金と銀、沈黙と雄弁

@hepu

第1話 事の起こり

深夜の静寂を切り裂く、けたたましいサイレンの音。

アスファルトの道路に反射する赤と青の光が、どこにでもある平凡なアパートを非日常の舞台に変えていた。

現場の規制線には、不安と好奇の入り混じった表情を浮かべた野次馬が集まっている。

彼らの視線の先、焼け焦げた窓から立ち上る煙が、まるで亡霊のように夜空に吸い込まれていく。



「まるで魔法を使ったみたいだ」



誰かが呟いた。


警察の捜査官たちは、その不可解さに頭を抱えていた。

火元が見つからない。

火災報知器は作動しておらず、消火器にも使われた形跡がない。


アパートの一室で何かが燃えたのは間違いないが…


焼け残った家具や壁、そして隣の部屋には、煙と焦げ付いた臭い以外に、炎の痕跡はほとんどなかった。



ただ一つ、不気味なほど完璧に、焼け焦げた人間の死体が残されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る