『何でも屋ことほぎ堂〜三白眼とタレ目の怪異録〜』

 新宿の雑居ビルの二階にひっそりと佇む「何でも屋ことほぎ堂」。

 一見すると普通の便利屋だが、扱うのはちょっと人には言えない“怪異”や“呪い”ばかりだ。

 小ネタだが、看板には『ことほぎ堂』とひらがなで書いてある店名が、名刺には『呪言ことほぎ堂』と記載されているところに、作者のこだわりを感じる。

 ここで暮らしているのは、三白眼で無口、普段は「無口」と書かれた黒マスクで表情を隠す荒木透と、口が悪く金髪ツンツン、豪運の持ち主でタレ目の水無瀬悠という凸凹コンビ。

 ラノベ読者にはたまらない、掛け合いとテンポの良さが魅力的なキャラクターだ。


 透は言葉に強大な力を宿す“言霊体質”。

 子どもの頃、感情に任せて口にした一言が原因で、友人を交通事故に巻き込み、自身も骨折したというトラウマを抱えている。

 その経験が「人を呪わば穴二つ」という信念を彼に刻み込み、以降は慎重に言葉を選ぶ日々だ。

 だからこそ、普段は丁寧語で控えめ、マスク越しに静かに過ごす彼の沈黙には、独特の存在感がある。

 そして各エピソードの最後に放つ決め台詞の、「寿ことほぐぞテメェ……!」は、祝福の言葉を装いつつ相手に致命的な運命が降りかかることを防ぐための必殺の一言。

 溜めに溜めた静かな怒りが炸裂する瞬間は、ラノベ的な爽快感とともに読者の胸を打つ。


 一方、悠は透の唯一無二の親友であり、彼の言霊の影響をも弾き返せる豪運の持ち主だ。

 いつも明るく、依頼人や街の人々とのやり取りで場を和ませるムードメーカーであり、毎回の依頼ではなぜか女性に惚れて振られるお約束も健在。

 三白眼×タレ目の凸凹コンビによる掛け合いは、シリアスな怪異譚に軽快さと笑いを絶妙に添える。


 第一話では、三十代のキャリア女性が「誰もいない部屋で名前を呼ばれる」という依頼を持ち込む。

 現代的な日常に潜む怪異というテーマは、読者に「もしかして私の周りでも……?」という小さな背筋の寒さを感じさせつつ、透と悠のやり取りでラノベらしいテンポのよさも同時に楽しめる。


 ラノベらしい軽快さ、バディものの掛け合い、そして言霊ことだまの力という独自の設定が絶妙に混ざり合った本作は、現代ファンタジー初心者からガチ勢まで楽しめる一冊だ。

 透の“寿ぐぞテメェ……”に込められた重みと爽快感、そして悠の明るさに、思わず笑いながらページをめくってしまうことだろう。


 その強大な力から、世間と距離をとりつつ、それでも人々と共にあろうとする2人の、ぶつかり合い、認め合う日々の暮らしは、忘れていた真摯さを思い出させてくれるのだ。

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