第12章 : 相続人の失踪

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[失われた村 - 北の航路]


ジルドは、ほとんど必死の力でアーサーの腕を掴んだ。

「戻らなければ!これは…これは危険すぎる…」


しかし、旅人が稲妻のような速さで移動するにつれ、彼の声は霧に飲み込まれた。旅人はアーサーの肩に手を押し当て、奇妙な呪文のささやきが、まるで地の底から湧き上がるかのようにかすかに響いた。


黒い光が空気を渦巻き、死の渦のように大気を圧縮した。ジルドはよろめき、肺が圧迫されて視界が遮られるようだった。


「アーサー!」彼女は叫んだ。


遅すぎた。


アーサーのまぶたはぴくぴくと閉じ、体は震え、まるで生命力のすべてを吸い取られたかのようだった。


彼は落下したが、旅人に優しく――裏切られるにはあまりにも優しく――受け止められた。


邪悪な笑みが浮かび、ジルドを千の刃のように突き刺した。


「アンダルスの継承者は…誰のものでもない。彼は定められたゲームの駒に過ぎない。」


霧が渦巻き、風は千の舌が囁くようにシューシューと音を立て、旅人とアーサーの体は一瞬にして消え去り、渦巻く黒い塵に押し流された。


残ったのはジルドだけだった――凍てつく地面に跪き、剣を震わせ、絶望の叫びを上げていた。

「アーサー!!!」


唯一の答えは沈黙だった…死の叫びよりも恐ろしい沈黙。


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[ナバ・デ・スティコ公爵邸の広間]


松明は、大広間に充満する緊張感を感じ取るかのように震えた。


ナバ公爵は領土の地図の前に立ち、鋼鉄のように鋭い視線を向けていた。彼を取り囲む貴族や将軍たちは、


彼らの顔は緊張に満ち、不安に満ちた者もいれば、政治的な思惑を帯びた者もいた。


「沈黙するわけにはいかない」ナバ公爵の声は低く重く、雷鳴のようだった。


「北の航路で、二つの王族が行方不明になった。この知らせが帝国に伝われば…反逆罪で告発されるだろう」


デルヴェイン侯爵は杖を床に叩きつけた。怒りで甲高い声だった。


「ならば、誰よりも先に彼らを見つけ出さねばならない! 宮殿が我々をスケープゴートに仕立てる前に!」


ヴェルダン伯爵は苦々しく言い返し、顔は蝋のように青ざめていた。


「あるいは、彼らの遺体が敵の手に落ちる前に…もしそうなったら、この同盟は終わりだ。」


ナバ公爵が手を挙げた。一瞬の沈黙が部屋を包んだ。彼は地図を一瞥し、それから貴族たちの顔を順番に見た。


「捜索隊を派遣せよ。最高の兵士、信頼できる兵士を。宮殿から一言も漏らすな。忘れるな。これは単なる救出ではない。我々の名誉に関わる問題なのだ。」


ホールの壁に映る影と同じくらい老いた執事のブランが前に出た。嗄れた声だったが、そこには数十年にわたる経験の重みが込められていた。


「陛下…漠然とした噂を耳にしております。北の道は禁断の森だけではありません。…影の谷があるのです。」


ささやき声が響き渡る。貴族たちの顔色が青ざめた。戦争の脅威よりも、その言葉の方が彼らの胸に重くのしかかった。


ブランは深々と頭を下げた。

「帝国が密かに裏切り者を処刑する谷です。


もしアーサー若様がそこに描かれたのなら…我々の敵は盗賊ではない。我々の敵は…帝国の手先なのだ。」


辺りの空気が凍りついた。松明がパチパチと音を立て、その光がナバ公爵の目に反射し、鋭くきらめいた。


彼は少しの間目を閉じ、深呼吸をした。そして、広間の壁を突き抜けるような決意に満ちた声で言った。


「ならば、それは真実か…これは森の中の影ではない。陰謀だ。そして、もし皇帝の手が及んでいるのが真実ならば…これから我々が取る一歩一歩が、王国全体を揺るがすことになるかもしれない。」


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[北の道 – 森の端]


濃い霧が立ち込め、空と大地を漆黒の灰色に包み込んだ。ジルドは息を荒くしながら、一人立ち尽くしていた。親友であり、選び抜いた兄弟を失った身体は、まだ震えていた。


彼女は旅人が消えた場所をぼんやりと見つめていた。指の関節が白くなるまで、剣を握りしめていた。


「アーサー…」彼女の声は震えていたが、その瞳は揺るぎない決意で燃えていた。


「誓う…あなたを見つけて連れ戻す。我々を弄ぶ者は誰であれ…一人ずつ滅ぼしてやる。」


霧の中から黒いカラスが降り立ち、乾いた枝に止まった。その目は赤く輝き、まるで若きロンバルディの勇気の代償を計るかのようにジルドを見つめていた。


鳥は翼を羽ばたかせ、霧の中を北へと飛び去った。


ジルドはそれを見つめた。冷たい空気の中で、吐く息が白い蒸気となった。そして一歩踏み出した。


一歩一歩が運命への屈服であり、同時に抗いの姿勢でもあった。彼女は、今歩んでいる道が、帝国の陰謀の真相を暴く謎への扉であることに気づいていなかった。


そして遠くから、森が囁くように聞こえた。警告…あるいは、闇の秘密に挑む勇気ある新生への歓迎の声が。


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