第7話 うさぎの鼓動【微R】
レオハルトに横抱きにされたリオンは、自分が壊れ物のように大切に運ばれているような気がした。
淀みのない足取りで数歩移動して、ふわりと大きなベッドに下ろされる。
天蓋のない質素さにも、スプリングの硬さにも、驚いている余裕はない。
目の前には、もう抑えの利かない男が、節度の鎧を脱ぎ捨てて、獣の顔を見せようとしていた。
レオハルトが片膝を乗せても、頑丈なベッドは小さく唸っただけだった。
「……リオン」
低い声が鼓膜に落ちるより早く、心臓が先に震えた。
――初めて、名で呼ばれた。
その瞬間、体中の血が熱く沸き立った。
この人のものになりたい。
レオハルトはリオンを囲うようにベッドの上に両手をついた。
彼の瞳は燃えるようなのに、不思議と芯は暖かくて、怖くはない。
自分に覆いかぶさっている男がゆっくりと視線を合わせてくれているのに、早くその先に進みたくて、リオンは彼の後頭部に両手を伸ばした。
レオハルトの口元が微笑みにほどけ、そのまま唇が重なった。
ぎし、と硬いマットレスが沈む。
唇を深く合わせて、自分から彼を迎え入れた。
彼の舌は心地よくて、胸の奥がとろけてしまいそうだ。
「……んっ、んん……」
すぐに吐息に声が乗って、耳をくすぐる。
彼にはどのように聞こえているのだろう……そんな不安が一瞬胸をかすめたが、あっという間に消えていった。
口づけたまま、レオハルトの大きな手が胸の上に乗った。それはまあるく滑っていく。
胸元の布越しに形をそっとなぞられて、体がびくっ、と反応した。
「あっ、いっ……」
唇が離れて声が漏れる。
「痛いか?」
すぐに遠ざかった手が寂しくて、指を掴んで自らの顔に引き寄せた。
「そこは……ちょっと、でも、別のとこなら」
「どこを触って欲しい?」
優しい問いに、リオンは混乱してきた。
すべての行為は主に委ねよと教わって来たのに、この人は一つ一つ、触れてもいいか確かめてくる。
「子を……作るのではないのですか?」
「……今日はリオンに気持ちいいことだけ、しようと思っていた」
その言葉を聞いて、リオンはレオハルトの手を自分の顔の上に被せるように押し付けた。
大きな手は革の匂いがして、ところどころ硬くなっている。剣を持つ騎士の手だ。
「どうした? 嫌ならやめるから……」
「やめないで……」
あんなに興奮していたのに、この人はその熱を解き放つ気はないらしい。
「レオハルト様と……さっ、最後まで……」
「……分かった、でもすぐには無理だ」
レオハルトはリオンの髪に指を滑らせた。
「今夜は急がない。リオンの気持ちいいところを、ゆっくり確かめるだけだ」
「はい……」
返事は甘い口づけに奪われて、温かい手が体を滑っていく。
「……あっ、そこ……」
彼の手に柔らかく包まれて、一瞬の緊張が走った。
「大丈夫だ、優しくする」
「ん……」
唇を離して、それだけ言ってまた口づけてくる。そんな風にされると、気持ちよくて何も考えられなくて――リラックスして力が抜けた体は、だんだんと熱を高めていく。
「……っ」
塞がれていた唇が震えて、くぐもった声が出る。知らずに、指がシーツを握りしめていた。
それはリオンにとって初めての感覚だった。
頭が煮えたぎるようで、目の前が滲んで……自分の体ではないようだ。
やがて体のこわばりが解けてきたとき、筋肉質な腕に抱き寄せられた。
彼の胸に顔を埋めていると、指の先まで心地よさが満ちていく。
「あっ、あの、今夜はこれで終わり……ですか?」
「そうだ」
「レオハルト様も、っ、その」
「私は十分に満足した」
抱き寄せられて密着した体からは、渦巻くような熱量が伝わってくる。
「でっ、でも、」
「これ以上はリオンの体に負担になる」
「じゃ……明日も……」
小さく胸板が揺れて、彼が笑っているのが分かった。
「了解、確約だ」
後頭部を優しく撫でるしぐさが、幼子を宥めているようで少し恥ずかしい。
「……可愛かった……リオン」
ぽつんと落ちてきたそれは、耳に熱く響いた。
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