第4話  つちのこ


外に置いてきた箱から

大切なふりをしていた言葉たちが

ひとつひとつ旅立っていった

風が過ぎたりやんだりしてる夜だった

寝る前に外に出て箱をのぞいてみたら

残ってたのは


「おなかすいた」だった


ああ これが心の叫びなんだね

わたしに足りてないものがわかった

言葉や思いで届かないこと

みんなほんとうに生きていたいんだ

なによりも ここで


そっと箱を持ち帰ろうとした

そしたら

そのつちの上が いちめん

いっぱいいっぱい

なみだでぬれていた


ごめん そうだった

そうだよね

つちは みんなの

なみだといのちのふるさとだった


わたしたちはみんな

つちの子供なんだ

みんなみんなここから生まれた


あめんぼだったときも

ねこだったときも

そうだったよ

遠いつちの記憶があった


そして

さいしょの叫びが

「おなかすいた!」

それがあったから

いまわたしはここにいられる


その叫びを忘れちゃいけないね

それが いのちを伝えていく

わたしたちのつとめ


あっそうだ……

わたし朝までここにいよう

そしていちばんに見つけてもらおう


「つちのこ発見!」

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