エピローグ R:?点
照りつける炎天下、滲む汗を拭い手桶を下ろそうとしたら既に先客がいた。
軽く頭を下げると、多分無表情で深々とお辞儀をした。それからすっと背を向け歩き出す。
一度車に戻って時間をずらすのが筋であろう。
「あの、いつもお花ありがとうございます。」
声をかけられて、振り向いた。彼女によく似ているが、目元や口元が似ていない。でも、逆光ならば見間違えたかもしれない。類似した声に眩暈がする。
「いえ。あの、ずっと黙ってたんですけど…。」
夏によく似合う向日葵を中心にした花束をぐっと握り締める。ずっと大事に胸にしまっていた自分だけの真実。
「転落の前、電話がかかってきたんです。はっきりは聞こえなかったから、空耳だったかもしれない。だから今まで誰にも言えなかったけど…。明日も会いたい、そう言ったんだ、君のお姉さん。」
絶望が作り出した幻聴かもしれない。けれども立ち上がるには十分な夢。
消えたいという気持ちで傷だらけになっていたのかもしれないが、いつだって笑っていた彼女。
あの眩しい屈託のない笑顔は偽物なんかじゃない。
きっと。
「それって。」
「考えてること、きっと正解だと思う。」
うまく笑えたか分からないが俺は彼女の妹に背を向けた。面影のある顔を見れるほどまだ立ち直れていない。涙が零れそうで澄み渡った青い空を見上げながら駐車場へと戻った。
溶けて消えてしまった彼女の気持ちを、やっと伝えることが出来たことと自分だけの秘密を失って、彼女を永遠になくしたような気分になった。
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