第16話 インタビュー記録③

山間集落取材記録

日時: 20XX年XX月XX日

場所: 奥桜谷集落 集会所及び各民家

取材対象: 集落住民複数名

聞き手: 内海(ディレクター)、池森(カメラマン)

備考: 住民全員が非常に協力的で友好的な対応

集会所でのグループインタビュー

参加者:

• 門脇トメ(82歳・元農家)

• 鈴木健一郎(58歳・元林業)

• 佐々木律子(65歳・主婦)

• 宮本国一(49歳・集落会長)


内海: 皆さん、お忙しい中ありがとうございます。まず、この集落での暮らしぶりについて教えて下さい。

宮本: 暮らしぶりですか。ここ静かなところで平和ですよ。(にこやかに)最近は山も元気で。

門脇: そうそう。山が生き生きしてる感じがするのよ。この前のお葬式してからかしらね。

内海: お葬式の後から?

佐々木: ええ。この間1人行方不明者が出たの、きっと山の御身に導いてくださったの。だからお葬式しなきゃダメでしょ?

内海: 山が導いてくれたからお葬式…

佐々木: ええ、故人はちゃんと住んでた場所に帰ろうとするの。でも、それじゃ山も寂しいでしょう?だから皆でお葬式をすればここであなたは死んだ、魂は山にいていいってこと。

門脇:肉体は無くてもいいの、故人の魂はきっと空の棺桶に入ってるからね、心がこもってればいいの。(うなずき合う住民たち)


(映像:住民全員が穏やかに微笑んでいる)


内海: 位牌を山に…という話も聞きましたが。

鈴木: ああ、あれも素晴らしいことです。だってお葬式なんだから、お位牌は作ってあげなきゃ。それにお位牌って仏壇にあるでしょう?それって山そのものってことじゃないですか。


内海: 神道の様な礼拝作法をしているということもありますが、位牌は仏教的です。この辺はどうお考えですか?

佐々木: 細かいことはいいんじゃない?山としらの様を大切にできればどんなことも取り入れるわ。そうやって長い間大切にして来てたのよ。


佐々木: 名前がわからない方の分も作って差し上げるの。山で迷ってる魂を案内してあげるのよ。

内海: 名前がわからない方、というのは?

門脇: 山にはいろんな方がいらっしゃるんです。昔から。その方たちにも位牌を作って、ちゃんとお迎えするんです。

宮本: でも、お位牌は我々は並べはしません。配置は全て山が決めることですから。


(音声に高音のノイズ)


個別インタビュー①:門脇トメさん

内海: 門脇さんは長くここに住んでいらっしゃいますし、元々の白埜集落からの転居も経験されていると思います。

門脇: そうですね。生まれ育った土地を離れなければならなかったのは悲しかったですけど、大丈夫でした。だってしらの様(漢字不明)が一緒だったから。

内海: しらの様?

門脇: そうよ。新しい御山を大事にするのに前の御山からついて来てくださったのです。

内海: しらの様が山のお名前ということですか?

門脇: 難しいわね。こればっかりは説明が難しいの。でも、結局わたしたちは山に喜んで欲しいって事。それなら私たちも嬉しいわ。(優しい笑顔)

内海: 具体的に山が喜ぶというのは?

門脇: まずはお供え物かしら?ちゃんときれいになくなってるのよ。

内海: お供え物は何を?

門脇: いろいろよ。お米、野菜、お酒…それから…(少し考える)まあ、山が必要としてるものを。


個別インタビュー②:宮本国一さん

内海: 集落会長として、住民の皆さんをどう思いますか?

宮本: みんな元気ですよ。生きがいがありますから。

内海: 生きがい、ですか。

宮本: そうです。山のお世話をすることです。山が元気だと、私たちも元気になる。

内海: 外部の人から見ると、少し変わった風習に見えるかもしれませんが。

宮本: そうでしょうね。でも理解してもらえると思います。一度山を見てもらえば。(確信に満ちた表情)

内海: 山を見る、というのは?

宮本: 山に登ってもらえば、きっとわかります。山がどれだけ素晴らしいか。どれだけ私たちを必要としてるか。

内海: 宮本さんご自身も山に?

宮本: ええ、毎日のように。山が並べてくださった位牌の手入れもありますし、山との対話も大切ですから。

(田中氏の笑顔が深くなる)

内海: 山との対話?

宮本: 山が何を望んでるか、どうすれば喜んでもらえるか。最初はわからなかったけど、今ははっきりわかります。


集落の子供たちへの質問

参加者: 小学生3名、中学生2名

内海: みんなは山についてどう思う?

小学生A: 山は優しいよ!いつも見守ってくれてる!

小学生B: お母さんが言ってた。山はみんなのお友達だって。

中学生A: 僕たちも手伝うんだ。見かけた位牌を綺麗にしたり、お供え物を持って行ったり。

内海: 怖くない?

小学生C: 全然怖くないよ!山は喜んでくれるもん!しらの様にも優しく名前を呼んでもらったよ!

中学生B: 将来は僕も山のお世話をしたいです。大人になったら、もっとたくさん山を喜ばせてあげたい。

(全ての子供たちが屈託のない笑顔)


撮影終了後の住民との雑談

門脇: あら、もう帰っちゃうの?もっとゆっくりしていけばいいのに。

鈴木: そうですよ。今度は泊まりがけで来てください。山の夜は本当に素晴らしいんです。

佐々木: きっと山も気に入ってくれてると思うわ。あなたたちのこと。

鈴木: また来てくださいね。次は一緒に山に登りましょう。

(住民全員が手を振って見送る。全員が笑顔)


撮影後記録(内海メモ)

・住民全員が一様に友好的で、異常な風習を完全に肯定的に捉えている

・子供たちまで同様の思考パターンを示している点が特に懸念

・「山が必要としてるもの」の具体的内容について明言を避ける傾向

・取材班を山に誘う発言が複数回

・集落全体が一つの意思で動いているような印象

・実際の山域での撮影を検討(要慎重判断)

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