悪役令嬢が多すぎる!〜転生先は婚約破棄がトレンドらしいですが、全員まとめて幸せにします〜
雪嶺さとり
第1話
目が覚めたらファンタジー世界のお嬢様に転生していた、なんて驚くような展開が私にも起きてしまった。
いつも通り大学に行ってバイトに行って、帰って寝るだけ。
心躍るようなイベントに遭遇したりなんてまるでない、そんな単調な毎日に飽きていた。
とはいえ、いくらなんでも異世界転生は心躍るとかそういう次元じゃないだろう。
長い紫の髪に、特徴的なつり目。ちょっとキツい印象はあるけれどとても美人だ。
公爵家の令嬢で、名前はエヴェリーナちゃんらしい。
そして王太子殿下と婚約しているらしいが、王太子は親しい令嬢が他にもいるらしく絶賛浮気され中とのこと。
私はその浮気相手が原因で周囲にブチギレをかまし続けているらしく、お世話をしてくれているメイドさんがずっと怯えていた。
「お、お嬢様……一体今日はどうなされたのですか?」
「なんでもないの。自分の現状を確認したかったってだけ。気にしないで」
「く、口調まで変わってしまわれて……」
「あれ!? えーっと、なんでもないのですわ!おほほ!」
あまりにも苦しい演技だったが、メイドさんはすぐに退散してしまった。
いきなり自分の名前は何で、どういう性格で、といった基本的なプロフィールを尋ねてこられてさぞ驚いたことだろう。
どうも私が転生したこのエヴェリーナお嬢様は、日頃の行いがあまりよろしくないみたいだった。
そう、私は悪役令嬢というものに転生したようなのだが、この世界について何ひとつとしてしらないのだ。
とりあえずエヴェリーナの現状からして、ラノベかマンガか、ともかくよくあるWeb小説みたいな雰囲気が漂っていることは確かだった。
エヴェリーナは貴族の子女たちが通う魔法学院に通っていて、今日もこれから登校するらしいのだが、このあらすじだけでもうマンガアプリに何個あるんだよぐらいの定番中のド定番で、暇つぶしによく令嬢もののマンガを読む程度の私にはまるで見抜けそうもなかった。
服装だってファンタジー学園っぽい可愛い制服に、マントみたいな形の黒い外套付きだ。
コスプレみたいで恥ずかしいと思ったのもつかの間、みんな同じ格好をしているのだから、学年ごとに色の違うというネクタイの見分けの方が大変だった。
とりあえず同じ学年らしき女子生徒に声をかけてみる。
「お、おはようございますですわ」
「えっ、エヴェリーナ様!? お、おはようございます!」
即座に逃げられてしまった。周囲で見ていた生徒たちも、私とは目を合わせないように下を向いたり足早に去っていってしまう。
つらい。完全に嫌われているっぽい。
こういう時、取り巻きの令嬢とか友人役の子とかいてもいいんじゃないのとは思うけれど、そんな気配もなかった。
みんな私を見てヒソヒソ小声で話している。視線が痛かった。いや、これほんとにつらいわ。
涙をぐっと堪えて、諦めず情報収集を続ける。
とにかく授業が始まるまでに現状をなんとかしたい。
元の世界に戻る方法とか、私に死亡フラグとか立ってたりしないかとか、自分自身のことさえ分からないのだから内心ずっとパニック状態だ。
「あっ、あの子ならいいかも……」
学園の中庭のすみっこ、ベンチに座って読書に勤しんでいる男子生徒がいた。
長い前髪だけれど、その髪で文章ちゃんと読めるのかな。
とにかく、表情は見えないが大人しそうな雰囲気があるので顔を合わせるなり逃げられるようなことはならないだろう。
「あのう、すみません」
「これこれは、ヘルベリス公爵令嬢。今更謝罪のつもりで? 貴女のような方に話すことなど無いと伝えたはずだが」
「ひぇ……」
おっと……。
もう既にやらかし済みだったっぽい。
長い前髪の隙間から覗く目は、キッと私を睨んでいて強い敵意を感じる。
正直言ってめちゃめちゃ怖い。
「わ、私何やったわけ……」
私が震えていると、男子生徒は苛立ったように強い口調で責め立ててくる。
「はあ? 忘れたとは言わせないぞ。貴女は俺に精神干渉効果がある違法な魔法薬を精製しろと金を渡してきたというのに、今更しらばっくれる気か?」
「え!? 違法薬物を作らせようとしたってこと!? 犯罪者じゃん!」
「だからそうだが?」
とんでもない事実だ。
精神干渉ということは、惚れ薬見たいなら類のものなのだろうか。
怒らせて当然、というか訴えられてもおかしくない。
この国の法制度がどうなっているかは分からないが、教師たちに知られれば退学か停学処分にはなるだろう。
エヴェリーナちゃんは王子様の婚約者だというのに、不祥事を恐れないどころか悪の道にまっしぐら状態だとは。
王太子殿下の浮気のせいでおかしくなってしまったのか、はたまたもっと前から歪んでしまっていたのかは分からないが、私だったらこの顔とスタイルだけで一生鏡見て生きていけそうなんだけれど。
「えっと、とにかくごめんなさい。もう悪いこととか絶対しないから……」
違法薬物を作ってどうするつもりだったのかは分からないが、これ以上首を突っ込みたくはない。
とにかく謝って彼に怒りを鎮めてもらわねば。
「……待て、お前は誰だ」
「はい!?」
これまた予想外の返しに、私は驚いて後ずさる。
しかし男子生徒は逃がすものかとばかりにぐっと接近すると、私の右腕を掴んだ。
「色が違う」
「色? 色ってどういう」
「魔力の色だ。昨日までのヘルベリス公爵令嬢とまるで違う色をしているじゃないか」
なんだその設定は。
私には見えないのだが、彼はそういう能力を持っているということなのだろうか。
確かそんな設定のマンガがいくつかあった気がするんだけれど、エヴェリーナのようなキャラはいなかったはず。
しかし、立ち上がった彼はすごく背が高くて、接近されると見上げなければならない。
威圧感というか圧迫感が凄まじかった。
前髪のせいで表情がよく見えないが、下から覗くと赤い瞳がちらりと見えた。
「……そうか。さては貴様、体を乗っ取ったな。重罪だぞ」
「ええええ」
彼の容姿の観察に夢中になっていれば、またまた予想外の展開が転がってきた。
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