カノンの不思議な旅

来冬 邦子

南の島の冒険

 わたしはカノン。十二歳。世界中を旅している。

 今回は「ゆめかわいい南の国の海の旅」というツアーに参加した。

 この国の青い海は海底の珊瑚礁が見えるほどに透明で、こうして仰向けに浮いていると遭難したなんて冗談なんじゃないかと思えるほどに美しい。


 現地ガイドの操縦するプレジャーボートが猛スピードで突き進んだあげくカーブを切ったら、わたしは海に投げ出された。気づくと周りには誰もいなくて、ただひたすら青い海が水平線まで広がっていた。


 ねえ、わたし、どうなるんだと思う?


 花柄のビキニの上から救命胴衣をつけて、仰向けで泣きながら青い海に浮かんでいた。


「おまえ、変わってるな。何してるの?」


「え? だれ?」

 

 声の主は、わたしのつま先にとまった白いウミネコだった。


「泣くとか、なにしてんの? こんなところで」


「だって遭難しちゃったんだもの」


だ、なんちゃって」


「ひどい! わたし、死にそうなのよ?」


「怒るなよ。いいことおしえてやる」


 ウミネコはわたしのからだの上をトコトコと歩いて、胸まで来るとわたしの泣き顔をのぞき込んだ。


「もうすぐここを血に飢えたサメの大群が通過する。それにつかまって近くの浜まで行くといいよ」


「イヤよ!」


「なんでイヤなんだよ」


「食べられちゃうよ!」


「急いでるから大丈夫だよ」


「なによ、それ?」


「そら来た! じゃ、頑張って」


「えええ~」


 北の方から真っ白な水煙が上がって、なにかが海を埋め尽くすようにして、こちらにやってくる。鋭い背びれが数え切れないほどたくさん見えた。


「いやーっ!!!」


 逃げるひまなんて無かった。

 わたしは密集して泳ぐたくさんのサメの背中に担がれていた。


「ナンダ? 背中ニ乗ッテキタノハ?」


「イマハ確カメテイルヒマハナイ!」


「イソゲ、イソゲ!」


「イソゲ、イソゲ!」


 サメたちの向かう方角には、噴煙を吐く火山島が見えた。

 あそこまで行けば助かるかも!

 だがサメたちは島の手前まで来ると、突然海に潜った!


「うそー? 潜っちゃダメー!!」


 わたしは手近のサメの背びれにしがみついた。

 渦巻く水流にむちゃくちゃ揉まれる。もう息が続かないと思ったらサメは浮上した。


 火山島の真ん中には洞窟があった。

 そこは地底湖でフワフワ湯気が立ち上っていた。

 サメたちは体を伸ばしてお湯に浸かった。


「ウウ、シミルナア」

「アア、生キテテ良カッタ」


 地底湖の縁の岩場をたどってゆくと洞窟から外に出られた。

 岸辺近くに見覚えのあるプレジャーボートがいた。大きく手を振るとこっちに近づいて来た。わたしって運が良いんだわ。

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