第3話
「ということで、今日から真面目に就活をします!」
麗らかな朝食の場で高らかに宣言する僕に、晴仁が目を瞬かせた。
そして数秒遅れて「ああ」と反応を見せた。
「そういえば、こーすけは就活中だったんだね。なんだかすっかり忘れていたよ」
さわやかに笑って晴仁が言う。
同居人に忘れられるって、僕はどれだけ就活から遠ざかっていたんだ……。
心の内で猛省していると、晴仁は「でも」と言い加えた。
「僕はこーすけが家のことをしてくれていて本当に助かっているから、別にこのままでもいいけどな」
「え?」
思わぬ返答に僕が呆けていると、晴仁がお味噌汁をすすってから言った。
「つまり、こーすけが家事をしてくれて僕も助かっているから、無理してわざわざ仕事を見つけなくてもいいよってこと」
「いやいや、それはさすがに、どうなんだろう」
35歳、独身、専業主夫。
時代は男女平等へ向かっているとはいえ、よろしくない肩書きだ。
こんな男と結婚してくれる女性なんて万に一もいないだろう。
「いいじゃない。専業主夫。お給料なら僕が出すよ。吉井家の専業主夫、うん、言い響きだ」
冗談なのか本気なのか分からない調子で、晴仁は上機嫌に頷く。
「いやいや、だめだ!」
「どうして?」
慌てて否定に入った僕に、晴仁が首を傾げる。
「友人に専業主夫として雇ってもらうなんて申し訳ないし、体裁も悪いし、それに僕もいずれは結婚して家庭を築きたいわけだから……」
最後の方は恥ずかしくてもごもごとなってしまう。
「と、とにかく、晴仁の善意はありがたいけど、いつまでも晴仁に甘えるわけにはいかないし、生きていく上では就職は必須なんだ。だから、今日からがんばる」
そう言い切って、僕は隣の椅子に置いていた履歴書と求人雑誌をドン、とテーブルの上に置いた。
「就活が忙しくて少し家事が行き届かなくなるかもしれないけど、できる限りがんばるから」
なのでよろしくお願いします、と頭を下げると、晴仁の口から小さな笑いが零れた。
「そんなこと気にしなくていいのに。本当にこーすけは真面目だね。そのいい所が会社側にも伝わるようにがんばってね」
「ああ! がんばる!」
優しい励ましの言葉を受け、僕は意気込んで力強く答えた。
よし! がんばって、早く無職から脱するぞ!
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