。


 かんがえろ! かんがえろ! かんがえろ!


 ……よし! めた!

 オレは、レサリアのかたさぶる。

「レサリアさん。オレがひとつのたおしながら、二人ふたり一緒いっしょむら方向ほうこう撤退てったいするぜ。レサリアさんは、つの相手あいてをしてくれ」

 これしかない。

「あれだけ大きデカおとがしたから、あっちでも異変いへん気付きづいてるはずだ。絶対ぜったいに、たすけにてくれる」


 蒼褪あおざめたレサリアが、オレをかえる。

「で、ですが。このひろもりで、ロゼリア伯母様おばさまがたが、ワタクシたちをつけてくださいます保証ほしょうは……」

 オレは、右手みぎてにぎくい短剣たんけんをチラとて、確信かくしんこたえる。

大丈夫だいじょうぶ絶対ぜったいつけてくれる。オレが保証ほしょうする」


 時間じかんかせぎだけなら、このとどまって防御ぼうぎょ専念せんねんって手段しゅだんもあるけど。

 ……いな無理むりだな。てきかずがいて、突出とっしゅつして強い三つ角ボスもいる。あの戦力せんりょくなら、防御ぼうぎょしかできない相手あいてくずかたなんて、いくらでもある。


 蒼褪あおざめたレサリアが、まえを、つのほうく。背中せなかただけでかるほど、ふるえている。

 レサリアは、自信家じしんかで、高慢こうまんで、えらぶって、ままで、けずぎらいで。


 レサリアが、りょう金属籠手ガントレットをあげる。カチャカチャとふるえるてのひらを、ジッとつめる。りょう金属籠手ガントレットで、パァンッ、とちいさなりょうほおる。


 そして、根性こんじょうがある。


新実にいみくんしんじますわ! つの魔物まものは、おまかせくださいませ!」

 レサリアが、数歩すうほまえした。あか重装金属鎧ヘビーアーマーをガチャリとおもらして、あか円盾ラウンドシールド金属肩当てショルダーしにかまえた。


 ちいさな背中せなかに、最早もはやふるえも気後きおくれもない。

 レサリアが気後れしビビったのは、初戦闘はつせんとうだったからだ。てきおおいとかつよいとか、そんな程度ていどごしになるような半端者はんぱものではないのだ。


まかせた! 後退こうたいする歩数ほすう指示しじするから、のがさないようにたのむぜ」

 オレは、レサリアにまかせて、退路たいろふさひとつのどもを見据みすえた。美月みつきりたアーティファクトのくい短剣たんけんがあれば、ひとつのごとき何体なんたいいようと楽勝らくしょうだ。


 さっきひろったナイフは、……少女しょうじょおもいは使つかたしてしまったからてる、とはいかないか。遺品いひんかもれないし、放置ほうちはできない。


 オレは、ナイフをこし革袋かわぶくろおさめた。むらもどったら、関係者かんけいしゃさがしてかえそう。これも、『心剣士しんけんし』のたまれないところだ。



心剣士

第17話 EP03-05 もりのヤギさん/END

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