第2話 東雲日報

関東平野の北部、山と川に囲まれた〇〇市は、人口約五十万ほどの地方の中核市であり、電車なら東京から約一時間半ほど。新幹線も通っており、県外からの出張客や学生で駅前はそれなりに賑わっている。

 休日には都市中心部にてイベントが開催され、郊外に出れば大型のショッピングモールに人が集まり、夜になれば駅前の繁華街の灯りが街を彩る。


 けれども、東京のきらびやかさに比べればやはり控えめだ。駅前から少し歩けば人通りは減り、やや古びたビルや取り壊し予定のマンションが目につく。一方で、昔からの民家や老舗のレストラン、古民家や蔵を改築したバーなど、新しい風も吹いている。


 この市に本社を構えるのが、地方紙・東雲日報である。

 創刊は戦後間もなく。地元経済や政治、学校行事や地域スポーツまで、長らく「県民の記録係」としての役割を担ってきた。発行部数は十万部余り。県内では今も一定の存在感を保ち、選挙や災害の時には真っ先に読まれる新聞だ。


 しかし時代は変わった。若者の購読離れは深刻で、ネットニュースの速報性と派手な見出しの前に紙媒体は押され続けている。東雲日報も例外ではなく、ここ数年で部数は右肩下がりだ。オンライン版を立ち上げたものの、有料会員は思うように増えず、SNSでは名前すら知られていない。


 編集局のフロアには空席になった机が目立ち、記者は減らされ、一人で複数分野を兼務するのが当たり前になっている。地方都市の新聞社は、かつてほどの影響力を失いつつある。


 それでもまだ、この地域で「起きたこと」を伝える責務だけは残っていた。

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