EDIA - エディア -
透月宙
プロローグ
敷き詰められた石畳。頭上から垂れ下がる蜘蛛の巣は、冷ややかな隙間風で
「手に入れた……本当に手に入れたんだ……! 天の鏡……炎の剣……神の鍵が入れられた伝説の箱……《エディア》……!」
小さな体に沿った黒のノースリーブシャツと、細身のパンツで身を包むその姿は、闇を忍ぶために着用する彼のお決まりスタイルだ。十八歳とは思えないほど達観した視点を持ち、釣り上がった特徴的な鋭い眼光は、幼い頃から盗賊として鍛え上げられてきた確かな鋭敏さを持ち合わせていた。深く青みがかったショートヘアーが、闇夜の中でも微かな光沢を帯びている。
しかし、そんな数々の盗みを働いてきたラグナであっても、今回、手にした代物は訳が違った。何せ、伝説上で語り継がれてきた三つの大秘宝が、この箱『エディア』に収められているのだから。だが、確かに今、その箱は目の前にある。高揚を理性でなんとか制しつつも、ラグナは恐る恐る、茶褐色の丈夫な木材と、金で装飾された神聖なる箱に手を伸ばした。
『エディア』……それは遥か遥か遠い昔の時代に、古代国家「アルノヴァ」の民が、創造神「ノフル」と約束を交わした際に授かったとされる「伝説の箱」だ。しかし、三つの秘宝「天の鏡」「炎の剣」「神の鍵」が入れられたその箱は、伝承によると、「ヴェズ=サマール帝国」の侵略でアルノヴァが滅びた後、一部の民と共に行方が分からなくなっていたと言い伝えられている。それが、無政府で荒くれ者や変わり者が集まる自由領「ティオ=マルカ」の片隅に位置する「トグの街」にあるとは誰も想像できなかっただろう。
ラグナは万感の想いを込めて、秘宝が眠る『エディア』のつまみに指をかけ、長らく待ち望んできた運命の瞬間を迎えようとしていた。
彼を祝ってくれる仲間もいなければ、家族もいない。ただただ、静寂のみが静観するこの場所であっても、嘆きの人生を変えようとしているラグナにとっては、
「これで俺も、やっとこの世界から認められる……」
そう、まさにこの瞬間から、「ラグナ・フェルド」の人生が一変するのだ。錆びついていた歯車が、予想だにしない速度で、予想だにしない回転でぐるぐると回り始め、やがては世界中の欲望をかき乱してゆくことになる。
大抵の物語は、大いなる報酬を手に入れるために旅立つ勇者たちの冒険活劇を描くだろう。しかしながら、時に物語は、まったく逆の展開で綴られることがあるのだ。
これは、誰もが追い求めていた報酬『エディア』を手に入れた少年の全てを手放す答え探しを語った冒険譚である。
では、物語を進める前に、まずはラグナが『エディア』と巡り合うまでに至る「空白の時間」まで遡ることにしよう。
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