第18話 魔法騎士③

 早速ですまんが、前言撤回させてくれ。痛い。

 どれくらい痛いかというと、自分の体が剣に変わって、その剣を鋼鉄にがしがしとぶつけまくるぐらい痛い。そのまんまですまんがそういうことだ。

 要は、俺は今武藤さんの持つ剣なのね。そして痛覚がなくなっているわけではないのね。

 声がだせるなら、叫んでいるくらいだ。いや、何度となく叫んでいる。


「ぎゃあ」とか「いて~!」とか。


 しかし武藤さんからは、

「ごめん」とか「我慢して」とかそんな短い返答。


 とにかく武藤さんは俺の身の上にはとんと配慮せずに、甲冑騎士と切り結ぶ。

 剣道の心得があるのか、相変わらずスーパーウーマンな武藤さんは相手を上回るスピード、技術で対応している。

 剣と剣がぶつかるのは三回に一回ぐらいであとは、剣と化した俺で甲冑騎士の装甲をびしがしと、四肢をボディを打ち据える。

 だが、そこは、固い鎧で全身を固めた騎士である。剣での攻撃をくらってもさほどのダメージは、受けていない。

 だが、それを打開するための下準備、前ふりは既に行われている。

 武藤さんは剣で相手とちゃんちゃんばらばらしながらも、魔法を唱えているのだ。


「獄炎剣!!」


 短く叫ぶ武藤さん。とたんに剣が、炎で包まれる。幸いなことに俺にまで熱さは伝わってこなかった。これで熱かったら洒落にならない。精神的ダメージだけで昇天しかねない。


 とにかく、武藤さんの剣――つまり俺――に炎の属性が追加された。

 それも並大抵の炎ではなく、灼熱。

 相手の剣を溶かし、鎧を溶解させる。そんなイメージでいたのだが、この魔法剣の威力、そんなもんではなかった。

 剣をあてた箇所が燃え盛る。そして燃え続ける。

 たちまち甲冑騎士は炎に包まれた。

 そろそろ仕上げなんだろう。

 武藤さんは、またもや呪文の詠唱を始めた。

 必殺の剣。


「ライディーンクラッシュ!!」


 先に技名を叫んだ武藤さん。そして剣を高く掲げる。

 いつのまにやら、空には雷雲が立ち込める。その雷雲から、一筋の稲妻が剣へと舞い降りる。もちろん武藤さんが感電することもなく、ただ単に剣が帯電し、炎の属性から、雷の属性へとチェンジ。


「くらぇぇ!」


 剣を腰だめにして構える武藤さん。


「ファシリア! ライディーンクラッシュ!」


  自分の名前を冠した二度目の雄叫びは即技の発動の合図。掛け声とともに、剣を横なぎに払う。

 甲冑騎士とは距離があった。

 が、距離なんて関係ない。剣から放たれた荒れ狂う稲妻が、どういうことだか鳳凰のような形を成しながら、飛翔した。たけ狂う雷鳴。

 まずは甲冑騎士の胴体を真っ二つに両断する。ついでにその余波でもって、残りの部分を粉々に粉砕する。


 もはや魔法なのかなんなのか。

 とにかく、人の形をとっていた甲冑は消え失せ、あたり一面にはその破片がちらかっているだけだ。

 と、ご都合主義というなかれ。抜群のタイミングでミエラと市ノ瀬が意識を取り戻しつつあるようだ。


「ふうぅ」と息を吐く武藤さん。

 その姿が、鎧に包まれたそれから、制服姿へと変貌する。同時に俺の体も元に戻る。


「うっ……つつ……」


 よろよろと立ち上がるミエラ。


「なんや……ええっと、うちどないなって……」


 土砂に埋もれていた市ノ瀬も無事だ。


「あいつは……アリマ=ファシリア、あんたが倒したのか?」


 ミエラが武藤さんに問い詰める。


「ええ、なんとか……」と武藤さん。


「あっちゃ~。うち肝心なとこ見逃したみたいやなあ」


 とは市ノ瀬の言葉。

 見なくていいよ。あんなシーン。恥ずかしいったらありゃしないから。

 が、その時、なにやらガシャガシャと音がする。

 全員の視線――武藤さん、ミエラ、市ノ瀬、そして俺――が、その方向に集まった。視線の先にあったのは、先程武藤さんが、粉砕した甲冑騎士の破片だ。

 まさか、復活? そんな恐ろしい光景が目に浮かんだ。


「あいつ……再構成するのか……」


 ミエラも同様の推測に辿り着いたようだ。


「そ、そんな……」


 武藤さんも、驚愕の表情でそれをみる。

 が、破片がふたたび、鎧騎士の形をとることはなかった。

 破片全体が光始めたと思うと、飛び去っていった。

 その軌跡は弧を描き……、校舎の屋上へと舞い降りたように見える。


「まさか……あそこに……?」


 ミエラが走りだす。

 つられて俺達も追いかけた。その頃には、魔空間は消滅し、通常の学校風景が広がっていた。

 中庭を走りぬけ、下駄箱をショートカットし、土足のままで校舎に侵入。

 もちろん、ごく普通の県立高校である我が校にはエレベータやエスカレータのような設備は存在しない。

 4階まである教室階を一気に階段で駆け上がり、さらにその上の屋上まで。

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