まだ事故物件ではないんです

ちびねここ

第1話 事故物件

就職して半年。

会社までは電車で片道1時間半。

毎朝6時前に起きる生活に、そろそろ限界を感じていた。


「引っ越さなきゃな……」


そう思いながら歩いていると、商店街の不動産屋の前に貼られた物件広告に目が止まった。


「へー、会社に近いな。2LDKで築4年?で……家賃7万! 安っ!え?安すぎないか?」

ぶつぶつ言いながら立ち止まっていると、不動産屋の扉が開いた。


「気になる物件、ありました?」


若い男がにこやかに声をかけ、椅子を引いて座るように促す。


「入り口の所の物件、安すぎませんか? 事故物件かなにかですか?」


不動産屋の男はにこやかに微笑んだ。


「事故物件ではないんですよ。ただ……ある意味、事故物件なんです」


その曖昧な言葉に、思わず身を乗り出す。

「どういう意味ですか」


「気になりますよね?」男は顔を近づけ、ニヤリと笑った。


嫌な予感はしたが、気になるのも事実だった。

「……まぁ、気にはなります」


男は待ってましたとばかりに立ち上がる。

「じゃあ、見に行きましょう!詳しい話は車の中で!」


返事をする間もなく、僕は半ば強引に車に押し込まれていた。

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