第7話 有能な兄に両親の悩み
「ジャックいい加減にしないか!」
「ダニエルも話がややこしくなるからもうお黙りなさいっ!!」
固い表情をして貝のように黙っていたジャックの父親が、もう沢山だという思いで雷のような怒鳴り声をあげた。すかさずソフィアの母も追い打ちをかけて息子のダニエルを咎めた。
ダニエルは素朴さと無邪気な雰囲気を持ち男前な外見に、明るく社交的な性格で会話もうまくどこにも欠点がない男性だと思われている。昔から女性にチヤホヤされていたが、今も依然として貴族令嬢からのお見合い話が止まる事なく、ラブレターの返事をどうしようか頭を悩ませている日々。
そんなに好意を寄せられるが、ダニエルが学生時代から誰かと付き合っているという話は聞かなかった。家族にも一度も恋人を紹介することもなく、なんと生涯を独身で通すと言い出す始末。
――だいぶ前に父親は真剣に息子を問い詰めた事がある。正直なところ、息子は人に言えないような特殊な性癖を持っているのではないか? と両親は本気で心配し始めていた。
「なんでダニエルは、女性と付き合わないんだ?」
「私にも分からないわ。あなたどうしてでしょうか?」
ダニエルの事で夫婦と昔から仕えて信頼している執事やメイドと話し合った。みんなが眉を寄せた顔で様々な議論の末に、本人に聞いてみるしかないという結論になる。
「旦那様に奥様、よろしいでございますか」
「なんだ?」
「可能性としてですが……お坊ちゃまは体に何か重大な悩みを抱えているのかもしれません」
誰が尋ねるのか? という話にもなったが、最初はダニエルが幼少の頃から懐いている今は白髪の年齢を重ねた老執事か父親か迷ったが、最後にはやはり父親しかいないだろうと全員の意見が一致して決まった。
母親だったらあそこが小さいなど下品なネタは、恥ずかしくて息子は言いにくいかもしれないというのも考慮する必要があった。
この時は、妹のソフィアを溺愛するあまり恋人を作らないという事実を知らなかった。両親は兄の事を学業優秀で真面目な性格だと思っていて、子供だった頃からソフィアのそばに寄り添い、身のまわりの世話をするダニエルの事を妹に優しく面倒見がいい兄だと、両親だけでなく教育係からもみんなに褒められた。
「妹を大切にする偉いお兄ちゃんですね」
「うん、僕はどんな時でもソフィアを守るよ」
本心を言えばダニエルの行っている事は、メイドの役割でソフィアへの行き過ぎた奉仕であるが、小さい頃のソフィアは遊んでくれて何でもいう事を聞いてくれる兄の事が好きで嬉しそうに顔をほころばせていた。一緒に散歩に出掛けた時はガラス細工を扱うように丁寧に手をつないで、眠っている時はそっと頭を撫でてあげた。
だが妹のほうは大人になるにつれて、兄との距離感が近すぎるのではないか? と漠然とした疑問をもって、冷たく突き放すような態度を取り始めた。かと言って兄のほうは妹への接し方が大きく変わることはなかった。
このままでは駄目だとダニエルを改善しようとソフィアは情を捨てて、ぞんざいな言葉遣いをして邪険に扱ったが気持ちよさげに幸福そうに顔を輝かせて兄は全て受け入れてしまうので、妹離れできない兄にほとほと困り果てていた。
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