第2話



 カテリアに放っていかれ、ベッドに1人茫然としていた俺は、改めて、キョロキョロとあたりを見回した。豪華すぎるお部屋だ。俺が想像する、ヨーロッパ系の貴族のお部屋そのものって感じ。


 ふと、視線に鏡が入った。そう言えば、小さくなったこの姿は、どんな顔してるんだろう?

 ベッドが大きくて、やたら広いから、この小さな身体ではベッドから降りるのも大変だ。やっと地面に足がつき、よろよろと鏡に向かって歩き出す。

 

 身体、重いしだるい。ふらふらして、ちょっと歩くだけで息が切れちゃった。夢の中のくせに、そこだけリアルなのはなんでですか?


 少し息を切らして、鏡のまえにたつ。


「わー、かわいいな、おい」

 

  目の前にいたのは、一言でいうと、すっごく美少年。

 

 雪の様な白い肌。はちみつのようにとろけた琥珀色の瞳。髪色は薄い金色のストレート。ぱっちりとしたお目目に長いまつ毛。唇はぷくりとしていて、柔らかそうだ。

 

 顔色が悪いし、頬はややこけ。痩せすぎのきらいはあるが、この圧倒的顔面の強さにかかれば、せんなき事のように思える。つーかむしろ、儚さにバフがかかり、より魅力が増している。


 この顔で生きられたら人生イージーモードな気がしてきた。家は金持ちそうだし、可愛いメイドさんいるし、びっくりするほどの美少年。俺一生この夢の中で生きていきたいかも。夢から覚めるな!


「フェリオ、入ってもいいかな?」


  トントン、とノックされ、聞こえたのは低い男の人の声。鏡の前で固まったまま、俺は小さく返事をする。


「……あ、うん、どうぞ」

 

 入ってきたのは、黒色の髪の男性と、金色の髪の美しい女性だった。絵に描いたような美男美女夫婦。たぶん、この人たちはフェリオくんの両親だ。


「フェリオ、目が覚めたのね。もう起きていて大丈夫なの?」


 フェリオ母が頭を優しく撫でて、抱きしめてくれる。いい匂いだ。でへへ、と鼻の下をのばしてしまう。母に、こつんとおでことおでこをくっつけられた。


「あら、まだお熱高そうよ?」


 …………キス、されるのかと思ったぁ。いや、別にしたいと思ってないけどね!?仮にも俺はこの人の子供な訳じゃん。流石に、そういう欲求が湧かなくてよかったと安心したよ!!


「おっと、それは大変だ」


 フェリオの父に抱き上げられる。ん?これはお姫様抱っこというやつではないか?父に優しくベッドに戻され、布団をかけられる。


「フェリオ。カテリアから聞いたのだけど、記憶があやふやになってるんだって?」


 フェリオ父に悲しそうに微笑まれる。美形の悲しそうな顔、罪悪感がより増すんだね。おれ心がズキンとしちゃったよ。申し訳なさすぎるけど、嘘つくわけにもいかず、おずおずと頷いた。


「僕たちの事も覚えてないかな?ソフィアとテオルドのことも」

「…えっと、ごめんなさい」


 2人の顔見れないよ。見なくても、悲しい顔をしていることはわかるから。でもほんとにわかんないんだよ。夢なんだから、俺の知ってる人を出して欲しかった。


「あなたが謝ることじゃないわ。もう少しで医師が到着するから、診てもらいましょうね」

「う、ん…」

 

 母の言った通り、数分のうちに医師がやってきた。年は50代くらいだろうか。優しそうなおじさんだ。


「フェリオ様、体調はどうですかな?」

「ええと……あんまり、よくはないかな」


 へらりと笑って答える。心労のせいで、余計に体調悪くなった気がするし、さっきから頭がズキズキし始めていた。なにこれストレス?


 先生は、ふむ、と頷いて、診断を始めた。俺はされるがまま、先生の指示に従う。


「熱が少し高いですが、特に異常はない様ですね」

「それなら、この子の記憶もすぐ戻るのでしょうか?」

「…いえ。申し訳ありませんが、なんとも。フェリオ様、いくつか質問していきますね」

「……は、はい」


  俺は背筋をピシィと伸ばして、先生の質問を待った。多分、誤魔化しは効かないから、正直に言うことを決意して。

 

「それでは、ご自身の名前と年齢を言えますか?」

「えっと、わかんない、」

「家名はわかりますか?」

「かめい?なぁにそれ」


 まぁつまり、正直に話すと全てわかんないっていうしかない。俺は鋼の心をもって、全ての質問にわからない、と言い切った。両親の悲しそうな顔や、先生の険しくなっていく顔を見るのは少し心が痛かったかな。


「では、次は簡単なテストをやりましょうか。フェリオ様、身体がおつらいかもしれませんが、もう少しだけ頑張りましょう」

「…はぁい」


  ベッドの上に、簡易な机が置かれる。広いベッドなのに、机のサイズはぴったりだ。

 出来なくても大丈夫ですからね。と渡されたテスト用紙。内容は簡単な計算問題だった。1分もかからないうちに解き終わり、ドヤりながら先生に渡す。

 

 足し算でドヤ顔する22歳児!?ちょっと考えたくないね。でもだって、今までわからないとばかり言ってきたから、わかる問題がでてきて嬉しかったんだよ。


「……ふむ。計算知識はしっかり残っているようですね」


 先生はそう告げると黙り込み、両親のほうへ向き直った。少し離れた場所で話すつもりらしい。けれど声は聞こえるから、耳を澄ました。


「フェリオ様は、三日間、高熱で眠り続けておられました。その影響で記憶が混乱しているのでしょう」

「そうか……それで、記憶は戻るのか?」

「ええ。少しずつ思い出す可能性が高いでしょう。どうかご安心を」


 よかった、と安堵する母の吐息。父も肩を落とす気配がした。まぁ、俺が夢から覚めたらすぐ記憶戻ると思うので、そこは安心してほしいところ。


 ベッドの柱に身体を預け、へたぁ、となっていたところに、両親が改めて俺と向き合い、真剣な表情で目を合わせる。俺もおもわず、姿勢をピシィ!と伸ばした。


「君は、フェリオ•フォン•アーネスト。僕たちの大事な息子だよ。今は思い出せないかもしれないけど、少しずつ思い出していこうね」


 俺の手を取って、ニコリと笑う父の顔はとても麗しい。だけど、あの、アーネストって名前、聞き覚えあるんだよね。


「……えっと、あの、俺に兄弟、とか、いませんか?」


 突然の質問。俺がおそるおそる聞くと、父は心底嬉しそうに笑って、いい笑顔で答えた。


「あぁ、いるよ。双子の弟妹。テオルド•フォン•アーネスト。ソフィア•フォン•アーネスト。今年一才になったばかりなんだ」

「ておるど、そふぃあ…?」


 テオルド•フォン•アーネスト。

 ソフィア•フォン•アーネスト。

 

 聞き覚えがあるのは、当然。それは、最近俺がはまっているゲームの、悪役令嬢と悪役令息の名前だったから。


「あぁぁ……」


 全身の血の気が引いていく。頭を大きなハンマーで殴られたような衝撃。

 

「フェリオ? どうしたの、顔色が急に悪くなって……」


 気がついたら、視界が暗くなっていた。頭がぐらりと揺れて、意識が保てなくなる。

 

 夢ならどうか、覚めてくれ!!

 

 

 

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