朝が、寒くなった。

雪象

目が覚めて


————朝が、寒くなった。




朝のコーヒーにがらがらと氷を入れて。


昼飯のラーメンにあわせてエアコンを強くして。


日陰のために会社までの道のりを遠回りをして。


飛び乗ったのが弱冷房車だと気づいたら隣の車両に移動して。


洗濯にゃ良いが、同じだけ人間までひからびてしまう。




猛暑。酷暑。通り越して地獄。




そんな、仕事もプライベートもおかまいなし。

いつもついてまわっていたアイツが、急に身を潜めた。


ここ数ヶ月、毎日毎日、暑い日が続いていたのに一転。




昼夜の重労働から解放され稼働を止めたエアコンたち。


連日、苛烈な日差しでしおれていた緑も生き返る。


家々の窓が開け放たれる。


久しぶりに取り込まれる外の空気。


喉元を指先で撫でられるような感覚が僕の脇をすり抜ける。




————ほっとした。その寒さに。




久しぶりに、大きく息を吸い込んだ気がした。


秋を、冬を侵食して永遠に続くと思われた日々が幕を閉じた。


生きていて、あたたかさにほっとすることはあったけど。

寒さに恋焦がれて泣かされそうになるのは初めてだった。




やっと、人が生きられる季節が顔をのぞかせた。

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