2284年 6月 スタジアム街 宿屋

トントン⋯

トントントン⋯

何かを叩く音がする⋯


「お嬢ちゃん、下にお客さんだよ!」

おばちゃんの声で目が覚める。どうやらノックの音だったようだ。


「ふぁいっ!今行きます!」

飛び起きてそのまま外に出ようとするが、


【お姉ちゃん、服着てないよ!】


ナノのその言葉にピタリと止まる。いそいそと服を着て、レッグホルスターだけを着けて下に降りる。

下に降りると、おばちゃんが

「ほれ、あっちにお客さんが来てるよ!警備さんだ。⋯何かあったのかい?」

「ありがとうございます⋯いえ、特に思い当たるフシがありません⋯」

「そうかい?用事が終わったら朝食持っていってやるからね!」

「ありがとうございます。」

微笑んでお礼を言う。


備え付けの食事席に行くと、そこにいたのは何かを飲んでいる、昨日の警備兵のあんちゃんだった。おずおずと話しかける。

「お、おはようございます⋯」

「ん?おぉ!おはよう!」

「あのぅ⋯なんか用があるとか聞いたんですが⋯」

「そうだ、ちょっと腕をみこんで頼みがあるんだ。」

oh⋯なんか嫌な予感がする⋯

「⋯何ですか?⋯」

「〈ラッドラット〉を殲滅して欲しい。」

ほらぁ!やっぱりろくでもないことだ!

「お断りします。」

「報酬は弾む!」

「警備兵でなんとかならないんですか?」

「それが先日、巨大蜘蛛⋯アラクネって呼ばれているんだが、アラクネが6体も襲ってきてな⋯それの戦闘で半分くらい負傷してしまったんだ。」

⋯警備隊、思ったより弱いのかな。

「報酬は金1つと住民証を発行する!」

その時、ナノが口を挟んでくる。


【お姉ちゃん、受けたほうがいいよ。】


悩むフリをしながらナノと会話をする。


―その心は?


【お姉ちゃんはこの時代のどこにも住所もIDもないの。少なくともここの住民であると証明されれば旅もやりやすくなるでしょ?】


―確かになぁ。


「よし!わかった!さらに家もつける!」

「しかたないにゃあ、いいよ。」

「えっ?」

ゴホン

「⋯わかりました。お受けしましょう。」

「ありがとう、嬢ちゃん!」

「マキです。」

「ありがとうな!マキちゃん。」

「お礼は殲滅してからで。でも、いいんですか?」

「何がだ?」

「いえ、勝手にあたしに依頼して、報酬までつり上げちゃって。」

「あぁ、俺は警備隊の隊長だからな。それくらいの権限はある。」

隊長だったらしい。

「はぇ~そうだったんですね。」

「⋯警備兵が半分負傷したもんで俺が門番やってたんだ。」

⋯質問する前に疑問に答えてくれた。

「じゃあ、殲滅したら教えてくれ。」

そう言うと、隊長は席を立つ。

「あっ!殲滅の証拠はどうしましょう?」

「あー首領の首でも持ってきてくれ。なんてな!」

「首領ですか?」

「あぁ、首領は赤のモヒカンだからすぐに分かる。」

そう言うと、隊長は手を挙げて仕事に戻っていく。


「モヒカンか⋯」

今はないが、いずれ取り戻す。


「はいよ、朝食だよ!」

物思いにふけっていると、おばちゃんが朝食を持ってくる。

朝食は、皿に充填された謎ゼリーと、シート状の肉っぽい何か。相変わらず謎メニューだ⋯

謎ゼリーは赤色でパンの味、肉っぽい何かはソースカツの味⋯これアレだ。駄菓子のアレだ!

⋯味がある分レーションよりマシだな。


朝飯を食べ、装備を整えて武器屋へ向かう。

「らっしゃい⋯」

テンションの低い店主が出迎える。

「あの!これを売りたいんですけど⋯」

そう言いつつ回収した武器を机に置く。装填されていた弾は抜いて別口に置く。

「どれ⋯みせてご覧。」

店主は手に取り鑑定していく。

「本体は全部で500円ってところだな。弾は全部で200円だな。」

そんなもんか⋯

「はい、それでお願いします。」

「まいど。ついでになんか見ていきなよ。」

店主は硬貨をこちらへよこす。

「では、お言葉に甘えて⋯」

店内をみていると、ナノが何かを指さしながら話しかけてくる。


【お姉ちゃん、これ買ってください!】


何を欲しがったのか見てみると、小型のドローンだった。


―これか?壊れていそうだぞ?


【これくらいなら直せます!お姉ちゃん!】


ナノが可愛らしくおねだりをする。


―⋯わかったよ。


「すいません、これっていくらですか?」

「どれ⋯これは旧時代の発掘品だから銀2つだな。」

「壊れてるんですよね?オマケしてください。」

ダメ元で頼んでみる。

「⋯わかった。銀1つでいい。」

「わぁ!ありがとうございます。」

満面の笑みで礼を言う。半額にしてくれたんだ、これくらいならええやろ。

銀1つを払い、壊れたドローンを受け取る。リュックに詰めて、店主に礼を言いつつ店を出る。

次は服屋だ。

「いらっしゃい。あら、あんたドライブインに泊まってるお嬢ちゃんだね?」

「えっ?あ、はい。何で知ってるんです?」

「あそこの女将は私の妹なのさ。で、昨日やたら可愛いお嬢ちゃんが泊まりに来たって言ってたのさ。」

うーん⋯この⋯

「そうだったんですね。」

「ゆっくり見ていきなよ。」

宿のおばちゃんと比べるとテンションは低いな。いや、普通なのか。

何かいい服はないか見てみる。


【お姉ちゃん、これにしよう!】


ナノがはしゃぎながら指さすのは、カウンター向こうのトルソーに飾られた制服だった。


―いや、これ制服じゃね?


俺がじっと制服を見ていると、

「おや、その服が気になるのかい?それはねぇ旧時代の発掘品で、見た目が可愛いから飾ってあるんだ。⋯お嬢ちゃん、ちょっと着てみるかい?」

えぇ⋯


【お姉ちゃん、着てみましょう。】


「ではお言葉に甘えて⋯」

世話になってるからナノには弱いな⋯

取りあえず着てみて店主に見せてみる。


下着履いてないからスースーする⋯


「どうですかね?」

「あらぁ!すんごい似合ってるじゃないの!どう、買っていかない?」

「いくらです?」

「旧時代の品物だけど、よく似合っているから、そうさねぇ⋯500円2枚でどうだい?」


【お姉ちゃん、可愛いので買いましょう!】


⋯ナノの鼻息が荒い気がする。やっぱり表情豊かになってきてるな?


「では、それでお願いします。」

500円玉を2枚わたす。

「あっ⋯あと下着もお願いします。」

「まいどあり!下着はこっちだね。」

ナノの勧める下着もあわせて購入した。

ちなみに、下着を買ったその場ではいたら何故か怒られた。解せぬ。


装備を全て整え、〈ラッドラット〉の拠点へ向かうことにする。

BDUの上着に制服スカート、生足は危なそうだからニーソックスにアースカラーのブーツ。ニーパッドにエルボーパッドを装備する。腿にはレッグホルスター、プレートキャリアにマガジンポーチとN4Mの注射器、ホルスターを着ける。腕にはデバイスもつける。アサルトライフルはスリングで吊っている。

⋯我ながら物々しい装備だな。


さぁ!資源採掘⋯じゃない、盗賊退治に行きましょうかね!


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