第20話 スマートフォン音声記録②

日時: 20XX年10月26日〜11月23日

場所: 池森自宅

記録者: 池森 敬人

備考: スマートフォン音声メモ機能使用


10月26日 22:30

池森: 10月26日、夜の10時半。自宅待機を命じられた。


(ため息)


池森: 報告書は提出したけど、上司の反応が…なんというか、淡白だった。「わかった、しばらく休んでいろ」って。なんでだよ、人が一人いなくなってるんだぞ…。


(長い沈黙)


池森: 内海さん、ごめん。俺が一緒についていけばよかった。一人で行かせるべきじゃなかった。


(すすり泣き)


池森: よし!明日、もう一度警察に行ってみよう。なんとしても捜索してもらわないと。こんな対応絶対おかしい。


10月28日 19:45

池森: 10月28日。警察に行ったけど、やっぱりだめだった。「山岳救助隊と相談したが、現時点では捜索は困難」だって。


(苛立った声)


池森: 困難って何だよ。どこの山だって捜索くらいするだろ。雪も降ってるわけじゃ無いのに…


(長い沈黙)


池森: でも…そうか。俺が一人で行けばいいんだ。内海さんを探しに。なんで今まで思いつかなかったんだろう。絶対見つけますからね。


10月30日 14:20

池森: 10月30日、午後2時20分。一人であの山に行こうと思ったけど…怖い。正直に言うと、すごく怖い。


(震え声)


池森: あの時の黒い影。何だったんだ。あんな大きな…あんな生き物いるはずない…内海さんに何をしたんだ。


(長い沈黙)


池森: でも行かなきゃ。内海さんはすぐ戻ると言った。俺が迎えに行かなきゃ。


11月5日 02:30

池森: 11月5日の深夜。眠れない。


(疲れた声)


池森: さっき変な夢を見た。山が…山が呼んでるような。「来い」って。「お前も来い」って。


(息を呑む音)


池森: まさか…でも、山が呼んでるなら、行かなきゃいけないんじゃないか?内海さんも山が呼んだから行ったんだろ?


11月10日 16:15

池森: 午後4時15分。今日、スーパーに買い物に行った時、なんとなくお供え物を買ってしまった。


(困惑した声)


池森: お米とか、お酒とか。なんで買ったんだろう。でも…山に持って行けば、内海さんが喜ぶかもしれない。


(少し明るい声)


池森: そうだ。お供え物を持って行けば、山も機嫌がよくなるかもしれない。そうすれば内海さんを返してくれるかも。


11月23日 20:00

池森: 11月23日、夜8時。このタイミングでの出社命令が出た。ありえない。山に行かないと行けないのに、捧げないと。捧げないといけないのに…


(非常に落胆した声から、明るい声)


池森: そうだ…山の御身に捧げるだけなら別に行かなくても…きっと受け取って下さるはずだ。それで内海さんも帰ってくれば…内海さんも帰ってくる、俺も捧げられる…


(穏やかな声)


池森:嬉しい事じゃないか…でも、ちょっと…おかしい…いや、そんなことないか。さて、そうと決まれば遺書でも書いて…会社にでも行こうかな。屋上からならきっと山も見えるはずだ。


(記録終了)


11月22日 会社からの連絡記録

日時: 20XX年11月21日 10:00

連絡者: 制作部 田村課長

連絡先: 池森自宅(応答なし)


日時: 20XX年11月21日 15:00

連絡者: 制作部 田村課長

連絡先: 池森携帯電話(応答なし)


日時: 20XX年11月22日 09:00

連絡者: 総務部 竹下部長

連絡先: 池森自宅(応答なし)


備考:

翌朝、池森氏が転落死しているのを通行人が発見。

スマートフォン内の音声データは同社職員がmicroSDに移し、回収。

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