ザマァキャラに転生したから、好感度50を目指します

チーズ

第1話 好感度50は難しい

「お主は主人公からの好感度がピッタリ50でないと死ぬ」


「は???」


美しい赤毛の女神が微笑む、決して微笑むような場面ではないのだが。

どうして俺がこんな目にあわなければならないのだ。俺はその場で女神に中指を立てた。


◇◇◇◇


ところで俺には大好きな漫画がある。それは【追放勇者】と言ってパーティーを追放された落ちこぼれが魔王を討つ、というありきたりな話だ。

そんな漫画に何故思い入れがあるか、それはヒロインキャラが可愛すぎるから…!

その名もマチルダちゃん。クールで優しい王道ヒロインながらも、腹筋バキバキの性癖クラッシャー。俺はマチルダちゃんの大腿四頭筋で眠るのが夢だ。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


ちなみに主人公の勇者は不器用なダークヒーロー。子供の頃は素直だったが勇者候補のパーティーに酷いイジメをされ、最後には追放され、闇落ちをした。まぁ、ありがちな展開だ。


「〜〜エン」


しかしこの勇者候補のパーティーのリーダー、ザマァキャラと言えばいいだろうか、こいつはありきたり設定でもちゃんとウザかった。子供の頃から主人公を虐めて、大人になってもパーティーの荷物運びとしてボロ雑巾のように主人公を扱う。

ほんとこいつが勇者の手によって葬られたときはスカッとしたなぁ〜。


「オリエン」


そう、そう、そのザマァキャラの名前はオリエンだったけな。あれ、たまたまかな俺の名前と同じだ。

そして主人公は、今目の前にいる俺の友達のように、ハイライトのない黒い目、髪は黒髪のストレートって感じで、名前は


「エリアス…」


―――はい、察しのいい人なら気づいたでしょう

俺は転生していたようです【追放勇者】の中にザマァキャラ、オリエンとして……。

いや誰に話しかけてんだ俺は、そろそろ現実逃避はやめだ。

全てを思い出した。俺は日本の茨城県に住むごくごく普通の大学生、田中海斗だったのだ。そんな俺が好きだった漫画の主人公エリアスが今泣きそうな顔で俺を見つめている。


「オリエンっ!!意識が戻った…体調はどう?大丈夫?」


涙を袖で雑に拭くとエリアスは俺の手を握った。


「あぁ、全然大丈夫じゃない」


そう、全然大丈夫じゃない。今日は大国、アルシア王国まで行って、女神パーフェスト様にギフトを貰う日だった。俺もどんな力が貰えるかワクワクして行っていたのを鮮明に覚えている。

でも、貰ったのは前世の…海斗としての記憶。現代知識チートができるほどの頭のよさも無ければ、この世界、【追放勇者】もマチルダちゃん以外の所は流し見してたからそこまで詳しくない。いらないことを思い出させた女神に頭の中で中指を立てる。

周りの様子を見るにあの後俺は処理しきれない前世の記憶を注ぎ込まれてぶっ倒れたらしい。ほんとアフターケアがなっていない。気絶する前までは本当に信仰していたが、今となってはクソだと思う。


「まだしんどい?おばさん呼んでくる?」


エリアスが心配して俺の額に置かれた布を取り、手を置く。


「熱はないみたいだけど…」


そりゃそうだ記憶を注ぎ込まれて気絶しただけだし。


「いや…いい」


「本当?」


無邪気に目を潤ませるエリアス、俺がぶっ倒れてから付きっきりで看病してくれてたらしい。

まぁ、そんなエリアスの手で比喩ではなく俺は将来殺されるわけなんだが、俺はこの先どうすればいいのだろうか。

虐めなきゃ殺されないが、エリアスはパーティーを追放されてチートになったのだ。エリアスのチート能力がないとラスボスは倒せずに結局俺は死ぬ、どっちに転んでも俺は死ぬのだ。

そんなことは露知らずエリアスはタオルを俺の額に戻そうとした。しかし寸前のところで動きを止める。


「冷たくなくなってきてる…ちょっとまってね【水よ】」


エリアスはそう言うとタライの上で手を構えた。すると、エリアスの手から水が顕現する。

俺も昔から使っている基礎魔法だ。しかし前世の記憶を引き継いだ今見ると少しテンションが上がる。


「魔法…」


「どうしたの?」


様子を見ているとエリアスは頬を赤らめた、恥ずかしがり屋な性格なのだ。


「いや……あ、そうだエリアスはどんなギフトをもらったんだ?」


ギフトとは女神から貰う個人魔法のような物。ギフトによって将来の仕事が決まることもある、すごく重要なものだ。


「えっと……【低下】だよ」


エリアスは俯き答える。【低下】それは、その名の通り全てのステータスを下げることができるギフトだ。流石に流し見していた俺でも主人公の能力くらいはわかる。


「……僕のギフトなんて別にいいよ、オリエンはどうだった?」


自信なさげにエリアスは声を震わせた、その理由もわかる。【低下】は自分の能力を下げることしか出来ないのだ。後に敵の力下げまくって自分はその力を使うっていうチートギフトに早変わりするんだが、それを今のエリアスが知るよしはない。


「俺ー?俺は…、」


慣れた手つきでステータスを開く、この世界に生きていれば字を書くよりも先にできるようになる超基礎魔法だ。

まぁ、ステータスを見なくてもザマァキャラのオリエンのギフトもなんとなく覚えている、確か【剣技】というそこそこ良いギフトだったはずだ。


ーーーー

オリエン♂10歳

レベル9

HP30

MP45

ギフト

【剣技】【好感度メーター】

ーーーー


「やっぱり…て…は?」


【好感度メーター】てなんだ???え、全然知らない、てかギフト二つとかありなのか??


「どうしたの?」


エリアスが首を傾げる。ステータスは自分しか見ることができないから、この意味不明なステータスもエリアスには見えないのだ。


「…いや何でもない、俺のスキルは【剣技】みたいだな」


言うとエリアスの目が輝いた。


「【剣技】!!すごいよオリエン!!!」


「ああ、さんきゅ」


エリアスの喜ぶ様子はまるで子犬のようで尻尾の幻覚が見える。少し前までは友達としか思っていなかったが、こう見ると弟のようで可愛い。

つい衝動的に頭を撫でに手が伸びる、髪の毛も柔らかくて綺麗な黒色、前世に飼ってた黒柴に似てるかもしれない。


「えっ?」


突然俺に撫でられてエリアスは戸惑っている、その顔もあどけない。


「エリアスって髪綺麗だよなぁ」


俺は前世でも今世でも髪の毛が跳ねるから羨ましい。


コンコン


と、その時扉のノック音が響いた。


「エリアス体調はどう?大丈夫?」


音の後に部屋に入ってきたのは俺の母さん、マリーだ。


「うん、大丈夫」


「ギフトを貰うときに倒れるのは珍しいことじゃないみたいだけど…一応明日までは安静にしててね?」


母さんはかなり心配性だ、昔俺が木から落ちたときなんて付ききっきりで看病してくれていたっけ。あまり心配はさせたくない。


「はーい」


大人しく返事をすると母さんは笑って俺の頭を撫でた。


「エリーくんがいるから大丈夫だと思うけど、暴れたらお菓子抜きだからね」


「…はーい」


エリアスが下を向いている、笑っているのだろうか、一応海斗の記憶のある俺のほうが精神年齢は高いはずなんだが…まぁそれは後々示していこう。


「あ、エリーくん夜も遅いしもう泊まっていく?」


母さんはそのままエリアスに目線を移すとにこやかに笑った。


「え、あ、いいんですか?」


「ええ、ゆっくりしておいき」


「あ、ありがとうございます!!」


エリアスは背景に花でも出るようなニッコリ笑顔でそう言った。大人のエリアスは無口、無表情、のクールキャラだが今のエリアスは本当に可愛い。


「じゃあお風呂入ってきちゃいな」


「あ、はい!」


その言葉でエリアスは母さんに連れられて俺の部屋から外に出た。

よし、チャンスだ。

友達とお泊りなんて普通に楽しみたいがそうはいかない。ステータスを開くとやはりギフトに【好感度メーター】という異質な物がある。

いったいこれは何だ?

頭を悩ませていると直ぐに扉がノックされる、流石に早すぎる忘れ物だろうか。


「オリエン、これ食欲あったら食べなさい」


エリアスかと思って驚いたが入ってきたのは母さんだった、手元には俺の好きなカボチャスープが湯気を出している。


「あ、ありがと母さん!!」


「大丈夫よ、早く元気になってね」


「うん!!」


母さんはやっぱり優しい、今まで俺が真っ当に生きてこれたのは母さんのおかげだろう。何でこんな優しい母親から生まれてきたのに漫画の俺は、あんなに可愛いエリアスを虐めていたのだろうか、本当に謎である。

そんな事を考えて、母さんの背中を見送り今度こそ部屋が静寂に包まれた。俺はカボチャスープを一口飲むとまたステータスを開き、ギフト画面を見つめる。


【好感度メーター】


頭を捻るがやっぱり何も覚えがない………いや思い出した…!

そういえば女神パーフェストにギフトを貰うときに、俺は本物のパーフェストと話をしたんだ。


◇◇◇◇ 


「オリエン面を上げよ」


俺がギフトを授かるために女神像に手を合わせるとそう聞こえた。言われた通りに目を開ければそこには赤毛の女神が偉そうに座っていた。


「パーフェスト様…?」


「うむ、その通り、我がパーフェストだ」


俺はこのとき焦った、だって本当に女神と会話することなんてギフトの付与式でもありえないことだから。


「一つ言っておかなければならなくてな」


「なんでしょうか…」


いきなりのパーフェストの言葉に心臓を跳ね上がらせると、さらにパーフェストは


「もっと近うよれ」


と俺に言ってきた。言われた通りに一歩、また一歩と近づけば、額に指を押し付けられ、そして前世の記憶が全て雪崩てきた。あの時俺は雷に打たれたような頭の痛みに跪いた。まだ10歳だというのにあの痛み、死んでいてもおかしなかったとそう思う。

そんな苦痛の中パーフェストは口を開いた。


「間違えて地球の魂をこっちに持ってきてしもうた、すまんな!」


「…は??」


「あ、後、お主は主人公からの好感度がピッタリ50でないと死ぬ」


「は???」


「いやーすまんの、オリエンとはそういう立ち位置の人間なのだ」


痛みで文句も上手く言えない俺はただただ前世の知識で中指を立てることしかできなかった。パーフェストに意味が伝わってるかは分からないが…。


そして、最後意識が薄れていく時に確かに聞こえた。


「特別にお主には【好感度メーター】を授ける、まぁ頑張ってくれたまえ」


と………


◇◇◇◇


いや、今思い返しても本当にムカつくな、なんだよ間違いって、なんだよピッタリ50じゃないと死ぬって。

文句を言ってみたものの、それに意味はない、俺はこれからエリアスの好感度調整をして生きるしかないのだ。この世界に生まれてからかなり仲良くしているエリアスの好感度を50に調整しないといけないのは少し悲しいが、生き残るため仕方ないことだ…。

今度こそ俺は長生きしたい…悪いが俺はエリアスの好感度を絶対50ぴったりにするぞ!!!

それからしばらくして


「オリエン入るよ?」


とエリアスの声がドア越しに聞こえた。もう風呂に入り終わったらしい。


「おー」


今のエリアスの好感度によってこれからの俺の行動が決まる。低ければ優しくし、高ければ原作通り少し虐める。

低ければいいな、いや10とかだったら泣くかもだけど、そう思いながら返事をすると、扉がガチャリと音を立てて開いた。


よし…ギフト【好感度メーター】


「体調はどう?」


まってくれ…


「いや…えー大丈夫元気」


「本当!良かったよ…」


全然良くない、このギフト嘘じゃないよな……

俺の目が変になっていなければ好感度90とあるんだが…??

エリアスの頭の上に赤いハートが浮かび上がり、その上には90とデカデカと書かれている。

高すぎだろ!!!

まぁ、友達だし嬉しいけど…、でも俺はこれから40ぶん嫌われなければいけないということだ。


「どうしたの?」


俺が間抜けな顔でエリアスの頭上を見上げていたせいか、エリアスは首を傾げた。


「いやーなんでも?」


これから虐めて50に……なんて考えている俺を心配しないでほしい、罪悪感で死にそうだから。


「…?」


俺の顔が青くなったからかエリアスが見つめてくる。本当にやめてくれ、キュルルンイケメンフェイスで俺を見つめないでくれ。そうだ、話を変えよう。


「は、早く寝ようぜ??ほら俺安静にしなきゃだし」


そう言うと俺は布団の中にくるまった。さすが主人公、エリアスが可愛すぎて虐める気がなくなってくる。顔を見たら駄目だ!


「うん…そうだね、おやすみ、オリエン」


……え?

何故かエリアスが俺のベッドの中に入ってきた。俺はその行動に狼狽える。

え?なんで??

あ、お客様よう布団とかこの世界にないのか…?戸惑ったが多分そうなんだろう。


「…おやすみ」


無視したほうがいいとも思ったが、この程度の返事で好感度どうこうはないと思い返事する。でも出来るだけぶっきらぼうにエリアスを見ずに返事をした。

明日から俺はエリアスに嫌われなければいけないのだ、これくらい許されていいだろう。

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