武闘家グランとの価値逆転戦

ゴングが鳴る。


――バリューバトル、開始。


対峙するのは、かつて拳一つで生計を立てていた

武闘家グラン。


巨躯を揺らし、真っ直ぐ突進してくる。


ドドドッ! とリングが震え、

観客の歓声が耳を劈く。


「シルク、迎え撃て!」


契約魔獣シルクが低く唸り、跳びかかる。


爪が空気を切り裂き、グランの胸に迫る――


だが接触の瞬間、数値が激しく変動した。


ビリビリッ!


電撃のような痺れが俺の体を走る。


《契約魔獣:価値 −11,200》

《グラン:価値+11,200》


「クソッ、吸われた!」


シルクの体が後退し、息が荒くなる。


グランの筋肉が膨張し、

グローブから青白い霧が漏れ出す。


ナナが鋭く叫ぶ。


「ミチル、今! “逆流”を!」


俺はスマホを握りしめ、叫んだ。


「こんな地下闘技場で小銭稼ぎか!

武道家が聞いて呆れるぜっ!」


「やめろっ、お前に何がわかる!」


怒声を上げたグランの足下に、光の数字が走る。


リング全体が震え、空気の流れが反転した――


青白い炎が、グランの過去を抉るように渦巻く。


《価値逆流:起動》


吸収されたはずの光が、

逆噴射のようにグランから迸る。


青白い炎が火柱となり、天井へ突き抜ける。


観客席に、熱風が吹き上がった。


「な、何だこれは……!?」


炎に包まれたグランの背後に、幻影が浮かび上がる。


――若き日の姿。


汗だくの道場で拳を突き出し、

師匠に叱咤されながら鍛錬に励む日々。


だがすぐに、膝を痛め、リングを去る姿が重なる。


道着が血に染まり、拳を握りしめたままの、挫折の夜。


「やめろ……! 見せるな……!」


グランの声が震え、筋肉が炎に焼かれるように痙攣する。


観客の視線が、貪欲から驚愕に変わっていく。


グランは、自分の過去と、

忘れていた価値に直面していた。


「グラン! お前の価値は、まだ終わっちゃいない!」


俺は叫ぶ。


《グラン:価値 −120,000》

《契約魔獣:価値+60,000》

《ミチル同期中:価値+60,000》


シルクが咆哮し、黄金の光を纏う。


爆ぜるような衝撃波がリングを揺らし、

観客席の酒瓶が転がる。


グランが地に伏し、肩を震わせる。


「……な、何倍もの力……。俺の……拳は……」


拳を見つめるその瞳には、

かすかな悔恨と安堵が同居していた。


ナナが静かに告げる。


「忘れたんでしょう。武道家としての“価値”。


でも、その価値は――まだ生きてる」


「俺は……まだ、やり直せるのか?」


「そいつはお前次第だな」


俺はグランの手を強く取った。


武道家の拳ダコだらけの手だ。


ゴングが鳴る。


――勝者、ミチル。


観客席からどよめきが上がる。


「残価マイナスが勝ったぞ……!」


「価値を逆流させるなんて……!

あいつ、グランの過去を抉ったのかよ!」


会場全体が息を呑み、静寂が訪れる。


やがて――拍手が、ぽつぽつと沸き起こった。


リサが笑う。


「やるじゃん、幸先いいよ!

次はもっとデカい相手だぜ」


俺はスマホを見た。


画面の中で、ナナがとびっきりの笑顔を見せていた。


「ミチル、これが“価値を守る”ってことだよ」

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