第二楽章 ⑧

 とある午後、ピアノの音も掻き消されるほどの、夕立のような強い雨が降った。

 

 すっかり暗くなった部屋の中で、手を休めたあす未のブラウスが、汗で背中に張り付いているのが見えた。

 いつもよりも強くさせている、そのほのかな匂いが、僕をより一層切なくさせていることを、彼女は知らない。


 そしてこのとき、彼女との別れが間近に迫っていることを、僕もまた知らなかった。


 やがて僕らは、もっと大きな事情や力に振り回されてしまう、二人きりの心細く儚い存在であり、ただの無力な子どもたちであることを思い知らされることになるのだった。

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