日常編1

魔王城でたこパ開催

※ 改稿作業により、この世界は平和になりました(詳細は近況ノートにて)

https://kakuyomu.jp/users/kurone629/news/822139840258624825



クロヴィス「……何やら、魔王軍に裏切り者がいたという風評が広まっていたようですね(涼しい顔で紅茶を飲みながら)」

レイヴァン「その黒歴史なら、俺の力で別の世界線に隔離した。あれはパラレルワールドだ」

シリウス「∑黒歴史だったのか!?」

クロヴィス「騎士殿への愛故に平和は守られた、さすがです、魔王様」





+ + +




 訓練場にタコが現れた。

 比喩じゃない。

 本物のタコだ。しかも、やたらとデカい。部屋を埋め尽くすほどの大きさだった。


「え……これは?」


 シリウスはドン引きしながら尋ねた。

 レイヴァンは当然のように答える。


「お前に食べさせたくてな。狩ってきた」

「どう見ても、魔物なんだが!?」


 道理で、昼間からレイヴァンの姿を見ないと思ったら……?


 王の帰還――巨大タコと共に。

 何考えてるんだ、この魔王。


「今日は東方の島国に伝わるという、伝統行事をするぞ。その名も『たこパ』だ」

「た、たこパ……?」


 呆気にとられるシリウス。

 クロヴィスですら、突然のタコには顔をひきつらせていた。


「いきなり海まで行って、タコを狩ってくるとは……その突飛な行動力、さすがです、魔王様。ところで、この訓練場いっぱいに広がったヌメリと磯臭は、誰がいつまでに綺麗にするのでしょうか?」

「任せろ、夜までには綺麗にしておこう」

「ちゃんとお掃除もするのは、偉いな……!?」

「では、そろそろ床にワックスをかけ直そうと思っていたので、そちらもお願いします」

「任せろ!」

「さらっと雑用を押し付けてる!!」





 ◇





(~魔王、お掃除とワックスがけ中~)



(しばらくお待ちください)





 ◇





 ――そして、その夜。


 巨大タコはロガンが綺麗に解体して、食卓に並んでいた。

 ぶつ切りになったタコを見て、シリウスはげんなりする。


「本当にこれ、食べられるのか……? 正直、気持ち悪いんだが……」

「大丈夫だ、ルーディアを見ろ」

「え?」


 シリウスが振り返ると、ルーディアがタコ足を噛み噛みしながら、しっぽを振っていた。シリウスは青ざめて、駆け寄る。


「ルーディア! そんな得体の知れないもの、口に入れちゃダメだ! ぺっ、しろ、ぺっ!!」

「ガルルルル!!」

「なっ、ルーディアが俺に威嚇を……?」

「反抗期だな!」

「タコのせいだろ!?」


 レイヴァンは呑気に受け答えしながら、生地を混ぜている。コックに任せず、自らも調理に参加するところが彼らしい。


 そして、食堂のテーブルには、不思議な調理器具が持ちこまれた。

 ミオが興味深そうに覗きこむ。


「わー、何これ!? 丸いのいっぱい!」

「たこ焼き器だ。見てろ、ここに生地を入れて焼く」


 じゅわぁぁ……と鉄板から立ちのぼる音が、食堂に響き渡った。


 こんがりと焼けたら、タコを入れて、ひっくり返す。

 小さくて丸くて、香ばしいタコ焼きの出来上がりだ。

 上から、ソースとマヨネーズの二層がけ。ふわりと踊る鰹節、青海苔が彩りを添えた。


「……っ、いい匂い!」


 ミオが鼻をひくひくさせる。

 タコの気持ち悪さに引いていたシリウスとクロヴィスも、気になってくる。


「よし、シリウス、食べてみろ」


 レイヴァンが串でたこ焼きを刺して、シリウスの口元に持ってくる。


 ――見た目は美味しそうだけど、中身はあの気持ち悪い生き物なんだよな……。


 シリウスは半信半疑でジト目のまま、それを口に含んだ。


 外はカリッと、中はとろりと。

 ぷりぷりのタコが生地と絡み合う。濃厚なソースに、マヨネーズのまろやかさ。口いっぱいに幸せが広がった。


「ん……、美味しい」


 思わず、頬が緩む。


 そこで、ようやく周りの反応に気付いた。クロヴィスが嫌そうな顔をしているではないか。

 そういえば、レイヴァンが当然のように食べさせてくるものだから――自然に『あーん』されてしまった。


「いや、これは……ちがうんだ! いつもやってるから、つい……!」

「嘘がつけなさすぎて完全な自爆です、騎士殿」

「大丈夫だ、公衆の面前だからな。口移しはやめておこう」

「やったらドン引きです、魔王様」


 クロヴィスは冷ややかな笑みで言ってから、皿を周りに配った。


「……では、シリウスの毒味が終わったところで。ミオ、私たちも食べましょうか」

「うん! いただきまーす!」

「これ、毒味だったのか!?」


 その後は皆で、たこ焼きに舌鼓を打つ。


「美味しい~! いくらでも食べられるね!」

「ソース以外の調味料も合いますね。特に、このポン酢とか」

「ふむ、歯ごたえのいい弾力……このタコは、無力なのに抵抗しているようだな。初めて会った時のシリウスを思い出して、好きだ」

「食レポと思わせてからの唐突な惚気に、誰もが置いてけぼりです。さすがです、魔王様」

「黙って食べろ!!」


 シリウスは赤くなりながらツッコんだ。




「次はタコの代わりに、チョコレートを入れて焼くぞ」

「変わり種ですか。カスタードやナッツを入れても美味しそうですね」

「はい! ボク、チーズ入れてみたい!」

「がう~!」

「ルーディアがタコ足を離してくれない……!」



 今日の魔王城の食卓も美味しいものづくしで、賑やかだった。

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