1:ブリーフィングその2

 ここは、公園隣接のカフェテリア。

 午前中の、部活動を終えた、昼食タイム。


 テーブルの隅に青いツノの付いた人形。

 その重石おもしの下には、一枚のレシート?


「俺のキャラ爆死の件は、あとで、お知恵を借りたいんですが、さしあたって、これ、どうしましょう?」

 シルシは人形を手に取り、レシートを指で滑らせ、テーブル中央へ。

 それは第さんVR教室の教卓に付いてる、小さな汎用プロッタから出力された物だ。


 頭頂部すべてを覆い尽くすほどの太い角。反り返る首筋からの流れのまま、やや後ろへ反り返り、先端部分が前方へ向かってカーブしている。

 雄鹿のようなスラリとした体躯には、似付かないほどの巨大な一本角。

 身長よりも長く、そびえ立つ、蛇腹のような規則正しい、その節目。刻まれた幾つもの傷が、歴戦の凄まじさを物語っている。


 フルカラーのドット絵で描かれた。崖に颯爽と立つ、なんか格好良い四つ足の一角獣。

 その下には、SBTスターバラッド時刻表記で、受理時刻が印字されている。

 さらに、その下に、きらきらと7色に変化していく文字が大きめに書かれている。

『”LV52ーMΘNΘCERΘSモノケロス”からの決戦申請証エネミーチケット

 荒いドット文字だが、何とか読める。

 決戦申請証エネミーチケットは、モンスターサイドから・・・・・・・・・・要請で・・・発行される。経験値2倍、宝箱の数も2倍、モンスター固有のレアアイテムが有る場合には、必ず宝箱に入ってる。


「でも、なんで、こんな高レベルの伝説級レジェンダリークラスの激レアモンスターが、あんな、詳細不明の地下にいて、しかも、鋤灼LV0なんて・・・目の敵にしてんのかしら?」

 画素対応テーブルの、隅に表示させている”スターバラッド攻略本”から、ちらりと、眼だけを、締まらない顔の少年に向けた、小柄な少女。


「おい、ご挨拶・・・だぞ……もぐもぐ」

 山盛りポテトを前にして、何故か楽しそうな、締まりの無い顔の少年。


鋤灼LV0兎も角・・・、コウベもワルも、ひと鳴きでノックアウトってのは無えぜー!」

 マルゲリータを切り分けながら、ちらりと、眼だけを、ポテト大王に向けた、大柄な少年。


「おい、旧友。もっと、オブラートにくるもうぜ」

 身振り手振りを交えて、ますます楽しげになっていくボサ髪の少年。


「たしかに、そおどすなあ。……あてぇの娘試作コード68ぉも、……スタバにコンバートしたばっかりで、……LV0じゃしゃあないにしても、……無敵の宇宙服いけずまで、……手も足も出えへんてのは、……驚きどすな」


ワルコフゥハハハハ。ウケルー。拙者モ、LV0デンガナ~_」


「なに言うてはりますの? ……そんなウソ言うても、……ちゃんとわかりますえ」


「いや、項邊コウベさん、ホントに、LV0ってなってるわよ?」

 禍璃マガリも、自分の携帯SSGゲーMR400ム機ーRDでプレイヤーカードを見てる。

 テーブルに上を向けて置かれる、真っ赤なSSGMR400ーRゲームローズD。

 刀風カタナカゼゲーム機オレンジ色より、幾分、薄型スリムだ。


 宇宙服の描かれた公開用のキャラ名刺プレイヤーカード

『WARKOV__/LV0』

 そのLVは、シルシ米沢首ヨネザワコウベと同じだった。


「ほんまやがなぁ! ……どういうことでっしゃろ?」


「たぶんー、スターバラッド内でのぉ、撃破数がゼロだからぁ、……ズズズズ……LVUPに制限レベルキャップが……ズズ……掛かってるんだとぉ、思う……あちっ」

 ……特別講師は猫舌のようだ。


 ちなみに、ワルコフの、文字化けだらけの、システムログを、環恩ワオンざっと読んだ・・・・・・結果。赤達磨バトルレンダ&暴走の内訳は、こんなだった。同じ事を項邊コウベも試みたが、開始30秒で読み上げ始めた環恩ワオンの声を聞いて、悲鳴を上げた。


 ア:パーティーメンバー登録してある鋤灼驗スキヤキシルシのキャラクタが、検索にヒットした。

 イ:ゲームキャラとして大事な、”キャラクタアカウントの登録”がされていないシルシキャラの整合性プログラムの健康チェックをしようとしたが、何故かエリア間電送ファスト・トラベルが出来ない。

 ウ:禁止事項のリアルタイム回線の、ハッキングを、多重に強行。

 エ:整合性チェック開始、自身の”自作のキャラクタアカウント”の整合性エラーが検出されてしまう。

 オ:整合性チェックの一部に、公式のライブラリを使用していたため、自動的に読み込まれたキャラアカ修復プログラムと、自作キャラアカに内蔵の自己修復プログラムが、食い合いになる。

 カ:超高負荷のため起動中のバトルレンダが暴走。

 キ:シルシが、自家中毒状態のワルコフに、取り込まれたまま、ワルコフの再起動過程リブートプロセスに立ち会う。

 ク:米沢首ヨネザワコウベは、シルシがやっと、キャラクタ作成したので、喜んで飛んできたクイック電送ら、巻き込まれたバトルレンダ暴走

 ケ:経緯は理解しましたぁ。ワルさんはこの際ぃ、普通のスターバラッドNPCとしてぇ、レベル上げに邁進まいしんされてはいかがぁ? もちろんー、普通のぉハッキングも無しでぇー。早い話がぁー、鋤灼君達の護衛任務ですぅ。期限は、私たち残りのパーティーメンバー全員との合流まで―――


「フルトインフェルノをご注文のお客様ー?」

 長い前髪、丸眼鏡、地味な着こなしの割に、体つきスタイル矢鱈やたらと派手な、ウエイトレス乱入。

 ワルコフシステムの、口頭によるログサルベージは寸断され、意気消沈の宇宙服十数センチは、ヨタヨタしながら、テーブルの隅へ歩いて行く。


「はーい俺、俺です!」

 軽い腰を上げ、自分で受け取りにいくシルシ


 フルトインフェルノとは、3本150円のケチャップ黄色マスタードたっぷりの、長大カリカリソーセージの、超特盛り・・・・VERバージョンの事だ。

 30本で1200円10800S$とかなりの特価メニューだが、そのすさまじい見た目の分量に恐れを成すために、滅多に注文されない出ない


 その山盛りのソーセージの乗ったデカイ皿を、リアル項邊コウベの前へゴトンと置くシルシ


「昨日、刀風カタナカゼと話してたんですよ、項邊コウベさん、すんげえがっかりしてたから、なんか奢ってやろって」

 少年は立派だった。気落ちした美少女成人女子生徒を元気づけてやろうというのだ。


「そうだぜ、ホントなら、自動学食捕まえて、もっと、ちゃんとご馳走したいとこだけど、今日は居ねーみてーだから、名物フルトで我慢してくれ」

 違うな、我慢ってのはカフェに失礼だ。

「言葉のあやだぜ、気にしないでくれ」

 と人数分の取り皿を持ってきてくれた、ウェイトレスを手伝い始める刀風いい男


 シルシも、自動学食アプリを確認した。『出没予測……0%』。


「へー、それ、まだ動いとるん? ……自動学食アプリでっしゃろ?」

 やや、気落ちしてた項邊コウベが、会話に参加する。


「え? 知ってるんですか?」


「だって、ソレ、……あてぇが作ったモンどす」

 頬を指先できながら、言葉をこぼす。


「「っへーーーーーーー! そうだったのーーー!?」」

 仲良く声を張り上げる、環恩ワオンと、シルシ

 ”レタスたっぷりハムカツサンド”に伸ばした手は離さない。VR専門家兼大食漢ササキワオン


「もぐもぐ……はんはひ仲良いと、……むぐっ……ひっぱたくわよ」

 ”カルボナーラとバニラアイスのセット”をパクついていた禍璃マガリが、シルシを睨んで、色めき立つ。

 シルシは、項邊コウベの前に、こんもりと積み上げてもまだまだ余る、長大なフルトを取り分けて差し出す。

「皆も、よかったら喰ってくれ、午前中、心配かけちまった詫びだ」


「当然ね。でも、項邊コウベさんには、お裾分けしてもらう、お礼を言わなきゃ」

 禍璃マガリ刀風カタナカゼシルシ以外には至って、礼節を重んじる性格である。話の流れから本当にそう思ったのだろう。

 それでも、項邊コウベは、また少し、居心地悪そうにする。


「はっはっはっはっはー! 気にしないで良いよう! ドンドンってくれい!」

 小鳥に寄りかかって、ふんぞり返る米沢首ヨネザワコウベ

 その様を、ちらりと盗み見たあとで、「そうね、凄く美味しそう」と項邊コウベVR設計師は気を取り直した風だ。自分の皿の、ホットケーキの一枚を手に取り、超長めのカリカリソーセージを、フォークで3等分して乗せていく。


「…………やっぱり、コイツ・・・の呼び方、考えねえと、紛らわしいすね」

 シルシは、小鳥の首に噛み付いてる、小さい美少女に、眉をひそめながら、ケチャップ黄色マスタードたっぷりの、長大カリカリソーセージにかじり付いた。

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