闇対闇

エヴィロンは冷たい笑みを浮かべ、まるで毒のような声で言った。


「ハハハ……人間の王の力って、この程度か? つまらんな。」


その瞬間、廊下の奥から足音が響いた。


カンジーが影の中から姿を現す。青い魔力が彼の体を包み、その瞳は怒りで燃えていた。周囲の空気さえも圧迫されるほどに。


「おい!」と彼は叫んだ。その声は広間全体に響き渡る。


「よくも……父上を傷つけやがったな!」


ためらうことなく、カンジーは剣を抜いた。刃は淡い青雷のオーラに包まれ、一瞬で彼の体が光の残像を残しながら前方へと疾走する。


「ここに来たこと、後悔させてやる!」


――ドガァァンッ!!


轟音が鳴り響く。

その一撃はエヴィロンの胸を直撃し、彼を吹き飛ばして城壁を突き破り、外の中庭へと叩きつけた。砂塵と瓦礫が舞い上がる。


しかしエヴィロンはすぐに立ち上がり、服についた埃を軽く払っただけだった。まるで何事もなかったかのように。唇にはまだ冷たい笑みが浮かんでいる。


「へぇ……今度は誰だ? いきなり殴りかかってきて、挨拶もなしとはな。」


微風が吹き抜ける中、カンジーがゆっくりと歩み出る。鋭く光るその眼差しには、雷光が宿っていた。


「俺の名はカンジー・ニジマ。」

彼は静かに、しかし怒気を含んだ声で言った。


「お前の存在を……この世界から消し去る者だ。」


エヴィロンは片眉を上げ、ククッと笑う。


「面白い。ようやく俺の前で、そんな口をきく人間が現れたか。」


――戦いは、王城の中庭で始まった。


二人の魔力がぶつかるたびに、大地が震えた。カンジーの青い雷光と、エヴィロンの体から溢れる黒い霧が交錯し、空間を歪ませる。


カンジーは剣を強く握り締め、怒りに満ちた瞳で前を見据える。

「父上を傷つけた報いを……受けろ!!」


稲妻のような速度で突進し、連撃を叩き込む。

斬撃のたびに青雷が走り――ズバッ! ズバッ!


だがエヴィロンは片手を上げただけで、それら全てを黒い魔法障壁で受け止めた。青い光は反射され、空気が爆ぜる。


「愚かだな。」

エヴィロンは不敵に笑う。その目は深紅に染まっていた。

「お前も人間の王と同じだ……うるさくて、脆い。」


「弱いだと!?」

カンジーは息を荒げながら吠えた。

「見せてやるよ……“聖雷よ――砕けろッ!!”」


剣から放たれた青い雷が炸裂し、巨大な爆発が中庭を包む。

だが、煙が晴れると――エヴィロンは無傷のまま立っていた。


「……もう終わりか?」と彼は無感情に言う。

次の瞬間、エヴィロンが手を上げると、空気が凍り付いた。


「次は俺の番だ。」


彼の瞳に紫の光が灯る――運命の魔法。

足元に巨大な魔法陣が展開され、黒き光が渦を巻く。


「……降伏しろ。」

低く呟いた声が、城全体に響く。


「ぐっ……ア、アァァッ!!」

カンジーの体が硬直し、血を吐きながら膝をつく。雷光は消えかけ、魔力が乱れていく。


「くっ……何だ……体が……動かない……!」


エヴィロンがゆっくりと歩み寄る。その一歩ごとに空気が震える。

「ハハハ……言っただろう、人間ごときが俺に逆らうなと。」


それでもカンジーは剣を持ち上げようとする。

「俺は……まだ……負けてない……」


だが、エヴィロンの冷たい声がそれを遮った。

「遅い。」


――その瞬間、王国アウレリアの空が暗転した。

黒雲が渦巻き、紫の稲妻が走る。


エヴィロンは空中に浮かび、漆黒の外套を翻す。

両手に集まる紫の魔力が、天を裂くように広がった。


「ハハハハハッ!!」

「今度こそ、この世界を滅ぼしてやる! 人間どもは全て消えるのだ!」


下では、カンジーが血を流しながら空を見上げていた。

「くそ……体が……動かない……」


空の魔法陣がさらに回転を速め、紫電が地上を焼く。

エヴィロンが両腕を下ろし、破壊の呪文を放とうとした――


――ドガァンッ!!


突如、青い光が地上から飛び出し、エヴィロンの頭を直撃した!


「ぐはっ!?」


彼の体は空から叩き落とされ、地面に激突。轟音と共に巨大なクレーターが生まれた。


静寂が訪れる。

砂塵が晴れたとき――そこに立っていたのは、黒いオーラを纏った青年・カイルだった。


エヴィロンは呻きながら立ち上がり、怒りに満ちた表情で睨む。

「このガキが……よくも俺を蹴り落としたな!」


カイルは腕を組み、冷たい目で言い放つ。

「世界破壊の魔法だと? 相手が倒れきってもいないのに……見苦しいな。お前の魔法は、ただうるさいだけだ。」


その言葉にエヴィロンの怒気が爆発する。

「……なら、王のように貴様も殺してやる!」


瞬く間に距離を詰めるエヴィロン。だが――


――バキィッ!!


彼の攻撃は、カイルの片手によって完全に止められた。


「これが……お前の全力か?」


カイルは表情を変えぬまま、左手に黒い魔力を集中させる。

掌に現れた闇球は、脈動しながら恐るべき圧力を放つ。


「――“Dark Sphere”。」


闇の球が放たれ、エヴィロンの胸を貫く。

爆風が城を揺らし、柱が崩れ落ちた。


「な、なんだと……!? 人間が……闇属性を使うだと!?」


エヴィロンは目を見開き、信じられないという表情を浮かべる。


カイルは静かに歩み寄り、薄く笑った。

「くだらん質問には答えない。」

「だが……その魔法、少しは楽しませてくれそうだ。」


彼の黒いオーラがさらに暴れ出し、大地が割れる。

「さあ――見せてみろ。お前の“本気”を。」


エヴィロンの瞳が怒りで燃え上がる。

二人の間で、黒と黒の魔力がぶつかり合った。


――アウレリアの空が、二つの闇の力の衝突を照らしていた。

その夜、王国全土に轟音が響き渡る。

かつてない戦いの幕が、静かに上がったのだった。

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