幼馴染が吸血鬼バレすると、あまり接点がないはずの俺が真っ先に殺されるので死に戻りでバレる原因を解明しないと行けない件について。

黒い水もしくは猫

七月五日が命日

 ベッドの上で高校生になる男女が、男を下に女性を上にして、重なっていた。


 ギシギシとスプリングが歪む音がなり、お互い汗ばみ、カーテンが揺れ、もれた月明かりが二人の横顔を照らす。


 お互いの足は絡んで、女の白くて柔らかい足が男の足を挟む形になっていて扇情的、女の長いきれいな絹のような髪が男へ垂れてカーテンの役割をして二人だけの世界を作っているに違いない。


 そう聞けば、まるで愛の営みにしか聞こえない。


 だが、目に入る光景はそう言える雰囲気では全く無い。


 女の顔は無表情で、汗ばんではいるが決して頬が恥ずかしさで赤いわけではなく、力を込めているからでしかなかった。


 上に乗る女の手は男の腰になど回されていなくて、愛のある体制には見えない。


 下で女の思うがままにされている男の手は、びくともしない女の手を掴んで青筋が浮かんでいて、女の手は、男の首を力いっぱいに締め上げていた。


 また、これは第三者の出来事でなく。


 主人公である、普通の男子高校生1年、上代秘織かみしろひおりの状況を述べたものだ。


 つまりは、彼は現在進行系で幼馴染にベッドの上で首を絞められている。


 □ □ □ □ □


 ぎりぎりギリギリと首が締まる。


 やめてくれ、どうして、なんでと静止と理由を何度も聞いてきたが、それが答えられたことは一度もなかった。


 だから、今彼が考えているのはもっと別のことだ。


(どうして、バレた。)

 ギリギリと首が締まる。ゆっくりゆっくり息ができなくなる。


 もがこうが、暴れようが、腕を掴もうが、その万力のような力は弱まることはなく、比例して丁寧に機械仕掛けのように上昇していくばかりだ。




(誰に、バレたんだ。)


 暑さを逃がすために開けていたベッドの横から風が吹き、カーテンが大きく揺れる。


 月明かりが彼らを照らし、女の髪で出来た遮光カーテンをやさしく開けた。


 赤い赤い綺麗なルビーのような目が見え、その美しい目に無表情で見つめられていることに、血が回らない頭でも甘い痺れをもたらす。


 綺麗な顔立ちだ。クラスで話題に上がるのがおかしくない整った容姿だ。


 首を締められて、顔を動かせないという状況でなければ、目があったら気恥ずかしくて背けてしまいたくなるほどに。


 いつまでも見ていられそうな目と鼻の先にある美しい顔立ちが、視界が、真っ黒に塗りつぶされていく。


 だから。


「どぉ・・・じで」


 意識が落ちるのが近いのを察して、無理をして声を出した。


 ・・・いつも、いつもだ。今回こそ、殺す理由を何かしら教えてくれるのではないかと、その希望を胸に宿して、止まる心臓を無下にして、言葉を紡ぎ、彼女に俺は問う。


 そして、その希望はいつも。


「・・・早く死んで」


 冷たい言葉の命令に踏みつけにされて終わる。


 血の廻りが悪くなった眼球が機能を放棄するその刹那、見えたのは彼女の口の中だった。


  白くてきれいな歯並び、その中にある異様に伸びた犬歯だけがいつも印象に残っていて・・・。



 彼女がどうして、だれに、吸血鬼だってバレたんだよ。



 その疑問だけを残して、頭と心臓はその活動を止めた。

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