バズーカ王国物語 前日譚

臥龍(がりゅう)

第一話「豚のおじさんと三人の軍人」

時は圧政のただなか。

民は重税にあえぎ、疲れ切った顔で日々を送っていた。


とある国の下級役人もまた、その惨状を目にするたびに胸の奥で思っていた。


――もし自分が国を治めれば、こんなことにはならぬのに。



憂国の士たち


ある夜、役人は三人の若き軍人を伴い、粗末な酒場の奥で盃を交わしていた。

彼らは身分こそ高くはないが、日頃から国を憂い、役人と心を通わせていた仲間である。


「この国のありさまを見よ。民は疲弊しきっている」

「我らが声を上げたとて、軍上層に届くことはない」

「だが……いつか必ず、この国を良くせねばならぬ」


酒の席でありながら、その言葉は真剣そのものだった。



旅人との出会い


そんな折のことだった。

役人の前に、一人の奇妙な旅人が現れたのである。


黒い三角帽を深くかぶり、羽織袴に木刀を差した初老の男。

「食客として置いてほしい」と告げただけで、名を名乗ろうともしない。


後に「豚のおじさん」と呼ばれる伝説の召喚士であった。

だが、この時点でその正体を知る者はいない。



夜な夜なの酒席


おじさんは寡黙で、ただ時折、盃を傾けながら世の話をした。

役人は彼と夜な夜な酒を酌み交わし、いつしか親交を深めていった。


「この世には、瞳を違える者と豚の紋章というものがある。

両者が巡り合い、心を通わせたとき、真なる力が呼応するのじゃ――」


おじさんの語る御伽話に、役人は一瞬耳をとられたが、すぐに苦笑に変わった。

「妙な話だな。ただの昔語りだろう」


役人にとって、それは取るに足らぬ話でしかなかった。



野盗との遭遇


おじさんが剣を嗜むということは酒席の折に聞いていた。

だが、酔いどれのように見える初老の男が「達人」であるとは夢にも思わなかった。


その見方を覆したのは、ある夜の出来事だった。


街道沿いで野盗が人々を襲っている場面に出くわしたのだ。


「下がっておれ」

おじさんはゆらりと木刀を抜いた。

次の瞬間、三人の野盗は目にも止まらぬ速さで薙ぎ倒され、土に転がっていた。


「……今、何をしたのだ?」

役人は目を見開いた。

「ただ、木刀を振っただけじゃよ」

おじさんは笑って答えた。


その光景を見た役人は確信した。

――この男こそ、本物だ。



森での対決


後日。

役人は森の奥に三人の軍人を呼び出し、例の旅人を引き合わせた。


「この方こそ、私が信頼する剣の達人だ」


しかし、そこに現れたのは黒い三角帽をかぶった初老の男。


「これが……?」

三人は顔を見合わせ、鼻で笑った。

「達人などと聞いたが……ただの老人ではないか」


役人は険しい顔で言った。

「侮るな。私はこの目で見たのだ」



一蹴


「試してみるか」


おじさんは静かに木刀を構えた。

三人は同時に斬りかかった。


次の瞬間、地に倒れ伏したのは三人の方だった。

木刀を一振りしただけで、何が起きたのか理解できぬまま。


土に膝をつき、三人は顔を赤らめ、深々と頭を下げた。

「恐れ入りました……どうか我らに教えを!」



守護豚・ガリュ㌧


おじさんはうなずき、印を切った。

眩い光が奔り、小さな豚が姿を現す。


「わし、ガリュ㌧」


役人も軍人たちも目を見開いた。

伝説の「豚の召喚士」が、目の前にいたのだ。


だが、感動も束の間。

ガリュ㌧は剣を握る三人をじっと見て口を開いた。


「よいか、剣は心を映すものじゃ。踏み込みは浅い! 構えに迷いがある!

力で振るう剣は、やがて心を砕く……その責は三代先まで背負うことになるのじゃ!」


延々と続く説教に、三人は困り顔を見合わせた。


「ガリュ㌧、そのあたりでやめておけ」

おじさんが止めると、場は苦笑に包まれた。



修行と伝授


こうして森での修行が始まった。

おじさんの木刀は容赦なく、三人は何度も倒れ、それでも立ち上がった。

傍らではガリュ㌧が絶え間なく口を挟む。


「迷うな!」「心を澄ませ!」「わしの言葉を聞け!」

修行なのか説法なのか分からぬほどであった。


それでも三人は真剣に耳を傾け、剣も心も次第に磨かれていった。


そして幾月かが過ぎた頃。


「よし……そろそろ技を授けよう」


おじさんは三人を呼び集め、彼らの特徴を見極めて三つの技を授けた。

• 突進豚破(とっしんとんは)

• 霞豚閃(かすみとんせん)

• 豚返し(ぶたがえし)


三人は目を輝かせ、深く頭を垂れた。

「我ら、今日よりあなたを師と仰ぎます!」


こうして豚のおじさんを師とする三人の軍人が誕生した。

のちに「マン㌧三銃士」の祖となる者たちである。



つづく

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