第9話 何かがあった
翌朝。
摂津はほのかと目を合わせず、気まずそうな顔をしながら木の実の残りの朝食をとっていた。仁よりも一回り太い腕が、せわしなくクルミの皮を剥き流し込むかのように飲み込んでいく。
ゆっくり食べないとのどに詰まると言う仁の忠告にも耳を貸さない。
「ちょっと散歩してくる」
食べ終えると逃げるかのように焚き木のそばをはなれ、糸杉の森の中へ向かっていく。
「どうしたの? 木の実が腐ってた?」
「なんかキョドってない?」
「妙でござるな」
仁、陽子、大和が気遣って声をかけるが、摂津はサッカー部仕込みのダッシュで森の奥に消えようとした。
「下痢かな」
「ああ、そりゃ気まずいわよね」
「ぷーくすくす、でござる」
「おい」
だが尾張の声で急ブレーキでもかかったかのように脚を止める。
「な、なんすか」
壊れたブリキ人形のような動きで振り向いたときの摂津の顔は、担任教師に対する恐怖で染まっていた。
「二度はないからな」
「う、うっす」
その言葉を皮切りに、摂津は森の奥へと消えていく。
「ありがとうございます、先生…… 昨日も、今日も……」
「気にすんな。教師として当然の務めだ」
「先生……」
ほのかが尾張を見る目に、昨日までとはまるで違った熱が宿っていた。
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