ぼっち、異世界へ行く。

藍うらら

プロローグ

第1話 プロローグ

 世界は理不尽に満ち溢れている。


 それは、俺が15年間この世界で過ごしてきて、ひしひしと感じることだ。

 人間は社会というものをつくり、そのなかでいかに自分自身が優位に立つか、いかに自分が人の上に立てるのか、ということばかりを追求している。

 そのせいで、環境は破壊され、戦争は起き、人間が同じ人間同士なのに潰し合い、憎しみ合う。

 俺はそんな世界に、嫌気がさしていた。




 俺、渡月とげつ 向日むこうは、今年で高校1年生。

 しかし、高校でも青春とは程遠い健やかなぼっち生活を送っていた。

 俺の人生は、ぼっち人生だ。

 確かに、小さいころはひとりぼっちであることに抵抗を覚え、なんとかして友達をつくろうと奔走したものだ。

 流行に乗ってみたり、ラノベやアニメキャラになりきって、人気者になってみようと試みたり――、様々な取り組みを行った。

 しかし、友達なんてものはロクでもない。

 例え、友達になったとしてもいつも相手の顔色ばかりを伺い、いつ相手にされなくなってしまうのかと怯えながら生活せねばならない。

 ならば、――ぼっちの方が余程マシである。

 第一、人間はひとりでは生きていけないと誰が決めたんだ? 現に、俺がここまで生きてこれているではなかろうか。



 そんな思考を浮かべながら、いつも通り高校から帰宅の途につくべく道路を歩き、向かいの歩道に行くべく横断歩道を渡ろうとした時だった。

 轟音が響き、そちら側にふと首をひねった刹那、俺の目の前に一両のトラックが突っ込んできたのだった。

 運転席には、耳に携帯電話を当てている運転手の驚愕の表情が垣間見えた。

 つまり、よそ見運転だ。

 俺は、死を覚悟し、短いようで長かった15年余りの人生に別れを告げた。

 その直後、ガゴンという鈍い衝突音が脳を揺さぶり、俺の視界は暗い闇に包まれていったのだった。


 ◇◆◇


「うぅ……」


 意識がある。

 それは、とても意外なことに思えた。

 今、意識があり、声が出せているということはつまり、一命を取り留めた、ということになる。

 ならば、目を開ければ、そこは病院の病室というところであろう。

 もう少し、寝ていても申し分ないだろう。どうせ起きても病院だし。


 俺がそう思って、そのまま目を閉じていると、雑音が鼓膜を揺るがせる。

 おかしい。病室ならば、こんなに騒音がするわけがない。あえていうなれば、点滴の音や機械音が聞こえるぐらいであろう。

 だが、明らかにこれは違う。自然環境音だ。

 ならば、一体どういうことだ。もしや、俺は本当に死んでしまい、三途の川のそばで寝そべってでもいるのであろうか。

 そんな一物の思考を巡らせながら、ゆっくりと重い瞼を広げる。


「な、なんなんだこれは……!?」


 俺が声を荒らげたのも無理はない。

 突然、目の前に『ようこそ。異世界へ』と書かれたコマンドが表示されたのだ。

 コマンド――。

 ゲームならばよく見るものであるが、それは画面上のものであり、画面も見ていない目の前に現れるなんてことは通常、ありえないことである。

 ゲームの世界ならば……?

 俺はその思考を元に、あたりをキョロキョロと見回す。

 すると、視界の右上に新たなコマンドを発見した。

 そこには、レベル・技種・名前ネームが記されていた。



 レベル:1

 技種:剣士

 ネーム:渡月 向日



 何度もその表示を見返すが、実際にその場に表示されているようだ。

 なんだ? 誰かが俺をからかおうとして仕掛けたドッキリなのか?

 ならば、今すぐ出て来い。

 土下座して、謝るから。許して!


 だが、全くもって世界というのは俺に次から次へと試練を与えるようだ。

 事態が変わることはなかった。





 つまり、俺は本当に異世界に転生してしまったようなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る