【悲報】裸で暮らしていたら、鎌倉幕府得宗家に謀反人扱いされたので、仲間たちと全裸で反乱起こすことにした件【全中真裸物語】

水森つかさ

「全中真裸物語 第一巻  挙兵の段」より抜粋

それ、鎌倉の御代も末になりて、時の執権は北条 師見ほうじょう もろみえの治世なり。


師見、謹厳実直にして、世の風俗の乱れを深く憂う。

殊に、市井にはばからず肌をさらす者を大いに嫌い、遂に「裸体禁止式目らたいきんししきもく」なる法度を天下に布告す。


これに違う者は、厳罰に処すとの沙汰なれば、日ノ本中の大路より裸の者は影を潜めたり。


されど、この厳しき法度に、真っ向より異を唱うる一行あり。

坂東に在りて、いにしえより生まれながらの姿を尊ぶ風習を守る、裸乃国らのくになり。


その国の守護職にありて国を治めるは、平姓を賜りし名門、平 真裸たいらの まはだか


彼の館には、日ノ本中の裸体主義者どもが集い、自らを「全裸倶楽部」と称し、日夜、衣をまとわぬことの理を語り合う。


その中に、真裸が食客として最も信を置く男あり。名を全中ぜんちゅうと申す。

齢四十路を越え、腹はゆるび、その姿、まことに凡庸なる全裸中年男性なれど、その弁舌と智謀、並ぶ者なしとささやかるる。


ある夜、館の大広間に、全裸倶楽部の面々、百余名が集いたる。皆、月明かりにその肌を青白く光らせ、一様に沈鬱の面持ちなり。

執権・師見が遣わしたる使者がもたらしたる厳しき下知が、その故なり。


「明日午の刻までに、全員が水干、直垂、をまとい、幕府への恭順の意を示さぬにおいては、これを謀反とみなし、大軍を以てことごとく討ち果たさん」


広間は、水を打てるが如く静まり返る。ある者は地に額ずき、ある者は天を仰ぎて嘆く。


「もはやこれまでか。幕府の大軍に、我ら裸一貫の身にて何ができようぞ」


「いっそ潔く、この肌に衣をまとい、永らえるべきか…」


諦観の念、水面の油の如く広がり、反旗をひるがえす気概は、誰一人として持ち合わせぬ様なり。


その時、上座にありし全中、ゆるりと立ち上がり、広間の中央に進み出でたり。

その緩みたる腹をポンと一つ叩き、静まり返る一座を見渡し、静かに、しかし腹の底より響く声で口火を切る。


「聞けぃ、もののふどもよ! 何をうつむき、何を嘆くか。幕府の大軍、そは何ほどのものぞ。彼らがまといし綾羅錦繍りょうらきんしゅう鎧直垂よろいひたたれ、そはまことの強さか。否!」


全中、一歩進み、己が胸を叩きて叫ぶ。その緩みたる肉、鈍き音を立てたり。


「強さとは、まとうものにあらず! 脱ぎ捨つるものにこそ宿るなり!

得宗家をはじめとする者たちは、家名に守られ、所領に守られ、鎧に守られて、初めて己が己であると思い込む。

されど我らは何ぞ! この身一つ、この肌一枚にて、天地の間に立つ! いずれが真のつわものか、論ずるまでもあるまいて!」


倶楽部の面々、はっと顔を上げる。その目に、微かな光の宿り始めける。


全中、更に声を張り上げ、その言葉は雷鳴の如く広間に響き渡る。


「そもそも、生まれ落ちし時、我ら皆、何ぞまとうてありしや!

執権・師見も、六波羅の探題殿も、ここに在る我らも、皆ひとしく赤子にて、裸一貫にはあらずや!

己が始まりの姿を忘れ、後生大事に衣をまとい、それを権威とうそぶくく者どもこそ、まことの臆病者よ!」


「然り……」その呟きは、さざ波の如く広がりぬ。


「思い出せい! 我らのこの世に出でし瞬間の、あの清々しき様を!

我らは皆、等しく裸にて生まれ、裸にて育ち、そして裸にて土に還るものぞ!

師見もろみえが禁ずるは、我らが服を脱ぐことにはあらず!

我ら全ての人間が持つ、生まれながらの誇りと真実の姿を禁じようというなり!

ここに起たざるをもののふと言わずして、何をもののふと申さん!」


全中は、両腕を大きく広げ、天を仰いで断言す。


「我らが起こすは、乱にあらず! これは、人が人として生まれた証を取り戻すための戦なり!

恐るるな! 恥じるな!

得宗家、幾万の兵を率いて来ようとも、我らは皆、生まれながらの王者の姿ぞ!

立てぃ、全裸のつわものども! 幕府に我らが真の姿を、そして生まれながらの自由の魂を見せつけてくれるわ!」


その演説の終わるや、広間は割れんばかりの雄叫びに包まれけり。


「「おおおおおーーーっ!!」」


先刻までの沈鬱な空気は消し飛び、男たちの目には決意の炎、燃え盛る。

彼らはもはや、ただの裸体主義者にあらず。生まれながらの誇りを胸に、巨大な権力に立ち向かう、一人の「全裸武者」と化したり。


一座の上座にありし裸乃国の守護、平 真裸たいらの まはだか、静かに立ち上がり、全中の肩に手を置きて、深く頷く。


こうして、後に「全中真裸ぜんちゅうしんらの乱」と呼ばれる戦の火蓋は、一人の全裸中年男性の魂の叫びによりて、切って落とされにけり。


【現代語訳】


さて、鎌倉時代も末期になって、時の執権は北条師見(ほうじょう もろみえ)の時代でした。

師見は非常に真面目で厳格な性格で、世間の風紀が乱れていることを深く心配していました。中でも、街中で平気で肌を晒す者たちをひどく嫌い、ついに「裸体禁止式目」という法律を全国に公布しました。違反した者は、どんな者であれ厳しい罰に処すという命令だったので、国中の大通りから裸の者は姿を消しました。


しかし、この厳しいお触れに、真っ向から反対する一団がいました。関東にあって、古くから生まれながらの姿を尊ぶ風習を守っている、裸乃国(らのくに)です。


その国の守護は、平の姓を賜った名門、平 真裸(たいらの まはだか)です。彼の館には、日本中の裸体主義者たちが集まり、自らを「全裸倶楽部(くらぶ)」と称して、毎日毎日、服を着ないことの哲学を語り合っていました。


その中に、真裸が食客として最も信頼を置いている男がいました。名を全中(ぜんちゅう)と言います。年齢は四十歳を過ぎ、お腹はたるんでおり、その姿は全く平凡な全裸中年男性ですが、その弁舌と知恵は、並ぶ者がいないとささやかれていました。


ある夜、館の大広間に、全裸倶楽部のメンバー百人以上が集まっていました。皆、月明かりにその肌を青白く光らせ、一様に沈んだ表情をしています。執権・師見が派遣した幕府の使者が持ってきた最後通牒が、その理由でした。


「明日の正午までに、全員が武士の正装である水干(すいかん)や直垂(ひたたれ)を着用し、幕府に従う意思を示さない場合は、これを謀反とみなし、大軍をもって全員を討ち果たす」


広間は、しんと静まり返っています。ある者は床に額をつけてうなだれ、ある者は天を仰いで嘆いています。


「もはやこれまでか。幕府の大軍相手に、我々裸一貫の身で何ができるというのだ」


「いっそのこと、潔くこの肌に服を着て、生き永らえるべきだろうか…」


諦めの気持ちが、水面に広がった油のように広がり、反乱を起こそうという気概は、誰一人として持っていないようでした。

その時、上座にいた全中が、ゆっくりと立ち上がり、広間の中央に進み出ました。たるんだ腹をポンと一つ叩き、静まり返った一座を見渡し、静かに、しかし腹の底から響く声で口火を切りました。


「聞け、武士たちよ! 何をうつむき、何を嘆いているのだ。幕府の大軍、それがどれほどのものだというのか。彼らが着飾っているきらびやかな鎧や直垂、それが本当の強さか。違う!」


全中は、一歩前に進み、自分の胸を叩いて叫びました。彼のたるんだ肉が力強い音を立てました。


「強さとは、着るものにあるのではない! 脱ぎ捨てるものにこそ宿るのだ!

得宗家を中心とする一団は、家の名誉に守られ、領地に守られ、鎧に守られて、初めて自分が自分であると思い込んでいる。だが我々はどうだ! この体一つ、この肌一枚だけで、天と地の間に立っている!

どちらが真の武士か、議論するまでもないだろう!」


倶楽部のメンバーたちは、はっと顔を上げました。その目に、かすかな光が宿り始めます。

全中は、さらに声を張り上げ、その言葉は雷鳴のように広間に響き渡りました。


「そもそも、生まれ落ちた時、我々は皆、何かを着ていたか! 執権・師見も、六波羅の探題殿も、ここにいる我々も、皆同じように赤ん坊で、裸一貫ではなかったか! 自分が生まれてきた時の姿を忘れて、後生大事に服を着込み、それを権威だとうそぶく者たちこそ、本当の臆病者なのだ!」


「そうだ…」誰かが呟きました。その呟きは、さざ波のように広がっていきます。


「思い出せ! 我らがこの世に出てきた時のあの清々しい瞬間を! 我々は皆、等しく裸で生まれ、裸で育ち、そして裸で死ぬのだ!

執権・師見が禁じているのは、我々が服を脱ぐことではない! 我々全ての人間が生まれながらに持っている、誇りと真実の姿を禁じようとしているのだ!

ここで立ち上がらない者を武士と言わずして、何を武士というのか!」


全中は、両腕を大きく広げ、天を仰いで断言しました。


「我々が起こすのは、ただの謀反ではない! これは、人が人として生まれた証を取り戻すための戦いだ!

恐れるな! 恥じるな! 得宗家が何万の兵で来ようとも、我らは皆、生まれながらの王者の姿なのだ!

立て、全裸の武士たちよ! 幕府に我々の真の姿を、そして生まれながらの自由な魂を見せつけてやろうではないか!」


その演説が終わると、広間は割れんばかりの雄叫びに包まれました。


「「おおおおおーーーっ!!」」


先程までの沈んだ空気は消し飛び、男たちの目には決意の炎が燃え盛っていました。彼らはもはや、ただの裸体主義者ではありません。

生まれながらの誇りを胸に、巨大な権力に立ち向かう、一人の「全裸武者」へと変わっていたのです。

一団のなかで最も上座に座っていた裸乃国の守護である平真裸は、静かに立ち上がり、全中の肩に手を置いて、深く頷きました。


こうして、後に「全中真裸の乱」と呼ばれる戦いの火蓋は、一人の全裸中年男性の魂の叫びによって、切って落とされたのでした。

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