『魔王城で敵と恋に落ちた勇者ですが、この愛は世界を救うか破滅させるかのどちらかです』
2人の願いはただ一つ「来世では同じ陣営で」結末は勝利か、それとも破滅か。
閉ざされた魔王城の奥、ここまで攻め込んだ勇者一行が立てこもる。
敵の女幹部を人質にした一室から物語は始まる。
補給も援軍ものぞめない絶望的な状態で、勇者と彼女は敵対関係を超え、互いにしか吐露できない弱さを見せ合う。
そこに芽生えるのは、決して健全ではない、しかし純度の高い愛情だった。
本作の基調をなすのは、ストックホルムシンドロームと呼ばれる心理現象である。
これは人質が犯人に共感し、時に愛情を抱いてしまう逆説的な心理だ。作者はこれを単なる倒錯や洗脳としてではなく、極限状況でしか成立しない「歪んだ共依存の純愛」として描き出す。
勇者が勝利すれば彼女は処刑され、魔王軍に
救済の道が閉ざされているからこそ、二人の関係は濃縮され、やがて「正と負のエネルギー」を掛け合わせた自爆という極致に結晶する。
終盤の描写は圧巻だ。
魔王が女幹部を切り捨てると言う決断をしたと言う情報をつかみ、勇者一行は捨て身の脱出を試みる。
仲間を一人また一人と失い、ついには魔王軍の主力部隊に包囲された二人が選んだのは、来世での再会を祈り、世界に一瞬の平和をもたらす殉愛。
地形が変わるほどの爆発の中で抱き合う姿は、悲劇でありながら究極の愛の勝利でもある。
作者は余計な説明を削ぎ落とし、「その後」を語らない。
読者の胸に残るのは、光に呑み込まれる刹那の二人の姿と、「来世では同じ陣営で」という言葉だけだ。そこに余白があるからこそ、読者は無数の「もしも」を想像し、物語は読み終わった後も心を支配し続ける。
本作は、勇者譚の枠を借りながらも、愛と死をめぐる人間の本質を問うラブストーリーである。
歪んでいるのに清らか、救いがないのに救済的——その矛盾こそが、この作品の唯一無二の輝きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます