八王子市空間異常検出事件

壊れたガラスペン

第1話 StCST:朽葉主任調査員の記録

 時空間因果律研究開発機構、通称StCSTスティクスト。僕はそこに属する主任調査員だ。

 StCSTの情報部門調査部は右往左往と忙しく様々な職員が動いていた。


朽葉くちば主任。長野空間観測センターと因果律観測センターからの情報は未来予測センターによって裏付けられました」


 嫌な情報が裏付けられてしまった。

 八王子市という市が東京都に存在する。多摩地域南部に存在する東京最大の面積を持つ市だ。高尾山という自然や都会的利便性、そして学園都市という側面を併せ持つ、東京でも重要な地域でもある。そんな市に対して長野空間観測センターと因果律観測センターの観測員が八王子市転移を検出してしまったのだ。そして、その情報がたった今、未来予測センターによって確定してしまったのだ。

 八王子市転移の被害想定を行うが、それは甚大なものになる。果たしてどうするべきなのか。


「超事調整委員会に報告を行います。文書をまとめてください」


 僕がそういうと、慌ただしく動く職員が次々と文書をまとめて持ってくる。電話の受話器に手を伸ばす。


「こちら、StCSTの朽葉です。緊急に報告したい案件があります。時間を空けておいてください」


 超事調整委員会 特殊法人課 連絡室に電話を入れた。これは早急の案件だ。そう判断して連絡をした。


「朽葉主任、こちらで以上となります」


 そう言って部下が最後の書類を持ってきた。それら文書をまとめてバッグに詰め込み急いで外に出た。車に乗り込んで急いで霞が関を目指す。さてこれは間に合うのか。


———


 超事調整委員会 特殊法人課 連絡室。特殊法人をまとめ上げる超事調整委員会のホットラインを担う部署だ。僕は霞が関のそこへ駆け込んだ。室長室は四方に観葉植物が置かれた研究室っぽい質素な部屋だった。室長のデスクに僕は持ってきたバッグをドンと置く。


「室長。バッグ内の書類を読んでください。重大事案です」


 少し慌てていた僕は押し付けるように文書類を取り出し手渡す。


「簡潔に説明します。StCSTは八王子市全域の空間転移を観測いたしました。未来予測によって裏付けもされております」


 室長は僕の言葉に慌てて読み出した。そして受話器を手にとるとどこかへ電話をかけた。


「確かにこれは重大事案だ。上に持って行く。専門家として君もついてきてくれ」


 室長の言葉に僕は頷く。よかった、すぐに上に持っていってくれるようだ。室長は書類をまとめて持っていく。僕もそれについて行った。

 超事調整委員会・第一会議室。そうプラカードがぶら下げられた部屋内部は重役が揃っていた。各職員の前には三角席札で役職が記されている。


「それで、本当なのか。八王子市が転移するかもしれないとは」


 僕は第一会議室の輪っか状のテーブルの真ん中におり、そして最も上座に座る事務総局審判官にそう問われた。


「はい、“かも”ではなく本当です。未来予測で裏付けられております。そして、これは一年以内に発生すると確定されております。早急に対処すべき事案だと思います」


 事務総局審判官は悩むような素振りを見せたあと、危機管理課の課長へ視線を向けた。


「危機管理課長、被害想定は出ているか」


「すでに算出しています。都心からも近く、多摩地域の学園都市として学生や研究者が多数おり、損害は甚大です。ここは国家連携課を主軸に対応すべきであると提案します」


 事務総局審判官はすでに選択を決めているようだ。


「国家連携課 地方自治連絡室および特殊法人課 協力司令室へ連絡を。地方自治連絡室には東京都へ万が一への避難場所の確保を、協力司令室には特殊法人に協力させ、空間転移安定化を急がせるように。そして朽葉主任、君には最適な選択を選びたまえ」


 重要な案件を任されてしまった。これは、僕の人生史上最も重大な事案になるだろう気がした。

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