第17話 彼はゴミで彼女を大切にしない
独身男のダニエルは特別な感情を持っている妹ソフィアの家に、月に数回行って子供のトーマスとリアムと遊んでいた。目的は妹の様子を窺って、幸せに暮らせているのか? と兄は気にかけた。
子供との触れ合いも単純に楽しかったし、会いに行くときは子供への玩具を買ってきて、一緒に遊び屈托がなさ過ぎる笑顔で喜んでくれると、伯父のダニエルは可愛い子供たちに目尻を下げた。そのような可愛がる存在が妹以外にいなかったので新鮮な気持ちだった。
そんな時、いつも通り遊びに行ったときにソフィアと話したら、元気がないことに気がつく。結婚する前は同じ屋根の下で実家で暮らして、長期にわたって妹の事を毎日つぶさに観察してきた。実際ダニエルは有能で磨き上げられた男ですから直感が告げる。
(妹は、今苦しんでいる)
自然に笑顔を振りまき会話をしながら兄はそのように思う。ダニエルの直感は当たっていた。その頃ソフィアは夫のジャックから、子供が自分と似てないと責められて夫婦仲は険悪になり、口論になることが多く妻は悩んで少しやつれていた。
家族の揉め事なので兄に相談しようとは思わなかった。ソフィアのほうも明るく接して悟られないようにした。自分に驚くほど溺愛ぶりを見せてくれるダニエルに頼めば解決はするかもしれないが、単刀直入に言うと夫を魔法で恐ろしい拷問でもし、脅して力で解決すると思い妻はそれを嫌ったのだ。
結婚前にもそんな事があった。彼とのデートにいつも金魚のフンのようについてきたダニエルが、怒ってジャックは人生の幕を閉じられそうになり三途の川を見ることになった。ソフィアが間に割ってはいり、ダニエルは怒りをかろうじてこらえた。
「寝坊した」
ジャックはルーズな性格ですから、デートに遅刻したりするのは常習化して当たり前の事でした。ダニエルは実は妹のデートに同行している負い目を多少は感じていた。なのであまり強く言えなかったのもあるし、感情を押さえつけていた。
とは言ってもデート初日から遅刻し、とぼけた様子で笑って反省することもなく、自分が悪かったと認めて詫びる言葉もないし、いくらデートについてくる迷惑な兄でも、仏の顔も三度までという思いで怒りの限界だった。
妹のソフィアにもあんな男は別れろとしきりに注意した。何度も好きだと口説かれて付き合った幼馴染かもしれないが、あいつは人間性がおかしいぞと妹に言うと、軽い戸惑いを覚えつつわかってるからと答えていた。
「どうしてあいつと付き合ってるんだ?」
「私も正直驚いてるの……」
兄は自分だったら彼女の事を一番に大切にしているのにと思い、現在に至るまで一度も交際したことがない兄は寂しげな影が目に宿っている。容貌が優れ何をするのも上手にこなすダニエルは、昔から何度も多くの女性に告白され異常すぎるほどモテますが、彼女を作ることは妹への裏切りだと勝手に思って全て断っていた。
ソフィアもジャックの自己中で、他人の都合を考えないところを再三注意したが、直らないし彼に改善しようという思いがない事も感じていた。ダニエルはソフィアの目を見て真面目に言う。
「あの男は百歩譲ってもゴミだろう?」
「私もそう思う」
あの男は最低最悪で良いところが一つもない。兄は妹が選んだ相手なので、どんな男なのかけっこう期待していましたが、ほんの少しだけでも長所があるかとジャックの姿をじっと凝視して真剣に探しましたが、全く見つけられなかったと話す。
まさか彼がこんな人だったのかと、執拗に言い寄ってきたので大切にしてくれると思っていたのに……思わせぶりな態度であの求愛行動はなんだったの?
テキトーな態度で、頭も悪く全然愛情を注いでくれないじゃないの! という思いだった。彼は何を考えて自分に交際を申し込んだのか? 彼女はわからなくなっていました。
【第3話参考】運命的な出会いで熱烈な恋愛の末に二人は結ばれたというのは、ジャックが劇的なものだったと思われたくて周りに流した話が噂として広まったのが真相でした。
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