ワルコフに気をつけない2

10:VRーSTATI◎N

1:TOGGLE<鬼>OGRE’S

「彼の血に蛮勇が降り立ち―――」

 GET! DEAD-HORNS! AWAKENING!


「彼の血に蛮勇が降り立ち―――」

 DEVELOP! ZOE-TOGGLE WEAPON! REBIRTH A PERSON!


 READY―――! FIGHT!


 ゴコン。パパンペチペチトタッタタン。

 ギャリギャリ。トンタタンパン。


 ………………おらっ!

 …………おし!

 ………よしよーし。そこだ!

 ……ふざっけろよ。おし、入ったー!


 ゴコン。パパンペチペチトタッタタン。

 ギャリギャリ。トンタタンパンゴカカカッ。

 ガガットタン。ペチペチペチ。

 ドガアアァァァァァーーーン!


「君たち~。1回だけって話だったでしょおー? そろそろ行かないと、今日中に贈答品欲しいものもらえなくなっちゃうわよぉー?」

 ちょっとだけならと、離れてみていた笹木環恩ワオン講師が、10分を過ぎたところで少年たちを呼びに来た。


 笹木禍璃マガリは壁により掛かり、自分の携帯ゲーム機を操作している。

 表示されているのは、自分のランキング。想定よりもかんばしくないのか、口の端が曲がっている。


 YOU! WIN!

 HORNS HAS SPROUTED!

『ワレワ、アラネコガミ、ニャン♪』

 血で血を洗う決闘に決着が付いたゲーム画面が、きらびやかに勝者を称えている。


「かーっ! ……コレはしゃあねー。今のは鋤灼スキヤキが巧ぇ!」

「だろ? だっろー? でも、今のは、イチバチヒトカゼ読みして全部入れ込んだ―――」

 フロアの一角、やや空いた空間の中央に、対戦ゲーム機が背中合わせに連結されている。それぞれに白いブレザー姿の男子生徒が陣取り、やや大きな声で、たった今行われた、世紀の決闘を褒め称え合っている。壁により掛かる少女はふと、それを睨み付け、スグに自分のランキング推移に視線を戻す。


 ポン。笹木講師のたおやかな指先が鋤灼驗スキヤキシルシ少年の肩に食い込む。彼女の眼に写るゲーム画面の中央。倒れた牛の如き体軀たいくの、青いキャラクター。そのいかめしい自動車サイズの頂点うえ。ねじれた太い短剣を両腰のホルスターに一瞬で納める小柄なキャラクター。勝者らしい、その少女は、グラブに付いた肉球を見せて、飛び跳ねた。


「あらぁ? あららぁらぁ!? なぁに、このカワイイぉ?」

 はぁはぁ。なんかぁ、どこかでぇ聞いたことのあるようなぁ? はぁふぅん?

 敗者から飛び降り、後ろ足で砂をかけている。倒れる敗者自動車サイズと比べれば、とても小さな勝者ウィナーに眼が釘付けである。


「しまった、先生がイチオシしてた、ワルコフ用の音声ライブラリって、”オウガ▲▲ニャン”の中の人じゃん」

迂闊うかつだったぜ。つうかアレ、そもそも”オウガ▲▲ニャン”がモチーフ元ネタなんじゃねえのか?」

 男子生徒達は、独りちるが、聞こえてないのか、笹木環恩ササキワオンはゲームの画面に縫い付けられたままだ。


 シルシは鷲掴みされた肩を、するりと引き抜き、ゲーム筐体の対戦者側に隠れた。

 じゃあ、そろそろ、行こうぜ。そうすっか。

 したたたたっ!

 鞄を背負い、逃げるように走り出す男子生徒2名。

 えーちょっとまってー、このかわいーいー娘ー、なんてーいうーのぉー?

 ポンコツと化す取り乱す、一見、モデルさんかと思うほどの美女。

 携帯ゲーム機を鞄にしまい、スタスタと歩いてきた女子生徒マガリは、子供のように、はしゃぐ美女の腕をとり、ゲーム筐体から引き剥がした。

 若干、制服に着られている感のある女子生徒は、かいがいしく、美女のお世話をし、フロア中に響く怒声を発した。


む゛わてーい! アンタ達だけ、行ったって意味ないでしょーがーっ!!」

 張りのある低音コントラルトが、少年達を縫い付ける。

「戻ってきなさい!」

 ポンコツ美女ご一行様以外には、誰もいない地下フロアに、再び、低音コントラルトとどろく。


「「へーい」」

 ちょっと寂しげな店内を、男子生徒達はスゴスゴと引き返してきた。



   ◇◇◇



「どお? 先生、落ち着いた?」

「まったく。あんな、カワイイ感じのネコミミキャラなんて反則レギュレーション違反よ」


「あれ、ツノ落ちた跡・・・・なんだけどな」

「しらないわよ。そんなの」


 ここは、”VRーSTATI◎N特区本店”、地下2階B2の自販機コーナー兼、レトロ筐体コーナー兼、最新・・格闘ゲームコーナーのフロアだ。


「重度のネコミミマニア・・・・・・・っていっても、ひと通りかじり付いて満足すれば、あとは棚に仕舞って眺める程度なんですからね」


「ネコミミマニア……その手があったか……あ、っそうだ、鋤灼スキヤキィ、昨日お前が、頭に乗っけてたヤツ、あれ、……俺に似合ってたと思わねえか?」

 会話に割り込む刀風カタナカゼをスルーして、会話が継続する。


「わかってるよ。でも、”トグル<人鬼入>オーガ”の物販・・有って助かった」


「だっろー? 尻尾だけだとインパクト弱いモンなー。ネコヒゲも有った方が良いかもしんねえなっ」

 缶ジュースを開ける、遠目で見れば最高に絵になる、モデル顔でガタイの良い少年。


「……それはちょっと助かったわ。他に愛でる対象がないと、ゲーム筐体に当分、張り付いてただろうから―――!!! 酸っぱい!」

 顔をしかめ、威勢良く缶ジュースをテーブルへ置く少女。ブルーのカチューシャで、押さえられたロングヘアーは背中全面をウエストまで覆っている。凛とした美声と相まって、なりは小さいが外から見れば、完璧にお嬢様である。


 お嬢様いもうとから、”網戸に張り付く猫動画”のように言われ、憤慨ふんがいする環恩マニア

「やぁねぇ。先生も大人ですからぁ、最近、分別ふんべつというものを覚えましたよぉーっ」

 酸っぱいらしい缶ジュースを、グビリとあおる、スタイル抜群の残念美女。

「最近なのかよ」「そういうところも、グッとくるって言うか―――」


 残念美女が、ビタミンCを摂取しグビリながら、きらきらした表情で、眺め倒しているのは、キーホルダー程度の大きさサイズ


 肩までの褐色の髪色と同じフサフサのネコ耳。ネコ耳の内側には真っ白な遊び毛が生えてアクセントになっている。背中に魔術的な文様の入った、生成クリーム色のチューブトップ。帯剣の為の太い皮ベルトは、ウエストをきつく締めている。正面に大きくスリットが開いた花柄スカートの腰からは、何度も折れ曲がる太い尻尾が生え、尻尾はボタン紐で固定されている。ポシェットから覗くダイナマイトの導火線には、既に火が着いている。ラベンダー色のヘアピンで横分けにされ、片側だけあらわになる猫のひたい。腕に付いた腕時計型デバイスの表示部分に、わずかに残るレッドゲージ。愛くるしい表情に似合わない、鈍器のように太く、曲がりクネった根菜のような一対2本曲がり剣変形シックル

 そして、血塗れた切っ先を正眼へ向ける、ソノ姿はまさに、ミス物騒・・


 人生の大半を費やして、ようやく手に入れた骨董を弄ぶ、老齢の紳士のごとたたずまい。手にはバーボンでなく、カラフルなキャラが沢山描かれた缶ジュース。極めて稀少な材質で出来たチェス駒でなく、ボトルキャップ上の芸術品フィギュア


 明るいグリーン地に、オレンジ色の縫い目が描かれた壁。ソコから生えた簡素なテーブルには、禍璃マガリがリタイアした飲みかけ1本。ジュース缶と同じ太さの円柱カプセル4個。

 満足げな美女を取り囲んで談笑する制服姿β生の側には、高級厚紙が置かれてる。

「でも、”オウガ▲▲ニャン”出てくれて助かった」

「そうだぜ。倍くらい掛かるかと思ってたぜ」


「どう、姉さん? 満足した?」

「んふふふふっ、宝物が増えたわぁ!」

「……よかった」


「じゃー、みんなぁ、どれもらうかぁ決めたぁー?」

 復活リスポーンした美女が、胸をブルンと揺らしながら、高級厚紙を天高く掲げる。

「俺は、VRデバイス1択だぜっ!」

「えーあたしも」

「俺は、……やっぱり、あの筐体にしようかな」

 厳つい体型のキャラクタを掴んだ手で、さっきまでプレイしていた”トグル<人鬼入>オーガ”の筐体を指さす。

 笹木環恩ワオンVR専門家にして、スタイル抜群の美人特別講師が、全く興味を示さなかったため、一人1個ずつ分けた、厳つい逆三角形ダブリ


 頭部の真っ青な水牛風のツノは片方が折れている。肥大した上腕を、支えるべく隆起した上半身。繰り出す膂力りょりょくをうかがわせる、4つのボルトで締められた巨大なアームガード。グリップにバイクのブレーキのようなトリガが取り付けられており、鎖状のケーブルが、派手な軍服の袖を通ってバックパックへ連結されている。バックパックにはダイヤルのような機構が見て取れた。


「なんでっ。そりゃ、俺だって、この筐体欲しいぜ。 けどよ、今日みたいに出掛けてくりゃ、いつだってプレイ出来るじゃんか!?」


「ソレなんだけどな。コイツの中身・・利用する借りるのに、結局、製品版の使用許諾稼働品所持が、必要になるじゃん?」

「あ、ソッチの話か!?」


「また悪巧み!? 姉さん、コイツ等、なんか、コソコソやってんのよ」

 少年達をめつけ、指さす少女。


「昨日ぉ、鋤灼スキヤキ君のぉ、履歴みたから、先生には、なんとなく解ってますよぉ?」

 うふふふふ、と、妹の頭を撫で、なだめる美女に、もうポンコツの面影は無い。


鋤灼スキヤキ! どうするよオイ! 専門家にバレちまったゾ!?」

「ギャーーーー! ……って、今更取り乱してもなー」

「それもそうだなー」

 取り乱し、やがて諦観する若者2人。

「もっと形になってからって思ってたんだけどな―――」


「……んー先生はぁ、この”量子サーバー6基半クラスタ”を、貰って、ワルさん達の母艦にしようかと思ってたんだけどぉ」


「母艦? あいつら、PBCに入れっぱなしだとマズイの?」


「まずくもないですけどー、窮屈だったり、退屈させるとー、闇雲やみくも暴れ出バトルレンダしそうで、恐いじゃないですかぁー」

「まあ、確かに」シルシはしみじみと頷く。


「姉さん、いろいろ便利だから、開発者用のVRデバイス欲しいっていってたじゃない? いいの?」


「業務上はぁ、現行の魔女帽子でー、必要十分ですからぁ平気でーす。ソレよりもぉ、ワルさん達の謎のー仕様解析の方がぁ、急務ですし、ぶっちゃけ面白いですしおすしー」


「まーそれは解るぜ。アイツ等、無茶苦茶すぎて笑える、……でアイツ等は、カバンの中?」

「一応管理者サイドのぉ、直営お膝元ですからぁ、大人しくしてもらう為にに、””のメインスイッチも切りましたぁ」

「……メインスイッチ切っても、ワルコフが居たら意味ない気もするけど……」

 腕組みして、首を捻るシルシ

「”おやつ”進呈しましたしー、内蔵画素クローズドのぉー空間サンドボックス内で大人しくしてくれてると思いますよぉ-」

 だと、良いんだけどなぁ-。と逆の側に首を捻るシルシ


「それで、ブラックボックスユニットの件もあるしぃ、管理上の余裕を持つついでに、君達のお手伝いも出来・・・・・・・・・・たらと考えての・・・・・・・、量子サーバー確保です」

「そうね、出来ることは増やしておきたいわね。悪巧みは別にしても、鋤灼スキヤキは、何かVRシステムと因縁ありそうだしね」


「この、進呈ポイント、一人、20000Ptsって、余った分、寄せ集めて、使えりゃ良いのにな」


「贅沢言ってもぉ、キリ無いわよぉー」「そうだぜ」「直接、相談しようにも、もう引き替え窓口、締まっちゃったしな」

 アファファファと笑う美女と男子生徒2人。


「アンタが、ゲーム止めないから悪いんでしょうが!」

 詰め寄る小柄な少女に、座った椅子を、蹴られる刀風カタナカゼ傍観ぼうかんして、哀れみの表情を向けていた、シルシには、罰ゲームのつもりなのだろう、

「アンタこれ、勿体ないから飲みなさい」

 と、自分の飲みかけを押しつけた。

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