2285年 2月 オンシロコロニー ショップノベア

 店員の後についてゾロゾロと移動する。

 マリは店員と義体について熱のこもった議論を交わしていた。それをボケっと聞いていた所によると、どうやら生体アンドロイドの作り方と言うものは、都市伝説の類として扱われているらしい。

 マリの提供した義手がやたらと高く売れたわけだ。

 

「ソウ言えバ……」

 

 マリとの議論に一区切りついたところで、店員が何かを思い出したかのように話を変える。


「風ノ噂ニ聞いタのデスが、生体アンドロイドを作ろウトシている地下組織ガ、このコロニーノ地下ニあるソウデスよ。……ナンデモ、住民ヲ拐ってハ実験台ニシテいるとか。」

「ほう?実験台、とな?」


 ……何処かで聞いたような話だ。

 その話を聞いて、マリの顔が少し険しくなる。


「エエ、機械ト人間ヲ融合させているとか。」

「フフッ、そんなもの上手くいくわけもなかろうに。」

「ハイ……ソノ通りデございマス。」


 "ガレージ"と書かれた古びた扉の前でピタリと止まる。


「サァ、着きマシタ。コチラがGarageデス。」


 扉の向こうには、整然とした広い空間が広がっていた。チリ一つ落ちていないその空間に、ポツンと一台俺たちの乗ってきた車が置かれている。

 見た目は大して変わっていない。サンドカラーの旧時代の軍用車をベースにした武骨なデザイン。特徴的なスラントバックがお気に入りだ。

 タイヤも四つ、きちんとついている。

 どこが変わったのか分からず俺が傾げていると、店員が説明を始めた。


「オ客様は外カラいらした用ナノデ、Tireで走行モ出来るヨウニしておりマス。先ずハオ乗りクダサイ。」


 運転席のドアを開けて乗り込む。

 コンソール周りは大きく様変わりしており、スイッチ類が増え、メーターはすべてデジタル表示になっていた。


「地上ヲ走行する際ハ、今マデ通りデス。浮上スル際はこのSwitchを入れてクダサイ。」


 店員が俺のスカウターにARマーカーが表示される。

 指示通りにスイッチを入れると、ちょっとした浮遊感と機械音がした。


「おお!マキお姉ちゃんよ、浮き上がってタイヤが格納されたぞ!」

「すごいの!かっこいいの!」

「……おお〜。」


 社外にいた三人が各々の感想を口にする。


「……俺も見てみたいんだが?」

「ソレでしタラ、私ガ代わりマショウ。一度着地して下サイ。」


 店員がそう言うと、俺のスカウターに再びARマーカーが表示される。指示されたボタンを押すと、再び機械音と共に少しの浮遊感がし、軽い衝撃がくる。


「おお!今度はタイヤが生えてきたぞ。」

「お姉ちゃん、かっこいいの!」

「はぇ〜……。」


 車から降り店員と代わる。

 店員が運転席に座り操作をすると、「フョン」と言う音と共に車体が浮き上がる。タイヤが内側に折りたたまれ、底部がフラットになる。


「おお〜!確かにこれはカッコイイな!」

「うむ。これは近未来を感じるな。」


 ……全身義体がなんかいってら。しかも都市伝説扱いの生体アンドロイドボディのくせに。


「全身義体でそれを言うか?」

「フフッ、自分の持っていない技術には未来を感じるものなのだよ。」

「そんなもんかね?」


 マリとそんなやりとりをしていると、今度は逆の手順で着地する。

 タイヤが出てきて、ゆっくり着地する。接地時にサスペンションが深く沈み込む。


 運転席から店員が降りてきて、カメラ・アイをこちらへ向ける。


「イカがでしタカ。」

「うん、いいね。素晴らしいです。」

「アリがトウございマス。ManualハコチラにAccessシテ下さイ。」


 店員が一枚のカードを渡してくる。それを受け取りポーチへしまう。

 


「アノ……。」


 店員が何処か言いにくそうな感じで切り出す。


「どうしました?」

「オ客様達ハ……オ強いデスよね?」

「……なんでそう思うんです?」

「ハイ、車でこのコロニーにイラッしゃってイマスが、車ニモお体ニモ傷がアリマセン。故ニ敵性体ニ遭遇シテも、一方的ニ駆除出来ル強サがアルト判断致しまシタ。」


 感情が見えないカメラ・アイがじっと俺を見つめる。


「もしも……強かったとしたら?」

「ハイ……。オ願いガゴザいマス。」

「うん、聞いてみましょうか。」


 ……嫌な予感しかしねぇ。


「ハイ、アル組織を壊滅シテ頂きたタイのデス。」

「……あたし達にテロをやれと?」

「イイエ、ソノ組織と言うノガ……」

「フフッ、先ほどの話に出てきた地下組織と言うことか。」


 店員の言葉を遮ってマリが口を開く。


「ソノ通りデございマス。」

「……ちょっと待って?都市伝説なんでしょう?」

「ハイ、巷デはソウ言わレテおりますネ。」

「……あたし達は都市伝説バスターズではないよ?」

「ハイ、巷デは都市伝説ト言わレテおりマスが、――実ハ都市伝説ではアリまセン。」

「「な……なんだってー!」」


 俺とマリが何処かのミステリー調査班のようなリアクションを取る。

 二人で無言のハイタッチを交わす。

 ……ナノとリノはさすがに知らないようでポカンとしている。


「……その根拠はなにかあるのかな?」

「ハイ、私ノMaster……コノ店の主人デスが、Masterノ御家族ガ拐わレタようデス。」

「ただの家出とかでは?」

「イイエ、記録映像が残っていマス。」

「……衛兵には?」

「届け出ハ出され、捜査モ行われテいマスが……」

「……芳しくないと。」

「ハイ……。」

「ふむ、ただの誘拐ではないのか?」

「ハイ……。」

「その根拠は?」

「ハイ、融合ガ失敗シタ被検体が見つかりマシテ……。ソノ被害者ヲ拐った時ト同じ人物ガ犯人デシタ。」

「ふむ、失敗作が見つかったというのに都市伝説とな?」


 マリが口を挟む。

 

「余りニモ……惨たらシイ事ニなっておりマシテ、衛兵ノ方デ情報ガ止められておりマス。」

「それを何故店員さんが?」

「ハイ、私達ニハ独自ノ情報網がゴザいマス。」

「もしも都市伝説でないとしても、どこにいるのかとか分からないとどうしようもないですよ。」

「ハイ、場所ハ分かっておりマス。モチロン報酬もお支払シマス。」

「……衛兵には?」

「伝えマシタが……中にSPYガイルようデ、握り潰さレタようデス。ソレに抗議シタMasterは拘束サレマシタ。」

「う〜ん。」


 どうすべきか考えていると、思考通信が飛んできた。

―マキ、ぜひ受けよう。

―え?その心は?

―うむ、ヒノデコロニーで同じようなアホ共がおったろ?

―ああ、ビルごと消したな。

―そのアホ共の技術の大本が、ポンコツ店員の言う地下組織とやらだろう。

―なるほど、犠牲者の弔い合戦ってところか?

―うむ。

―ナノはやってもいいと思うの!まだ助けられるかもしれないでしょ?

―……リノにも聞いてみるか。


「リノ、どうしたい?」

「私は足手まといになりそうだから……。それでもいいなら、みんなと行きたいな。」


 リノが遠慮がちに、しかしはっきりとした声で答える。


「分かった。店員さん、報酬は?」

「ハイ、報酬ハ金を1024ホドお支払シマス。」

「分かりました。引き受けましょう。」

「オオ!アリがトウごザマス!!」

「で、場所はどこなんです?」

「ハイ、ソノ昔ココ、オンシロコロニーは"トウキョウ"と呼ばレる土地ノ一部デシタ。」


 ……うん、知ってる。


「ソコは地下ニモ鉄道ガ縦横無尽に走っていマシタ。」

「そこが?」

「ハイ。Tunnelや施設ハ先の戦争でホトンド壊され、放棄サレマシタ。放棄サレた後ハ、再開発ニヨリその姿ヲ消しマシタ。しかし一部残ってイタようデ、ソコを研究基地トして使ってイルようデス。」

「ふむ。場所はどこだ?」

「ハイ、コチラになりマス。」


 店員が空間に地図を投影する。俺の知る23区の地図とは似ても似つかない地図だった。

 そこに一つのマーカーが落とされる。

 ココは……お高い店が立ち並ぶイメージのある地区の駅だな。


「入口は?」

「申し訳アリマセン、ソノ情報はアリマセン……。」

「ふむ。なら、昔の地下鉄の入り口を端から試してみよう。」

「それしかないね。」

「本当ニ申し訳アリマセン。お詫ビといってハ何デスガ。」


 店員はそう言うと、壁に向かって手を水平に振る。すると壁からガンラックが迫り出してきた。


「武器等ハコチラをご利用クダサイ。」

「ふむ?やけに太っ腹だな?」

「ハイ、激シイ戦闘が予想サレマす。皆様ガ無事ニ戻ラレル様、微力ナガラ支援サセテ頂キマス」

「じゃあ遠慮なく選ばせてもらいますね。」


 折角だ。武器を新調しよう。

 ガンラックの中の銃を一つ一つ見ていくと、たまになんでこんな物が?と言うような銃もあった。

 なんだよ、この宇宙戦士が持ってそうなハンドガンは。

 手にとっては戻すを繰り返してるとマリがニヤニヤしながらこちらへきた。


「フフッ、マキよこれを見てみろ。」


 そう言ってマリが持ってきたのは、昔漫画で見た事のあるバカみたいに大きな自動拳銃だった。まさかこんな時代で実物を作ったやつがいることに乾いた笑いが漏れる。


「はははっ!なんだよ、その対化物戦闘用の銃みたいなのは。」

「フフッ、思わず持ってきちまった。」

「ソレはMasterノご趣味デ作らレタ物でスネ。」

「……いい趣味してますね。」

「お喜ビニなりマス。」


 各自装備を見ていき、最終的にこのようになった。


 俺は7.62mmのバトルライフルにサプレッサーを付けたものと10mmオートのハンドガン。それにお守り代わりのマリに貰った9mmハンドガン。


 マリは.50口径のオートマチックハンドガンを二丁拳銃にし、.44マグナムを一丁。そして何故か、先ほどの13mmハンドガンを一丁。


 ナノは5.7mmのPDWにサプレッサーを付けたものと、9mmハンドガン。


 リノは7.62mmのボルトアクション式スナイパーライフルにサプレッサーを付けたものと、レーザーハンドガン。


 エネルギー兵器……迷ったけど信頼性が未知数だからちょっと選べなかった。


「みんな準備はいいか?」

「うむ。」

「いいの!」

「はい!」


「ご武運ヲ……。」


 店員に見送られ、俺達は車に乗り込む。

 車のアクセルをゆっくり踏み込むと、エンジン音もなく車体が静かに滑り出した。

 車内に響くのは、タイヤが路面を撫でるロードノイズだけだ。


 目標は旧・銀座駅。

 さあ。

 馬鹿共の、馬鹿な計画を潰しに行こう。


――――――――――――――――――

せんでん

カクヨムコン11のために新しい小説始めました。

どうぞよろしくお願いします。

TSおじさんだって異世界スローライフを送りたい

https://kakuyomu.jp/works/822139840850311936

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