第6話
「(つまり……俺は三森さんに唯一、信頼してもらえたってことか)」
学校一の美少女の高嶺の花に、唯一、信頼してもらえるなんて。
少し、鼻が高い。
すると、三森さんは改めて話を始める。
「ですから、月城さん……何か、お礼をさせてください」
「え……でも――」
俺は、三森さんの目に強い意志が籠っていることに気づく。
断っても、引いてくれそうにはないな。
困った、どうしようか。
「(ここで、何かを頼んだとしても……それはまるで、弱みに漬け込んでいるようで気分が悪いんだよな)」
せっかく、信頼して貰っているのだから、あまりそういうことはしたくない。
そもそも、彼女に頼むようなことはないのだが。
俺が、必死に考えた結果――
「じゃあ、一回、ご飯を奢ってくれないか?」
考えついたのは、そんな普通すぎる言葉だった。
「そ、それでいいんですか? 本当に?」
「ああ……もしかして、他のことの方が良かったか?」
「い、いえ……月城さんがそれで良いのでしたら、そうしましょう」
三森さんは少し困惑しながらも、そう言った。
何か、変なことを言っただろうか?
いや――
「(あれ? ご飯を奢るってつまり――一緒にご飯に行くってことか)」
男女二人でどこかへ出掛けて、ご飯を食べる。
あ、あれ? やってることがカップルと何も変わらなくね?
「え、えっとぉ……」
「どうしましたか?」
「……いや、なんでもないよ」
流石に、ここで取り消すのは流石に不自然だよな……。
ま、まあ……さっきも一緒にご飯を食べたわけだし、あまり、気にすることじゃないだろ。
うん、そう信じよう。
「では、日程はどうしますか?」
「俺は、この三連休中は予定ないから、いつでもいいぞ」
「そうでしたか。では……私も明日は空いているので、明日にしましょう」
「了解」
「それと……一緒にどこかへ出かけるのですから、念の為、連絡先も交換しておきませんか?」
「へ……?」
「もしも、急用が入ったり、事故で行けなくなった場合、連絡できないと困るでしょう?」
何か問題でも? と言いたげに、三森さんは小首を傾げる。
「(問題も問題、大問題だろ! だって……あの『月下美人』の連絡先だぞ?!)」
学校には一つの噂があった。
男女関わらず、学校には、一人も、三森さんの連絡先を持っている人はいないという噂が。
「俺なんかが、いいのか? だって……三森さんって、あんまり、人と連絡先を交換しない人だろ?」
「まあ、普段は交換する必要がありませんからね。でも……今は違うでしょう?」
「そ、そうか……」
俺が気にし過ぎなのか。
そうして、SNSの友達欄には、家族に続き、『三森星那』という名前が追加されるのであった。
……うん、何回見ても、信じられない光景だな。
「月城さん」
「ん?」
「明日は、ご飯を食べるだけ、なんですか?」
「うん、その予定だけど……」
「そうですか……でも、ご飯を食べるためだけに集まるってなんだか、味気なく無いですか?」
「た、確かに」
よく考えれば、ご飯を一緒に食べるだけ、っておかしいな。
普通は学校の帰りにご飯を食べたり、遊びの途中でご飯を食べるはずだろ?
失敗したな……。
すると、三森さんは話を切り出した。
「実は、私、行きたいところがあるんです。……でも、一人ではあまり、勇気が起きなくて。宜しければ、少し付き合っていただけませんか?」
「まあ、明日は一日中暇だからな……喜んで同行させてもらおうかな」
「ありがとうございますっ!」
三森さんは嬉しそうに笑みを浮かべる。
まさか、三森さんの家にお邪魔するだけではなく、一緒に出かける約束をすることになるなんて。
……あれ? やってることがカップルと変わらないような気がするんだけど……?
き、気のせいだよな?!
――――――――――――――――――――
「ふぅ……」
翌日。
俺は、待ち合わせ場所の最寄り駅へ降り立った。
「(あの『月下美人』と出かけることになるなんて……予想以上に緊張するな)」
俺は、心を落ち着けると、待ち合わせ場所へ向かう。
とはいえ、まだ、約束していた時間の30分前なので、まだ緊張するには早い……はずだったのに。
「み、三森さん?!」
待ち合わせ場所には静かにたたずむ三森さんの姿があった。
その姿に、俺はつい見惚れてしまう。
理由は、彼女の私服にあった。
夏らしい白いワンピースに身を包み、右手には小さな鞄。
本当にシンプルな服装だが――だからこそ、その服装が、三森さんの美しい容姿という素材を引き立てていた。
「月城さん、こんにちは。待ち合わせの時間よりだいぶ早いですね」
「それは三森さんの方こそ。……ごめん、結構待ったか?」
「いえ、私もさっき来たところですよ」
三森さんは少し恥ずかしそうに――
「実は家族以外の人と遊びにいくことがほとんど無くて……緊張して、こんな早い時間に来ちゃったんですけど」
そう言った。
「そうなんだ……」
「月城さんは一体どうしてこんなは早い時間に?」
「実は、俺も緊張してたら早くに家出ちゃってさ」
すると、三森さんは、くすりと笑う。
「ふふっ、私たち……少し似ているのかもしれませんね」
「そう……かな?」
あの三森さんと俺では、高嶺の花と雑草くらいの差があると思うけどな……。
でも、あの三森さんも緊張することがあるのか。
俺は、彼女の新たな一面を見つけられた気がした。
「(それはそうと……)」
俺は彼女の服をじっと見つめる。
女子と一緒に出かけた時って、例え相手が恋人でなくても、服装を褒めたりするべきなんだっけ?
「そんなに見つめて、どうかしましたか?」
「い、いや……三森さんの私服、凄く似合ってるなって思って」
「っ?!」
三森さんの頬は、少し赤く染まっていた。
あ、あれ……? なんか俺、口説いてるみたいじゃね?
「あ、いや……一応言っておくけど、これには、別に特別な意味はないぞ? 本当に似合ってるって思ったから、本音を言っただけで……」
「そ、そうですか」
三森さんの頬はさらに赤く染まる。
あれ……? もしかして逆効果だった?
「あの……その、私、純粋な褒め言葉にはあまり、慣れていなくて」
そっか、てっきり、俺は三森さんは褒め慣れていると思っていた。
しかし、彼女は下心からではない褒め言葉に離れてないのか。
「なんだか、申し訳ないことをしちゃったな」
「いえ、私は……嬉しかったですから」
彼女は、小さく微笑んだ。
『月下美人』みたいな高嶺の花のような微笑みではなく、ひまわりのような温かな微笑み。
それに、つい、俺は目を奪われてしまった。
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