第11話
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「麻奈美さん、今日はヘルプの指名ありがとうございます! 麻奈美さんとまた話したかったのですごく嬉しいです」
そう言って麻奈美さんが座るテーブルのヘルプ席に腰を下ろすと、彼女がくすくすと笑った。
「言葉だけ聞くと社交辞令なのに、コウさんが言うとまるで本当にそう思っているみたいに聞こえるから不思議ですね」
「本当にそう思っているからですよ」
「ふふふ、ありがとうございます」
ホストクラブらしくない和やかな雰囲気が僕らの間に漂った。
縁側でひなたぼっこをしているような気分になる。
厨房ではピアッサーの恐怖にさらされ、ホールではお客様への緊張が張りつめるそんな中、彼女との時間は最早癒しだった。
「お酒何か飲まれますか?」
「んー、そうねぇ……」
メニュー表を見ながら彼女が柔らかな黒髪を耳にかけた。
耳たぶに光るものに僕は目を丸くした。
「え! 麻奈美さんってピアスしていましたっけ?」
僕は驚きを隠せなかった。
以前会った時は、耳元が髪で隠れていたのでピアスをしていたかどうかは分からないが、清楚なイメージが彼女にはあったので意外だった。
しかも女性らしい可愛いモチーフのものではなく、太めの重い鈍色のリング型で、ふんわりとした彼女の中でそれは明らかに浮いていた。
正直なところ、あまり彼女に似合うとは思わなかった。
だからと言って、まさか「似合わない」と言えるわけもない。
だが、自分は嘘をつくのが下手だから社交辞令で「似合いますね」と言ってもすぐに見破られてしまう気もする。
自分で話題を振っておきながら、どうしようとまごついていたが、彼女は僕のことなど気にせず、少し恥ずかしそうに微笑みながらピアスを触った。
「一昨日、久しぶりに買ってつけたんです」
「そうなんですね。すごいなぁ。僕は耳たぶに穴をあけるっていうのが怖くて……」
苦笑しながら頭を掻く。
「私も初めて穴をあける時は怖かったですよ。でも、蓮とお揃いにしたかったから頑張ったんです。ちなみにこれも蓮が一昨日買ったのと同じものなんです」
少し誇らしげにも見える笑みで彼女はそう言った。
そういえば蓮さんもピアスをたくさんしているが、正直、どれがどう違うかよく分からない。
よく新しいピアスに気づくなぁ、と感心すると同時に、一昨日彼女は店に来ただろうか? とふと疑問に思った。
でもよく考えると、店外デートというサービスもあるので店の外で会っているのかもしれない。
いやもしかすると、実は麻奈美さんが本命の彼女だということもあり得るかもしれない。
そうなると、他のホストから彼女が蓮さんにとって特別に見えるのも頷ける。
というのは、憶測と言うより僕の願望だ。
こんなにいじらしく想っている彼女をみるとそうだといいなと思う。
「どうしたんです? にこにこしてますね」
彼女が不思議そうに僕の顔を覗く。
「い、いえ、なにも! あ、飲み物決まりました?」
僕は慌てて首を振って話題を変えた。
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