航跡4:「大作戦への布石」
繋ぎのシーン。
――――――――――
帰還後の各種点検整備、必要事項を終え。
そして損傷こそ無くとも少なからず疲れた身を、いくらか休憩を取って癒やした後。
[はかたぜ]は海将補の彼女の執務室を訪れていた。
海将補の応接ソファに腰掛ける[はたかぜ]の身体は、任務が終わった今もそのまま引き続きの美少女の姿。
別に「彼」、[はたかぜ]は。元の男性の体に戻れなくなってしまった、などと言う事はない。
しかしハームの出現は頻繁で、それでいて神出鬼没。
その脅威にいち早く対応するための即応態勢の観点から。この「力」を手にしてから、ほとんどの時間をこの身姿でいることを求められた。
「……」
[はたかぜ]が横傍の執務机に目をやれば、海将補の彼女は書類やパソコンに手早い色で目を通している。
若い身空とはいえ、海将補の身分。まして今は日々戦いのある状況、司令たる彼女の仕事も間違っても少なくは無い。
「――ふふ……本来の精強なキミの姿と、今の可憐な姿の対比。またトキめいてしまうね……」
だが、そんな煩雑な仕事を片手間に器用に片づけつつ。
彼女は時折[はたかぜ]に盗み見るように視線を寄越しながら。何かそんな怪しい声を漏らし届けてくる。
覗き見れば、彼女の執務机の片隅に小さな写真立てが置かれている。それに収まる写真に写るは、海自の制服姿の精強そうな男性。
実はそれこそ、元の男性の姿の[はたかぜ]だ。
机に女が自分の写真を置くなど。まるで恋人か夫婦のようではないか。……事情を知らずにいれば、そんなように浮かれうぬぼれてしまったかもしれない。
しかし明かせば、彼女はその特異……変態染みた趣味嗜好から。どうにも[はたかぜ]の元の男性の姿と、一変した今の可憐な美少女の姿の。
その双方の対比からの「ギャップ萌え」を愉しんでいるようなのであった。
「シンプルに気持ち悪いぞ」
そんな特異な。やや変態的な様子に言動を隠さぬ我が上官に。
[はたかぜ]はまた遠慮なく、隠さぬ軽蔑を込めたジト目で海将補の彼女を刺す。
「あぅっ♡そんな蔑んだ目で囚われたら、身体がゾクゾク疼いてしまうよぅっ♡」
「はぁ……」
しかし、彼女は冗談なのか本気なのかわからぬ。そんな艶やかさを交えたふざけた言葉でまた返してくる。
見た目は可憐な美少女の面影を残す美人だというのに、台無し。
付き合いもいくらかになってきた、そんな残念変態上官に対して。[はたかぜ]はすでに呆れを隠さず、遠慮もしなくなっていた。
そして、今のやり取りも見えたような。
苛烈な人類の敵との戦いと。一方での性転換の身から恒例となりつつある、色惚けた日常の双方のギャップに。
右往左往させられつつも、良くも悪くも馴染み出してしまっていること。[はたかぜ]の最近のちょっとした憂いであった。
「――さておき。今回の急な対応にその完遂、ホントに良くやってくれた」
「隊の皆に、関係各所の協力のおかげだ」
そんな色惚けたやり取りを、しかしそこまでで区切りとして切り替え。
海将補の彼女は、提出された先程の要塞型ハーム撃破任務の記録・報告内容を手元に見つつ。その成功を称える言葉を改めて[はたかぜ]に向け。
[はたかぜ]も、それが関係各員の協力のおかげで成ったものである事を。また改めて返す。
補足すると。
二人は互いの階級に違いこそあれど、任務に就いたのが同時期であり、そして元よりの歳が近い事もあって。
格式ばった、堅苦しい場面などを覗いて。敬語も解くことにしていた。
「しかし、「大作戦」の前にいらないお客が舞い込んだものだ」
そしてしかし、次には少しの溜息に倦怠交じりの声色で。[はたかぜ]は先の要塞型ハームをそんなように表現して零す。
それと合わせて紡がれた、「大作戦」という表現。
「作戦計画の予定は、変わってないよな?」
「あぁ、予定通りだよ。よほどのイレギュラーが無い限り、定めた日時にて決行される」
[はたかぜ]は言葉を続けて、海将補の彼女にそんな尋ねる言葉を向け。彼女もそれに肯定の言葉で答える。
人類の敵、脅威たるハーム。
その出現元、活動拠点とされる――人類は「巣」と呼ぶその一つが。
多大な労力を注いでの研究解析、及び調査・情報収集任務が遂に実り。
日本より太平洋側に離れた洋上に、ついに特定された。
そして、脅威の元の一つたるそれを叩き無力化するべく。
大作戦の計画準備が進行し、その決行が近い日にいよいよ迫っていたのだ。
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