第14話 助けに来た兄は迷子で妹の名を叫ぶ
「はぁー」
滑稽なほど悲痛な声をあげ続ける夫を眺めながら、イリスも心底呆れ果てたという思いで、ため息交じりに小さく首を横に振った。
その時、叫び声を上げていた夫が突然顔を上げて立ち上がると、何を思ったのか? イリスのほうに向かって来る。夫は何をしに近づいて来るの? この時、実は不安で心がそわそわしていた。
あっという間に目と鼻の先の距離まで接近して正面に立つと、夫は信じられない台詞を口にした。
「シモンが部屋に到着したら私は死の眠りにつくことになる。イリス助けてくれ!」
恥知らずにもほどがあるというもので何という図太い神経の持ち主か? あろうことか妻に助けを求めてきた。
「レオナルドなんか助けるわけないでしょ!」
「イリス私が悪かった……助けて……」
このままでは兄に人生を終わらされるから助けてほしい。夫は吐き気がするようなことを言ってきました。
妻を追い出して幼馴染の愛人と子供たちと一緒に、幸福に暮らせると思っていた夫を許せるわけがなかった。
「長い間、二人で騙して私を追い出そうとした罰です! お兄様に消されてあの世に旅立ってください」
「イリスお願いだ。シモンが来たら全力で私を保護して守ってくれよ」
兄が現れたら弁護してほしい。本気の力で兄から自分をガードしてと頼み続ける夫の言葉に、イリスは呆れて一瞬思考が止まりました。
「そんな姿勢を見せてもレオナルドの本性は分かっていますよ? 都合のいい事ばかり言わないで!」
「エレナと別れてちゃんと反省しますから……許して……」
もうなりふり構わず、夫は殊勝らしく控え目な態度を取り始めますが性根はわかっています。愛人と一緒になって悲しみに耐えていた妻をからかって不敵な笑みをもらしていた。
「シモンお兄様はもうすぐ来ますから覚悟してください!」
「キィーーーィ! キィィヤァァーーーーーッ! キィイィィイーー!」
イリスの言葉を聞いて夫は壊れた。奇声を発して部屋にいるメイドたちを驚かせました。今まで聞いたことがない伯爵家の主人の悲鳴と乱れっぷりに見ている方が混乱する。
耳が痛くなるような超高周波を放つ夫は突然奇妙な行動などを行いはじめる。助からないと分かり頭がおかしくなったのか? 部屋の中を飛び跳ねて皆を困惑させた。
兄が魔法で守ってくれてる事はイリス本人もある程度は知っていました。守ってもらっている事にも大いに感謝して、大魔導士と名声を得て
溺愛ぶりが思いやられますが、昔から優しい声に笑顔が素敵でどんな時でも構ってくれて話を聞いてくれる兄に、周囲は妹離れができない兄だと呆れていますが、イリスの正直な気持ちは兄に不満はありませんでした。
シモンは自然魔法をはじめ精霊魔法に神聖魔法と多様な魔法に幅広く精通して、ラインハルト皇帝陛下に功績を称えられた。神聖帝国エルサレムの守護神と言われ、国民から敬意を表される地位を確立した。
「――私は今どこにいるんだ? 分かったら苦労しないな……」
本当に能力が高いシモンだが唯一の弱点があった。シモンは極度の方向音痴で、心配した顔でイリスを捜し回って伯爵邸の廊下を何度も往復していた。
「どこで道を間違えたんだ? イリスーーーーーーーー! 助けてくれぇぇぇえええええええええ!」
小さい頃から家に帰ることができなくて、遊びに出かけたら必ず行方が分からなくなり家族や使用人を困らせた。
迷子になった回数は数え切れないほどで、生まれた時からずっと住んでいる家に帰るのに今でも道に迷っている。方向音痴のシモンは悩みや苦労の絶えない人生を生きていた。
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