第2話 爆笑シーン
スクリーンが明るくなり、最初の映像が始まった。
そこに映っていたのは、迷彩服を着た若い兵士たちが戦場の片隅でふざけ合う姿だった。
「おい、カメラ回ってんぞ! いけいけ!」
兵士の一人が叫び、別の兵士が転がるように前へ飛び出す。爆発音が遠くに響いているのに、彼らは気にする様子もなくポーズを決める。
「見てるか、世界! 俺たちは最前線から生配信中だ!」
大げさに胸を張るその姿に、映画館の観客から笑いが起きた。
映像は次々と切り替わる。戦車の残骸の上でダンスを踊る兵士。敵の砲撃音に合わせて即興ラップを始める兵士。さらには「地雷原チャレンジ!」と叫びながら、わざと地面を踏み鳴らして走る姿まで。
スクリーンに映し出されるその狂気じみた行動は、なぜか笑いを誘った。
「こいつら、バカだろ……」
前列の大学生が吹き出す。隣の友人も腹を抱えて笑った。
会場全体が笑いの渦に包まれていく。後方に座っていた高校生グループも声を上げて笑い、中年の観客までもが肩を揺らしていた。ただ一人、老人だけは眉をひそめ、腕を組んだまま黙っていた。
映像の中の兵士が、突然カメラに向かって叫ぶ。
「俺たち、死ぬまで配信者だ! チャンネル登録と高評価、よろしくなー!」
観客はさらに爆笑した。
その瞬間、スクリーンの右上に小さなテロップが現れた。
**「StreamZ再生数:1,280万回」**
その数字に、観客の笑いは一層強まった。まるで今目の前で再び流行が起きているかのように。
しかし、その笑いの中にもわずかな違和感を覚える者もいた。前列の女性は口元に笑みを浮かべながらも、どこか不安げにスクリーンを見つめていた。中年の男性は苦笑いをしつつ、ポップコーンをつまむ手を止めていた。
やがて、映像の中で一人の兵士が派手に転んだ。顔を土に突っ込み、慌てて立ち上がる。頬には赤い線が走り、かすり傷から血が滲んでいた。
「いててて……! でも配信止めんなよ! まだまだ見せ場はこれからだ!」
その言葉に、会場から再び笑い声が起きた。しかし同時に、わずかに空気が変わったことを誰もが感じていた。笑いと不安の境界線に立たされているような感覚。
観客はまだその変化を深く考えてはいなかった。だが、心のどこかで「これは単なるお笑いじゃないのかもしれない」という小さな疑問が芽生え始めていた。
それでもスクリーンの中の兵士たちは、楽しげにカメラに向かって笑い続けていた。
「次はもっとヤバいことやるからな! 高評価押せよ!」
場内は再び笑いに包まれた。――まさかこの笑いが、後に重くのしかかることになるとは、まだ誰も想像していなかった。
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