調査
「中々厄介な事態が裏で動いているみたいね」
ショッピングモール内での一幕の後。
僕と早見さんは土御門さんから招集を受けて、公安魔法少女第三課の事務所へと戻ってきていた。
「これまで、私たちが相手にしてきた魔法少女はあくまで個人の犯罪者だったわ。魔物と魔法少女。その二つが現れてからまだたったの一年。されど、一年。世界を根底から覆す大変革から一年も経過したわ。組織的に魔法少女として暗躍し、悪さを行う輩が本格的に台頭してきた」
僕が魔物と戦っている間、ずっとこちらの方に視線を送っていた二つの視線。
「今回のは、そういう事件だったわね」
早見さんに対処を任せたその視線の主はちゃんと悪人だったらしい。
あの魔物へと何かしらの干渉をした痕跡も発見され、間違いない黒であると断定。早見さんが生け捕りにした一人は今も牢に閉じ込められている。
「私たち、公安魔法少女第三課の本領が試される時がようやく来たとも言えるわ。本格的に、戦う時が来たのよ」
「なるほど」
「前々から裏で何かが動いている気配は感じていて、それが何かを測る為に私たちは多くの調査を重ねてきたわ」
「それでも、私たちはあまりうまく相手の存在を掴めていなかった。そんな相手がようやく見せてくれた尻尾。これを機にさっさと事を済ませてしまいたいの」
「それで今、早見が捕まえてくれた子を捉えて取り調べをしているんだけど……どうも吐いてくれなくてね。うちで許されている最低限の拷問とかもしてみているんだけど、効果はイマイチ。完璧じゃない」
「……ずいぶんなことで」
相手は魔法少女。
つまりはまだ二十歳にもなっていない年若い少女だろう?そんな子が拷問まがいなことをされても心おられず、何も語らないってかなり凄いことなのではないだろうか?
「それで蓮夜くん。たくさんの魔法を使えるんでしょう?その中に相手へと強制的な自白を促す魔法とかあったりしないかしら?」
「……いや、それはちょっとないかなぁ?」
「そっか……残念ね」
なくもない……けど、あまりやりたくはないな。
あまりにもひどいやり方であるから───僕の行った異世界は、本当に酷い過酷な世界だった。故に、適応する必要があった。
でもまだ、僕はこの世界であそこまで染まりたくはない。
「すみません」
「いやいや!謝らないで!蓮夜くんには第三課のイメージアップ。そして、圧倒的な強さを頼りにしているんだから。こういう裏での駆け引きくらい、お姉ちゃんに任せて頂戴。うまくやってみせるから」
「お願いします」
出来なくもないけどね?僕だって。
でも、やりたくない。うん……やってくれるなら、任せたい。僕は非情になり切れないところがあるから……。
「一条くん。この後、お友達と会う予定があるんでしょう?一条くんはもう上がりでいいわ。ショッピングモール内でちゃんと魔物を倒してくれてありがと。じゃあ、また今度」
「あっ、はい。お疲れ様です」
そうなのだ。
僕はこの後、友人と久しぶりに会って夕食を共にする予定があったのだ。出来るだけ早く帰りたかった僕は先に自分だけが帰ることに罪悪感を覚えながらも上がらせてもらうのだった。
■■■■■
蓮夜がこの場を後にした後。
「ハッ、随分と珍しい姿だ」
彼と変わる形で新しい人影が入ってくる。
「氷の女王。そう、言われていたあんたがあんな柔らかい態度を見せるとは。びっくりしちまったぜ」
「……うっせぇなぁ」
「ハッ、らしい顔になったじゃねぇか」
「それであいつ怖がらせたらどうするんだよ……ったく。んでぇ?」
さっきまで蓮夜の前で見せていた姿は一体何処に行ったのか。
無表情を貼り付け、語句が荒くなった早見はその視線を新しく部屋の中に入ってきた人影へと向ける。
「安藤真紀。お前はちゃんと自分の仕事をやり遂げられたのか?」
安藤真紀。
長らく外部で仕事をしていた公安魔法少女第三課に属する一人へと、早見は仕事の進捗を尋ねるのだった。
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