6:コウベ 対 MΘNΘCERΘS その3

「■惑星ラスクデ使ワレテイル、宇宙兵装ト宇宙船ノ推進装置ニ発生スル、パテント料ノ全テヲツギ込ミマシタ・・・・・・・_」


「ザッ―――さっき、自分で作った・・・・・・って言ってたな」

「ふ、ふーん。姉さんが、飛びつきそうな話ねー」

 禍璃マガリは、指先でメモ帳アプリを起動させて、何かをフリック入力している。


「でも、そんな高っけーモン、毎回爆発させてたら、いくらあってもんねえぜ?」


「■何度、壊レテモ爆発サセテモ、バックパック内蔵ノ工作機械クラフトマシン再生産リプロダクトスルノデ、安心デス_」


「■ソレデモ再生産リプロダクトスルト、1基ニツキ、400万宇宙ドルスルノデ、出来ル限リ回収シマスケd_」


「はーっ。なんて、もったいない。50兆宇宙ドルとか、1基400万宇宙ドルとか。そんなお金有ったら宇宙ステーション、……どころか、小さめの惑星なら丸ごと買えそうじゃない! もったいない、もったいない―――けど、まあ、いいわ。高性能の理由が解ったし」

 海賊マガリは不適な笑みを浮かべ、メモ帳アプリの平面を、指先のリング型デバイスへしまった。


「ザザッ―――じゃあ、話を戻すぞ。あの、鉄のかたまりは、コウベに”分解”されて、その”圧縮プロトコル”が自動解凍解除されて、出てきたって訳だな?」


「◆hfj※っdrlじゅw_」

 ザッ―――ピピッ♪

 宇宙服の日本語入力ワルコフIME不調をきたすジャムった

 宇宙服は文字入力を諦め、件の電磁槍ロッドを突き上げた。

 ”肯定”と言うことだろう。宇宙服に首を縦に振る自由度は無い。


「ザザッ―――さて、どうなってる?」


 シルシ達は、一斉に、決戦場へ視線を戻した。

 気の早い残念会会場では、B級映画のクリーチャー、”悪夢のナイトメア・処刑人エクスキューショナー”が、叫んでいた。


 大声を張り上げているので、刀風カタナカゼ経由で、声はとどいているようだが、直接、映像空間が繋がっていないため、シルシには休憩所のテーブルのあたりは見ることができない。


「―――こら! ”試作コード68”! ……”試作コード65”を放しなはれー!」


 ビビビビビビヂヂヂヂヂヂッ♪

 にごったさえずりがかすかに聞こえてくる。


 ”試作コード65小鳥”は、自身の管制制御下に置かれているっぽかった、”試作コード68米沢首”に、両手で首根っこを捕まれていた。

 小鳥の眼の明滅パターンを、応答する側のコウベの眼が凌駕りょうがしていく。


 本来の敵、一角獣モノケロスは、コウベを中心に、左右へうろついていた。

 時折放つ、コウベへの雷撃MPは、鉄塊に吸収されている。


 一角獣との距離が離れ、映し出される範囲が最大になったとき、隅に小さくフレームインしてきた顔長猫。

 ジャングルの中に開けた決戦場フィールドの中央、シルシが、忘れていったギザギザした円盤の上に座り込んでいる。華麗なセッションを見せた、大きいサイズの顔長猫だ。

 戦闘が膠着こうちゃく状態になったため、木々の茂る奥から這い出てきたとみえる。


 その円らな瞳の向いた先。

 鉄塊の上で、ピタピタコスチュームのコウベは、小鳥の首を掴んだまま、小鳥の頭を ムギュムギュムギュッっと3回叩いた。


 ビョビョビョォォォォォォォン!

 どういう仕組みなのか、おもしろい音を立てる小鳥。

 赤く明滅していた、瞳に黒い色が戻る。

 コウベの瞳にも、髪と同じ色が戻った。


「自力で戻った!? ど、……どういうこと……でっしゃろ、あんな設計し……てやしまへんえ!?」

 狼狽するVR設計師にして、今の姿は細身の巨漢の、項邊歌色コウベカイロ

 表情を”?”にする、笹木環恩ササキワオン白焚畄外シラタキルウイ


 動きがないため、ズーーーーーームされ続けた、映像空間に、大写しの美少女コウベ。衆目しゅうもくの集まる中、腰のスロットから取り出す、烏賊飯いかめしの形の特選おやつ。

 有効攻撃力を持たない以上、どうやっても、負けてしまうのだ。

 ヤケ気味なのだろう。

 頭の上の小鳥は何やらさえずり、”わかってるよ五月蝿いなあ”と手で、追い払われたりしている。

 先ほどまでの、緊迫した空気は無い。

 コウベは、鉄塊の縁から足をブラブラさせて座り込んだ。


 開封された、烏賊飯いかめしから、瞬間的に湯気が立ち上る。

 切れ込みが入ってて、手でも千切れるようだ。

 その手づかみで千切り取った、天辺の烏賊耳いかみみ部分。

 今まさに、牙を突き立てようと、眼前1メートルへ瞬間移動してきた、青い鹿モノケロス。その開いた口に、向かって、烏賊耳いかみみを放り投げた。


「ザザザッ―――チョット待ってなさいよ。決着はコレ食べてからね」

 獣は、着地して、口の中のおやつをモグモグモグ。

 ピチチチッ♪

 こっちにも寄越せと、小鳥に頭をつつかれ、しぶしぶ、千切って頭上へ突き出す。


 コウベは、パッケージへかじり付いて、烏賊飯いかめしを口へ詰め込んだ。パッケージを投げ捨て、小脇に抱えていたモノを、取り出す。


「ザザザッ―――さっき拾ったコレ、……もぎゅもぎゅ……どうすんのさ。え? 何処でもいいから装備しろ?」

 ドコにすっかな。やっぱし、ココかな!


 自分の頭ヘルメット電磁槍ロッド小突こづいていた、宇宙服ワルコフが―――

 カタカタカタ、カタカタカタ、タン。

 と再び文字チャットへ書き込みだした。IMEの調子が戻ったっぽい。

「■最高ランクノ強度ヲ誇ル、”圧縮プロトコル”、『量子QUANTUM圧縮ZIPPER』ニハ、バグBUGト言ッテモ良イ特典・・ガ有ッテ、複合化解凍スルト、”機能”ガ圧縮サレタママ、分解物質化サレル場合ガ有リマs_」


「……長えな。えっと、つまりどういう事だぜ?」


 映像空間に映し出される、美少女は、その電球のような真空管・・・・・・・・・を頭の上に、乗せた。

 虹色にきらめくソレに、押しのけられた小鳥は仕方なく、周囲を旋回した後で、少女の肩に止まる。


「■『量子QUANTUM圧縮ZIPPER』ヨリモ、効率的デ、省スペースナ、高性能の代替品ブラックボックスガ手ニ入ルトイウ事デス_」


 小鳥が鳴くと、何故か光る真空管。その大きさは結構でかくて、直径10センチ、高さ15センチの円筒状。

 コウベの髪を放電が流れ、ツインテールの先まで行って、オレンジ色の放電を放った。

 同時に、わずかながら、コウベの体が浮かび上がったホップした


 ウォ!?

 一斉に観客ギャラリーが、期待の声を吐く。


 小鳥が鳴くと、何故か首の後ろから、右拳まで、”導電体による回路配線切り取り線”が引かれ、ナックルガードが、自動的に再装填された。


 ウオォォォ!?


 小鳥が鳴くと、何故かもう片拳にまで、線が引かれ、再装填。

 両拳共、再使用可能になるまでのタイムゲージはまだまだ、残っていたにも関わらずだ。


 ウォオォォォォォオォォォォ!


 小鳥が鳴くと、頭の上の真空管が強烈な強さで光り出す。

 ペカーーーーーーーッ!

 正直な話、それほど格好良くは見えない。それどころか、頭の上の電球は、間抜けで有り、何が閃いたの? と問わずには居られない。それでも、取りあえず、迫る敵と渡り合える武装が使用可能になったのだ。多少の見てくれの悪さを気にするプレイヤーは居ない。


 バリバリッバリ! 毛先から鉄塊へ流れ込むオレンジ色の放電。

 もはや、地に足は着いていない。ほんのちょっとだが浮かびっぱなしだ。


 ウォオォォォォォオォォォォォォォオォォォォォォォォォ!


 歓声に答えて、大爆発する、ワルコフ謹製、電磁槍ロッド中身・・

 ドッガーーーン!

 電磁槍ロッド内訳・・は、光の粒子と化した。


 爆発に驚いた、顔長猫達は再び、木々の茂るジャングルの奥へ逃げていく。


 コウベは華麗に宙を舞い、ムーンサルトで決戦場の中央、シルシが忘れていった歯車ギア型の円盤へ降り立つ。

 が、足を取られ、円盤へペタリと女の子座りを披露した。


 かっ!

 ざわつく観客。


 「ザザッ―――「「「「か?」」」」」


 かわいぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ!!

 半狂乱の観客たち。期待と手詰まり感の漂う中、何か、やってくれそうなパワーを身に付け、あまつさえ、コケたドジを隠すように、「失敗失敗」と、猫手で頭の上の真空管をコツン。

「ザザザッ―――あんな芸風、どこで覚えやがった!?」

 色めき立ち、大口を開けるシルシ。さすが末席とはいえ、自律型会話型アブダNPCクションマシンといったところか。彼女コウベも、毎分毎秒、成長しているのだ。


「ぎゃーーーーーーーーっ!!!」

 叫んだのは細身の巨漢の、無骨で泡立つような、かすれ声。

 取り乱す余りに、キャラに設定された音声ライブラリで発音されている。

 項邊歌色コウベカイロは、のたうち回っていた。


「い゛ーーーや゛ーーーや゛ぁーーーーー!」


「歌色ちゃんそっくりで・・・・・、かぁんわいいぃーーーーーーん❤」

 意地悪な表情を張り付かせ、嬉々として、赤い”自動機械”から、次々とおやつを取り出して並べていく、白焚シラタキ

「あ゛て゛ぇは、……あ゛んなこ゛と゛……せ゛えへんも゛ん!」


「もぉうー、すっかりー打ち解けたぁ、ようでぇーすねぇー」

 猫耳ヒューマノイドは、ほっと胸をなで下ろした。

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