捨てられ姫と黒猫ケダマの冒険譚

新川キナ

第1話 島流し

 今。私の目の前にはオーガすら裸足で逃げ出す勢いで怒る男が居る。


「ただ喋るだけの猫しか使役できない無能者め! 我が一族の恥を晒しおって! これが私の娘かと思うと恥ずかしくて祖に顔向けできんわ!」


 しかしそんな人物に面と向かって私は歯向かう。


「え? 親としての役目を放棄しているような人に言われたくないんですけど?」


 すると父は頭の血管が切れるんじゃないかと思うぐらいに激怒した。


「痴れ者が! 知った風な口をきくな!」

「お父様? 反論になっていませんことよ? 論理的に話してくださらない?」


 私の言葉に、今度は激怒していた父の顔が醜く歪む。


「お前なんぞ、私の子供じゃない! そもそもがおかしいと思ったんだ。その黒い髪も金の瞳も全然私に似ていない。えぇい! 父と呼ぶな! 穢らわしい!」


 会話が成立していない。しょうがないので幼稚な彼に合わせてみることにした。


「私が生まれる瞬間に立ち会っていたのでは?」

「ふん! きっと取り替え子だ。そうだ! 貴様は悪魔に取り替えられたのだ!」

「うは! 出たよ。取り替え子。都合の良い迷信ですね!」

「黙れ!」


 一族の名誉や能力だけに囚われた父の顔が醜く歪んでいる。


 そんな彼が私に吐き捨てるように語った。


「貴様の存在は我が一族には不要! よって島流しにしてやる。ゴイルというダンジョン島を知っているか?」

「ゴイル? ダンジョン島?」

「そうだ。思想に問題のある政治犯や、その他の極悪な犯罪者を捨てる島だ。島自体がダンジョンとなっていて国中から犯罪者を捨てる島となっている」

「そこに私を捨てようっての?」

「そうだ。十歳の子どもと言えども若い女だ。きっと可愛がってくれるだろうさ」


 仮にも実の子を……


「そこまでする?」

「それだけアヤ。貴様には失望したということだ」

「……」


 この後、私は父の部下たちによって幽閉された。


 つい最近まで私の頭を撫でてくれた人たちなのにね。私に能力が無いと分かった途端にこの対応。


 酷すぎる。


 さて。状況の説明でもしましょうかね。


 私は、魔物を使役できる伯爵家の直系の長女として、この世に誕生した。


 生まれた当初は蝶よ花よと、かなり可愛がれていた。しかしそれも十歳になるまでだった。十歳になった私には、あることが出来なかったのだ。


 それは、魔物を使役すること。


 私たち一族は時には幻獣すら使役できる魔物使いの一族なのだ。そんな一族にあって私が使役できるのは黒い猫が一匹だけ。


 彼の能力は言葉を話すことと人間並みの知能を持つことだけ。凄いと言えば凄いが他の魔物や魔獣の能力に比べると見劣りしてしまうな。


 幻獣とか言わずもがなだ。


「島流しかぁ……」


 ヤバいかな?


 十歳の女の子が犯罪者が蠢く島に流されたら、ただじゃすまないだろうなぁ。


「どうすべ?」


 私は当然のように脱走しようと足掻くが、ドアは鍵が閉められてて開けられない。


「窓は……」


 残念ながら私が幽閉されている塔は五階建てで逃げられない。


「詰んだ……」


 あうぅ。嬲り物はイヤー!!!!

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