異世界仙人の見る夢は

apop

序章 復活

第1話 仙人の目覚め

 ゆっくりと意識が覚醒する。

 今さっきまで見ていた夢がスルスルと遠のいていくのがとても惜しい。愛おしむように夢の記憶を反芻はんすうする。


 ああ、もう目覚めてしまう。

 淡い光が揺ら揺らと目覚めを誘う。そうか、夢を見ていたんだ。

 ゆっくりと瞼を開く。水底に射し込む水面みなもの光が青く揺らめいてとても眩しい。

 そうして玄室げんしつ羊水ようすいに満ちた石棺の中で、永い眠りから目覚め、私は復活をとげた。



 その世界には仙人せんにんと称される一族があった。

 先ほど目覚めたのはその一人、ローデヴェイク・デ・ランゲ・アルシュヴァラ。かつてはローデヴェイクおう、またはただ単にロ翁ロオウと呼ばれた男だ。

 復活したばかりの現在の姿は若木のような青年だが、実のところは枯れて苔むした古老であった。


 仙人は長命な種族と言われているがそれだけではない。肉体の寿命が近づくと自ら眠りにつき、やがて再生し復活を遂げる。

 人跡未踏の聖域には仙人の眠る岩室いわむろがあり、清浄な羊水で満たされた石棺には胎児のような仙人が眠っているということだ。


 再生復活を永い年月繰返すことで仙人は智慧と技を積み上げる。それは仙術とも法力とも呼ばれ人々を惹きつけてやまない。

 しかし今ではその仙人が人前に姿を見せることはまれである。伝説や神話として語られることはあっても、その実在を信じていない者の方が遥かに多いのだ。



 ロ翁ロオウが目覚めた場所は、仙人が再生復活の眠りのために守り抜く『仙人の玄室』と云われる岩室で、強固な結界が編まれ何人をもはばむ深山幽谷、仙境に在る聖地だ。

 水の中でゆらりと起き上がったロ翁ロオウは、背丈の倍ほどの深さに床を掘り下げて造られた大きな石棺の底をトンと蹴って、暖かい羊水の中を静かに浮かび上がり水面に顔を出した。



「かはっ、はぁっ、ひぃぅ」

 水面に出たとたん、肺の中から羊水が吐き出され細い息で空気が吸い込まれる。ああ何度経験してもこの瞬間は本当に苦しい。


 水から上がり浮力を失った重い体をようやく持ち上げて玄室の床に立ちあがると室内を見渡す。

 岩壁は滑らかに整えられ淡く光り、天井は高く空気は清浄さを保っている。

「何も変わりはないようだな」

 眠りにつく前に用意しておいた大きな布が衣桁に掛かっている。柔らかいそれに顔をうずめ頭から被って玄室を後にした。

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