召喚術師と召渾士 7

「そんなワケで、『ゲート』はコッチでキャッチしといたから、感心するネ」

「それは安心する、ですよー! ザラさん!」

「そうだったねリサ! HAHAHAHAHA!」


 ザラは陽気に笑い、道端にぐったりと座り込む三人を見た。彼女は今日も、豊かな胸とくびれた腰を見せつけるかのような服を着ている。


「ほらほら、イロイロおサッシしたワタシがヘルプに来てあげたんダカラ、ゲンキだすネ!」

「助かった……けど、もう少し早く来て欲しかったわ」

「セリナちゃん結構かわいいし、悪い子じゃないんだけどなー」

「ずーっと耳元でささやかれてるようなあの感覚が……言霊ことだまは聞き流せないからどうしようもなくて」


 世里奈せりなはザラからの伝言を聞き、仕事があるからと言って『アパート』へ戻っていった。


「お仕事があるのはホントウなのヨ。セリナはちょっとモウソウでボウソウするシャイガールだけどナイスガールだし、説得とか連絡とか、とっても九州ガールなのヨ」

「あ、あたし、また分かっちゃいました! 『優秀』! 優秀ガールですよね! ザラさん!」

「情報漏洩とかしそう」

「……そこらへんは、モンダイナイね」


 ぽつりと言った祥太郎への返答には、なぜか少しの間があく。


「そんな魅惑の目で見なくても、そうなのヨ。サプライズイベントとかは、うっかりオモラシしちゃうケド、仕事はきっちりかっちりこなすのネ」

「魅惑? ……『疑惑の目』かな? 僕にはなんか物凄く危うく聞こえるんだけど」

「お前がエロい目で見たってことじゃねーの? まー、世里奈ちゃんは大体会うたびあんな調子だが、言霊師ことだましの家としちゃ由緒あるとこだし、そこら辺は抜かりなくやってんだろ」


「ちげーし! 確かに目のやり場には困る――じゃなくて、さい神楽坂かぐらざかさんとそんなによく会うわけ? あんだけ遭遇を回避しようとしてたのにさ」

「家同士の付き合いがあるから」


 その問いには、マリーが答えた。


「わたしはイギリスにいたし、あまり縁がなかったけれど」

「ショタロは、センセイに教わってナイの?」

「え? どういうこと?」

「ザラさん、いーのいーの! 俺らの代には関係ねーことだし! 祥太郎しょうたろうは今のままの祥太郎でいいって!」

「改めて考えると、専門的な教育も受けずに今のクオリティで能力使えるって凄いわよね……」

「え? え? マジでどういうこと?」


 混乱する祥太郎をよそに、才の『コンダクター』が軽やかな音を立てながら光る。


『私だ。皆、いるかな? そちらのマスターと話がついたから、これよりナレージャ君とカリニ君を連れて、アーヴァーへと向かってもらいたい』

「これから? またずいぶんと急だな」

『少し「ゲート」が不安定なようでね。才君にはこちらに残ってもらって、モニタリングをお願いすることにはなるが』

「ハロハロ! ごぶさたブリブリ、ザラよ」


 横からザラが『コンダクター』を覗き込み、手を振った。


「Oh、マスター! いつのまーにかヤングマンになっちゃったのネ」

『まぁ、色々とあってね。今回も前回と同様、ザラ君にも参加してもらうこととなった』

「こっちのカンカツだし、うちのアパートにもメンマがあるからよネ。オーケーオーケー、ズドーンと任せるのヨ。ワタシも、ミンナとまたお仕事、楽しみネ!」

「メンツね」


 元気を取り戻したマリーが一言突っ込んでから、にっこりと笑う。


「わたしもザラと一緒にお仕事が出来て嬉しいわ。マスター、時間はどのくらいありますか? 少し準備が出来たらと思いますので」

『そうだね……では、1時間後に出発という事でよろしく頼むよ』

「かしこまりまして。――じゃあザラ、また後でね」

「ザラさん、よろしくお願いします!」


 それから、皆の視線は祥太郎へと集まる。異界派遣は二回目。不安や緊張もあるが、楽しみという気持ちも確かにあった。

 まずは、慣れ親しんだ『アパート』を、強く思い浮かべる。


「……じゃ、行こうか」


 ◇


「ここが……アーヴァー」

「なーんも、ありゃしないのネ」


 マリーの言葉を、ザラが引き継ぐ。

 『ゲート』を潜り抜けた先に広がっていたのは、見渡す限りの荒廃した景色だった。


「広いですねー!」

理沙りさちゃん、あんま前に出ると危ないんじゃ……!」


 赤茶けた大地にそびえ立つ崖。その一角に一同は立っている。

 普段はお目にかかれないような光景に、距離感や平衡感覚まで狂ってしまいそうだ。


「大丈夫です! あたし、師匠の家とかジムで、こういうの慣れてますし! ナレージャさん、カリニさん、とにかく帰ってこられて良かったですね!」


 そこへ、乾いた風が吹く。

 故郷を懐かしむように目を細めたナレージャとカリニの服がはためいた。


「……あれれ?」

「ナレージャさん、どうしたんですか?」

「ここって、本当にアーヴァーですか?」

「えっ? 違うんですか?」

「ちが――わないかもしれないですけど、ぜんっぜん、見覚えがない場所なんで……グランディオラはもっと緑豊かで、建物もいっぱいありますし。旅行とかも行きましたけど、ここまで何にもないとこには来たことないですね」

「まさか、別の世界にたどりついた……なんてことはないわよね」

「マジで!? そんなことあんの?」

「ちゃんちゃんと調べたカラ、ダイジョブと思うケド、時々うっかりさんもあるみたいヨ?」


 ここまで来て急に襲ってきた不安。


「……いや、ここはアーヴァーに間違いない」


 それにぼそり、と答えたのはカリニだった。

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