遠距離の彼女

ロゼ

深夜の通話

//SE スマホからのコール音。


//SE 衣擦れの音。


(起き抜けの声)

「……もしもし」


「うん、寝てたぁ……いいよ、起きるし」


//SE ゴトンと激しい音。


「痛たっ……え? 大丈夫、ちゃっとぶつけただけ。大丈夫だよ、怪我はしてないから」


//SE 衣擦れの音。


「あー、でも青アザになっちゃうかも……触ると痛いや」


「そんなに心配しなくていいって。大丈夫大丈夫 」


「電話しなきゃよかったね、って? そんなことない、声聞けて嬉しいよ。ずっと声聞きたかったから」


「いつでもかけてきてよ。私は定時に帰れるけど、そっちは不規則でしょ? 寝てても起こして」


「もぉ、そんなこと気にしないの! そういうこと気にしなくていいのが恋人なんじゃないの?」


//SE あくびの音。


(眠そうな声)

「ふぁー。……あー、寝起きだからね、どうしても出ちゃう」


「え? もう寝てって? ヤダよ、かけてきたばっかじゃん。もう少し話したい」


「あ、でも、そっちが明日早いなら、もう切ったほうがいい?」


「明日の仕事午後からなの? じゃ、朝まで話せるね!」


「お前は寝ろって? ヤダよ、話したい! 最近あんま話してないでしょ? あんまり会えないんだから、話せる時にいっぱい話したいよ」


「寝不足になっちゃう? いいよ、一日くらい。一日くらい平気」


「もぉ、心配性だなぁ、大丈夫だって。……でも、ありがと」


//SE ゴソゴソとした物音


「新しい下着買ったの。画像送ったから見てみてよ」


//SE スマホの通知音。送られてきた下着の画像。


「可愛いでしょ? 見た瞬間、絶対好きそうだって思って。ねぇ、それ着た私、見たくない?」


「見たいならさ……早く会いに来てよ……寂しいよ」


「早く会いに来てくれないと、これ着て私、別の人のとこ行っちゃうかもよ?」


「ヤダ、嘘だよ、嘘! 絶対そんなことしないよ! 分かってるでしょ? ちょっと意地悪してみただけだって」


「俺のこと好きかって? 言わなきゃダメ? ……好きだよ、大好き。もぅ、言わせないでよ! 恥ずかしいよ」


「……じゃあ、私のこと、好き?」


「言わなくても分かるだろって? 言わなきゃ分かんない! ねぇ、言って」


//SE バタバタと布団の上で少し暴れるような音。


「……ヤバいね、これ。めっちゃドキドキする。心臓バクバクしてるよ」


「俺もドキドキしてるって? ふふ、一緒だね」


「今度いつ会えるかな? ごめんね、うちの会社、給料安くて。でもね、ちゃんと貯金してるよ。そのうち突然会いに行っちゃうかもよ?」


「いつでもおいで? いいの? 急に行って誰か部屋にいたりしない?」


「知らない女が『はーい』とか出てきたら、私どうなるか分かんないよ?」


「そんなことあるわけない? 分かんないじゃん、案外モテる人だし」


「彼女しか部屋に入れない? 本当かなー? ちょっと怪しいなー」


「今までこの部屋に入ったのはお前だけ? アハ、なんか嬉しい」


「それがもし嘘だったら、分かってるよね?」


「嘘じゃない、信じてって? どうしようかなー。ふふ、嘘だよ、信じてるよ。うん、本当に」


「だって私、めっちゃ愛されてるもん。そうでしょ?」


「うん、そうだね? え、ここは『愛してる』って言うとこでしょ! せっかく言いやすい流れ作ってあげたのにぃ」


//SE バタバタとベットで暴れるような音と悶絶しているようなくぐもった声にならない声


「ヤバい、破壊力すごい。心臓壊れそう」


「もう一回言って? もう無理? 言ってよ、聞きたい。聞かせてよ」


「なんでよ、いいじゃん! 減るもんじゃないでしょ?」


「言い過ぎると軽くなりそう? あー、それ男のダメなとこ! 女はね、言ってほしいの!」


「言わなくても伝わってるって思ってるんでしょ?」


「そりゃね、伝わってるよ。ちゃんと好かれてるんだなーって分かる」


「でもね、そんな多くなくていいから、時々でもそれを言葉にしてほしいの」


「そしたらね、安心するし、幸せになれる。ちゃんと両思いなんだなって確認できる」


「時々でいいから言って? 難しいことじゃないでしょ? ダメ?」


「善処します? そんなに難しいこと?」


「恥ずかしい? 慣れてよ。私にだけ言う言葉なんだから、いいでしょ?」


「えぇ、急に話題変えちゃう? なに? なんかあった?」


(明るく弾んだ声)

「今度の週末会いにくる? え? 嘘? 本当に? 本当に本当? ヤバい、泣きそう、嬉しい、嬉しすぎる!」


「予定? ないよ、ない! もしあってもキャンセルする!」


「予定があるならどっかで時間潰して待ってるって? 本当にないから! 絶対空けとく! 絶対! もし誘われてもなにも入れない!」


「嬉しいに決まってるじゃん! 三ヶ月ぶりだよ? でも急にどうしたの?」


「はぁ?! クビになった?! 本当に言ってる? え、嘘?! もぉ、ビックリさせないでよ!」


「休みの申請がやっと通ったのかー。ヤバい、嬉しすぎて顔がだらしなくなってるよぉ」


「嬉しいに決まってるじゃん! そんなの当然でしょ! 何日いられるの? 一泊二日? もちろんうちに泊まるよね?」


「ヤッター! じゃ、二日間一緒にいられるね」


「迎えに行く! 何時の新幹線?」


「分かった! あー、待ち遠しいなぁ。早く週末にならないかなぁ」


「美容室行ってこようかなー。ちょっとでも可愛いって思ってもらいたいじゃん?」


「そのままで十分? むしろあんまり可愛くなって欲しくない? なんで?」


「誰かに取られそう? そんなことあるわけないでしょ。私、モテないもん」


「気づいてないだけ? 私、そんなに鈍感じゃないけどな」


「そんなこと言って、また誰かに告白とかされてない? 優しいからすぐ誰かを落としてるからねー」


「ない? 本当に? 若くて可愛い子に告白されてグラッとかしてない?」


「お前だけ? 信じて欲しい? アハ、からかってみただけだよ。うん、信じてる」


「週末かぁ……今すぐ週末にならないかなぁ」


「目が覚めたら週末だったらいいのになぁ」


「そんなに楽しみかって? 当たり前でしょ! 逆に、楽しみにしてくれないの?」


「今すぐ会いに行きたい? ふふ、同じ気持ちだね」


「会ったら泣いちゃうかも」


「泣いていいよ? 嘘だよ、泣かない」


「泣き顔ブッサイクだもん、見せたくない」


「そんなことない、絶対可愛い? いやいや、これがね、ビックリするくらいブスなんだよ」


「泣く時は俺の腕の中でね? なに言ってるかな? 急に男前発言」


「俺はいつだって男前だ? ふふ、そういうことにしといてあげよう」



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