黒猫の図書館

あるる

第1話 甘い匂い

 やあやあ、いらっしゃい!

 こんな場所にお客さんなんて珍しいね?


 え?ここはどこかって?


 ここは図書館だよ。皆の知識を集めた英智の集まる場所。

 今風に言うならアーカイブかな。

 厨二的にはアカシックレコードだね!


 その中でも、ボクの趣味で偏らせているから知る人ぞ知る特殊な図書館。


 お?興味ある?

 いいね、いいね!


 ねえ、きみ、怖いお話好き?

 そう、所謂ホラー。


 ボクは怖がっている人の話しも怖がらせる方も全部楽しめちゃうんだけど、君はどういうのが好きかな?


 そっか、怖がってる人のお話なら、コレが今熱いよ!

 はい、どうぞー!



 ◇◆◇◆◇◆◇


 それはうだるように蒸し暑い夏の夜だった。

 エアコンをつけていたのに暑くて、汗が気持ち悪くて目が覚めてしまい、仕方なく寝室を出ると廊下がサウナだった。


 うわぁ、とゲッソリしながらもトイレに行ってから水を飲みにキッチンへ向かう途中、なにやら甘い匂いがする。

 なんだろう?

 こんなフルーツのような匂いのものなんてないはずで、ゴミも片づけてある。


 とはいえ、嫌な匂いではなかったので、「まあ、いいか」と冷蔵庫に行き麦茶をたぷたぷとコップに入れ飲む。

 冷たい麦茶が喉を冷やし、胃までひんやりするような爽快感にホッとしてもう一度寝直しに行こうと寝室に向かおうとすると、またあの甘い匂いが。


 さっきとは違い、今は完全に目が覚めている。

 気になって匂いのする方向を確認すると、普段は物置として使っている部屋だった。


 嫌な予感しかしない。

 それでも、もう気になって仕方ないので、確認するしかない。

 怖いのを我慢して、そっとドアを開けると月明かりが差し込んでいるが、音はしない。

 更にそっとドアを開くと……何かがギシギシいいなが揺れていた。


 月明りに照らされて、影が揺れている。

 怖いのに目が離せない。

 見たくないのに、みないといけないという使命感に視線を上げると……


 苦悶の表情で首を吊っている長い髪の女性が、恨めしそうにこっちを睨みつけている。


 いやぁあああああああ!!


 叫んで、逃げたいのに腰が抜けて、這うようにキッチンまで逃げ、そこで意識を失った。

 覚えているのは熟れた桃のような濃厚な甘ったるい匂いだけ。


 翌日起きて部屋を恐る恐る覗くと、何もなかった。



 そうして普通の平凡な日常に戻ったが、時折あの甘い匂いを嗅ぐと体が強張る。

 そして、あのギシギシと言う音が聞こえる。


 あの音が、近づいてきているのが恐ろしい……もう、すぐそこまで。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 いやぁ、怖いねぇ~怖いねぇ~。

 結局どうなってしまったんだろうね?



 今宵はこちらでお終い。


 また次のお話しを楽しみにね!

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